日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA45] 大学生の適応感とボランティア活動への参加成果志向との関係

荒井俊行 (早稲田大学)

キーワード:ボランティア活動, 適応感, 参加成果志向

問題と目的
 近年,大学教育においては,ボランティア活動を正課教育に取り込むことや学生ボランティアセンターを設置するなどの支援が行われるようになった(奥山ほか,2010)。しかしながら,20歳代のボランティア活動への参加状況は,他の世代に比べ低く,また,「小・中・高等学校の授業の一環として」のボランティア活動体験は,大学入学以降のボランティア活動に結びつかない(荒川ほか,2006)など,若い世代での継続的な参加が定着したとは言い難い(荒井・野嶋 ,2017)。
 そこで,本研究では,大学生のボランティア活動の推進やボランティア教育のあり方に繋がる知見を得るため,大学生の大学環境での適応感とボランティア活動を通じて得たい参加成果志向との関係について検討することを目的とした。

方  法
調査協力者:本調査における協力者は,関東地方3校の大学生154名(男子99名,女子55名)平均年齢は19.32歳(SD=1.24)であった。
手続き:2016年6月から7月に,質問紙を講義時間中に配布し,その場で回収した.
質問紙の構成:(1)ボランティア活動の参加経験ならび今後の参加意志の有無.(2)参加成果志向:荒井・野嶋(2017)の5因子34項目.(3) 青年用適応感尺度:大久保(2005)の4因子30項目.

結果と考察
適用感の参加経験・参加意志の差:ボランティア活動の参加経験の有無及び参加意志の有無によって適応感が異なるのかを検討するため,参加経験の有無と参加意志の有無を独立変数,青年用適応感尺度(以下「適応感」)を従属変数とした2要因の分散分析を行った。その結果,適応感のうち,居心地の良さの感覚(F(1,150)=5.637,P<.05),課題・目的の存在(F(1,150)=3.941,P<.05),被信頼・受容感(F(1,150)=6.087,P<.05)に参加意志の主効果がみられ,志望群の方が非志望群よりも有意に得点が高かった。このことは,参加志望者は,非参加志望者よりも参加経験の有無に拘わらず大学環境において居心地の良さの感覚,課題・目的の存在,被信頼・受容感に関して適応していると意識していることが示唆された。
適応感と参加成果志向との関係:次に,適応感と参加成果志向との関連を検討した。適応感を独立変数,参加成果志向を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果,居心地の良さの感覚は,参加成果志向の評価承認(β=.22)に正の影響を及ぼした。課題・目的の存在は,精神的高揚(β=.23)に正の影響を及ぼした。被信頼・受容感は,精神的高揚(β=.21),評価承認(β=.21)に正の影響を及ぼした。劣等感の無さは,自己成長(β=-.24),精神的高揚(β=-.24),キャリア開発(β=-.33),ヘルス安寧(β=-.40),評価承認(β=-.35)のいずれにも負の影響を及ぼした。これらのことは,大学環境において居心地の良さの感覚,課題・目的の存在,被信頼・受容感が適応していると意識するほど, 参加成果への期待が高まり, 劣等感の無さが適応していると意識するほど, 参加成果への期待は低くなることが示唆された。

引用文献
荒川裕美子・保住芳美・吉田浩子(2006).小・中・高等学校におけるボランティア体験と大学生のボランティア観の関連 川崎医療福祉学会誌,16(1),133-139
荒井俊行・野嶋栄一郎(2017).大学生のボランティア活動への参加成果志向が参加志向動機・不参加志向動機に及ぼす影響 日本教育工学会論文誌,41(1),97-108
奥山みき子・中北裕子・日比野直子・山路由実子・伊藤薫,伊藤孝治(2010).三重県立看護大学生のボランティア活動に関する調査報告 三重県立看護大学紀要,14,59-67
大久保智生 (2005). 青年の学校への適応感とその規定要因-青年用適応感尺度の作成と学校別の検討- 教育心理学研究,53,307-319.