[PA20] 教職志望動機を測定するFIT-Choice尺度の結果は大学間で比較できるか
Keywords:教員養成, 教職志望動機, 質問紙
問題と目的
現在,日本の大学における教員養成課程では,主に文部科学省によるミッションの再定義を経て,以前にも増して,教職を強く志望する学生を募集するようになっている。そのため,教員養成課程に在籍する学生の教職志望動機の内実は,教員養成に携わる大学教員にとって,把握すべき重要な教学情報の1つであると言える。しかしながら,これまでのところ,本邦の教員養成課程で標準的に利用されている尺度はまだ見当たらない。そこで,本研究は,現在国際的に広く利用されているFIT-Choice尺度(The Factors Influencing Teaching Choice, Richardson & Watt, 2006)を用いて,その結果を大学間比較のために活用できるかどうか検討することとした。
方 法
対象 四国,東海,関東の大学計4校(A大学487名,B大学382名,C大学122名,D大学172名,全て有効回答者の人数)。
質問紙 FIT-Choice尺度日本語版(Richardson & Watt, 2006; 富田,2016)を用いた。B尺度(教職選択に影響する要因),C尺度(教授に関する信念),D尺度(意思決定に対する質問)から構成されている。
手続き 質問紙を大学の授業等の終了後に一斉に配布し,ボランティアで回答を依頼した。教示内容については,富田(2016)の通りである。
結果と考察
Kılınç, Wattb & Richardson(2012)に準じ,B尺度とC・D尺度それぞれにおいて,確認的因子分析をおこなった。B尺度では,富田(2016)でFallback Career因子とJob Transferability因子の信頼性が低いことが見出されているため,削除して分析した。
多母集団同時分析による確認的因子分析をTable 1及びTable 2に示す。上からそれぞれfit.configuralはグループで同じ因子構造,fit.loadingsはグループ間で同じ因子負荷量,fit.interceptsはグループ間で同じ因子負荷量と切片という制約を示す。CFIの変化量(⊿CFI < .01)から,Table 1ではグループ間で因子負荷量と切片が全グループで同じとみなせることから,潜在因子の平均をグループ間で比較することができる。Table 2では,グループ間で因子負荷量が同じと見なすことができる水準に留まるが,fit.interceptsの適合度指標を見ると,Table 1よりも適合度が高い。
以上から,FIT-Choice尺度日本語版の結果を潜在因子の平均において比較することは問題ないと考えられる。
引用文献
Kılınç, A., Watt, H. M., & Richardson, P. W. (2012). Factors influencing teaching choice in Turkey. Asia-Pacific Journal of Teacher Education, 40(3), 199-226.
Richardson, P.W. & Watt, H.M.G. (2006). Who chooses teaching and why? Asia-Pacific Journal of Teacher Education, 34(1), 27-56.
富田英司 (2016). FIT-Choice 尺度日本語訳の試み ―教職志望動機を測定する国際的な尺度― 日本教育心理学会第58回総会発表論文集, 324.
現在,日本の大学における教員養成課程では,主に文部科学省によるミッションの再定義を経て,以前にも増して,教職を強く志望する学生を募集するようになっている。そのため,教員養成課程に在籍する学生の教職志望動機の内実は,教員養成に携わる大学教員にとって,把握すべき重要な教学情報の1つであると言える。しかしながら,これまでのところ,本邦の教員養成課程で標準的に利用されている尺度はまだ見当たらない。そこで,本研究は,現在国際的に広く利用されているFIT-Choice尺度(The Factors Influencing Teaching Choice, Richardson & Watt, 2006)を用いて,その結果を大学間比較のために活用できるかどうか検討することとした。
方 法
対象 四国,東海,関東の大学計4校(A大学487名,B大学382名,C大学122名,D大学172名,全て有効回答者の人数)。
質問紙 FIT-Choice尺度日本語版(Richardson & Watt, 2006; 富田,2016)を用いた。B尺度(教職選択に影響する要因),C尺度(教授に関する信念),D尺度(意思決定に対する質問)から構成されている。
手続き 質問紙を大学の授業等の終了後に一斉に配布し,ボランティアで回答を依頼した。教示内容については,富田(2016)の通りである。
結果と考察
Kılınç, Wattb & Richardson(2012)に準じ,B尺度とC・D尺度それぞれにおいて,確認的因子分析をおこなった。B尺度では,富田(2016)でFallback Career因子とJob Transferability因子の信頼性が低いことが見出されているため,削除して分析した。
多母集団同時分析による確認的因子分析をTable 1及びTable 2に示す。上からそれぞれfit.configuralはグループで同じ因子構造,fit.loadingsはグループ間で同じ因子負荷量,fit.interceptsはグループ間で同じ因子負荷量と切片という制約を示す。CFIの変化量(⊿CFI < .01)から,Table 1ではグループ間で因子負荷量と切片が全グループで同じとみなせることから,潜在因子の平均をグループ間で比較することができる。Table 2では,グループ間で因子負荷量が同じと見なすことができる水準に留まるが,fit.interceptsの適合度指標を見ると,Table 1よりも適合度が高い。
以上から,FIT-Choice尺度日本語版の結果を潜在因子の平均において比較することは問題ないと考えられる。
引用文献
Kılınç, A., Watt, H. M., & Richardson, P. W. (2012). Factors influencing teaching choice in Turkey. Asia-Pacific Journal of Teacher Education, 40(3), 199-226.
Richardson, P.W. & Watt, H.M.G. (2006). Who chooses teaching and why? Asia-Pacific Journal of Teacher Education, 34(1), 27-56.
富田英司 (2016). FIT-Choice 尺度日本語訳の試み ―教職志望動機を測定する国際的な尺度― 日本教育心理学会第58回総会発表論文集, 324.