[PA40] 聴解力が心内辞書の構造に及ぼす影響
中国人日本語学習者を対象とする
Keywords:心内辞書, 漢字音声処理, 聴解力
問題と目的
第一言語(L1)の特性が第二言語(L2)としての日本語の語彙処理に強く影響することが広く議論されている(e.g.玉岡,2000,2002)。中国語をL1とする日本語学習者はL1の漢字知識に大きく頼るため,高い読解力があるが,必ずしも高い聴解能力があるとは言えないことが示されている(小森,2005)。L2の習熟度が音声語彙処理に影響を及ぼすと言われている(邱,2003)が,読解力は高い一方で,聴解力が低い日本語学習者がいる。読解力は同じ程度高いが聴解力は異なる理由が心内辞書の構造とかかわると考えている。しかし,読解力は同じ程度高いが聴解力は異なる学習者の心内辞書の構造が異なるのかについてまだ明らかにされていない。本研究では,プライミング効果を用いて,中国語をL1とする上級日本語学習者の心内辞書における日本語の音韻表象から意味表象までの連結の強さに聴解力がどのような影響を及ぼすのかを検討した。
方 法
参加者と実験計画 中国で日本語を学習している学部生と大学院生が30名参加した。全員が日本語能力試験の一番高いレベルであるN1に合格している。
材料 語彙の連想課題による予備調査を行って,プライム語とターゲット語を40セット選んだ。プライム語とターゲット語の各種類の単語群について,日中のデータベースに基づいて,語彙の頻度及び難易度を統制し,28セットのプライム語とターゲット語を刺激語として特定した。日中音韻が類似しているプライム語と日中音韻が類似していないプライムは各14個である。
手続き 読解力と聴解力を測るテストを行い,語彙性判断課題に参加する学習者を特定した。参加者の条件(読解力高,聴解力低;読解力高,聴解力高)を満たす学習者が本実験に参加した。本実験は個別に行った。実験では,プライム語が音声呈示され,ターゲット語が視覚呈示された。意味関連条件28試行と意味無関連条件28試行がある。56のフィラ―試行を加えて,112の試行を四つのブロックに分けて行った。
結果・考察
30名の参加者の内,聴解テストと読解テストの成績に基づいて参加者の条件に達している26名を特定した。26名は二つのグループに分けられた。日本語の平均学習歴は,聴解力が低いグループは3.8年だった。聴解力が高いグループは5.4年だった。二つのグループの間に読解テストの正答率(聴解力高:90%;聴解力低:84%)の有意差がなかった(t(24)=-1.6,p=.105)が聴解テストの点数(聴解力高88%;聴解力低:63%)には有意差があった(t(24)=-7.9,p<.001)。語彙性判断課題の反応時間について,聴解力が高い学習者と聴解力が低い学習者の各条件における平均正反応時間をTable1とTable 2に示す。それぞれの聴解力において,音韻類似性(2)×意味関連性(2)の2要因分散分析を行った。聴解力が高い学習者において,音韻類似性と意味関連性の交互作用も有意であった(F(1,12)=22.187,p=.001)。単純主効果の検定を行った結果,日中音韻が類似しているかどうかに関わらず,意味関連の条件におけるターゲット語が意味無関連の条件にけるターゲット語より反応時間が有意に短かった(音韻類似:t(12)=-7.000, p<.001;音韻非類似:t(12)=-2.802, p=.016)。一方,聴解力が低い学習者において,音韻類似性と意味関連性の交互作用が有意であった(F(1,12)=12.765,p=.004)。単純主効果の検定を行った結果,日中音韻が類似している際に,意味関連性の主効果が有意な傾向が見られた(t(12)=-1.899, p=.082)。日中音韻が類似していない際に,意味関連性の主効果は見られなかった(t(12)=1.323, p=.211)。
日中音韻が類似している際に,聴解力は高い学習者における意味関連性の主効果(117.22ms)が聴解力は低い学習者における意味関連性の主効果(47.93ms)より大きかった。日中音韻が類似していない際に,聴解力が高い学習者における意味関連性の主効果が見られたが,聴解力が低い学習者における意味関連性の主効果が見られなかったということから,聴解力は高い学習者の心内辞書における音韻表象から意味表象までの連結が聴解力は低い学習者のより強いということが言える。
第一言語(L1)の特性が第二言語(L2)としての日本語の語彙処理に強く影響することが広く議論されている(e.g.玉岡,2000,2002)。中国語をL1とする日本語学習者はL1の漢字知識に大きく頼るため,高い読解力があるが,必ずしも高い聴解能力があるとは言えないことが示されている(小森,2005)。L2の習熟度が音声語彙処理に影響を及ぼすと言われている(邱,2003)が,読解力は高い一方で,聴解力が低い日本語学習者がいる。読解力は同じ程度高いが聴解力は異なる理由が心内辞書の構造とかかわると考えている。しかし,読解力は同じ程度高いが聴解力は異なる学習者の心内辞書の構造が異なるのかについてまだ明らかにされていない。本研究では,プライミング効果を用いて,中国語をL1とする上級日本語学習者の心内辞書における日本語の音韻表象から意味表象までの連結の強さに聴解力がどのような影響を及ぼすのかを検討した。
方 法
参加者と実験計画 中国で日本語を学習している学部生と大学院生が30名参加した。全員が日本語能力試験の一番高いレベルであるN1に合格している。
材料 語彙の連想課題による予備調査を行って,プライム語とターゲット語を40セット選んだ。プライム語とターゲット語の各種類の単語群について,日中のデータベースに基づいて,語彙の頻度及び難易度を統制し,28セットのプライム語とターゲット語を刺激語として特定した。日中音韻が類似しているプライム語と日中音韻が類似していないプライムは各14個である。
手続き 読解力と聴解力を測るテストを行い,語彙性判断課題に参加する学習者を特定した。参加者の条件(読解力高,聴解力低;読解力高,聴解力高)を満たす学習者が本実験に参加した。本実験は個別に行った。実験では,プライム語が音声呈示され,ターゲット語が視覚呈示された。意味関連条件28試行と意味無関連条件28試行がある。56のフィラ―試行を加えて,112の試行を四つのブロックに分けて行った。
結果・考察
30名の参加者の内,聴解テストと読解テストの成績に基づいて参加者の条件に達している26名を特定した。26名は二つのグループに分けられた。日本語の平均学習歴は,聴解力が低いグループは3.8年だった。聴解力が高いグループは5.4年だった。二つのグループの間に読解テストの正答率(聴解力高:90%;聴解力低:84%)の有意差がなかった(t(24)=-1.6,p=.105)が聴解テストの点数(聴解力高88%;聴解力低:63%)には有意差があった(t(24)=-7.9,p<.001)。語彙性判断課題の反応時間について,聴解力が高い学習者と聴解力が低い学習者の各条件における平均正反応時間をTable1とTable 2に示す。それぞれの聴解力において,音韻類似性(2)×意味関連性(2)の2要因分散分析を行った。聴解力が高い学習者において,音韻類似性と意味関連性の交互作用も有意であった(F(1,12)=22.187,p=.001)。単純主効果の検定を行った結果,日中音韻が類似しているかどうかに関わらず,意味関連の条件におけるターゲット語が意味無関連の条件にけるターゲット語より反応時間が有意に短かった(音韻類似:t(12)=-7.000, p<.001;音韻非類似:t(12)=-2.802, p=.016)。一方,聴解力が低い学習者において,音韻類似性と意味関連性の交互作用が有意であった(F(1,12)=12.765,p=.004)。単純主効果の検定を行った結果,日中音韻が類似している際に,意味関連性の主効果が有意な傾向が見られた(t(12)=-1.899, p=.082)。日中音韻が類似していない際に,意味関連性の主効果は見られなかった(t(12)=1.323, p=.211)。
日中音韻が類似している際に,聴解力は高い学習者における意味関連性の主効果(117.22ms)が聴解力は低い学習者における意味関連性の主効果(47.93ms)より大きかった。日中音韻が類似していない際に,聴解力が高い学習者における意味関連性の主効果が見られたが,聴解力が低い学習者における意味関連性の主効果が見られなかったということから,聴解力は高い学習者の心内辞書における音韻表象から意味表象までの連結が聴解力は低い学習者のより強いということが言える。