日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA50] ポジティブ教育の基礎研究(3)

成長マインドセットと品性の強みの関係性

竹橋洋毅1, 島井哲志2, 宇惠弘3, 津田恭充4, 堀田千絵5 (1.関西福祉科学大学, 2.関西福祉科学大学, 3.関西福祉科学大学, 4.関西福祉科学大学, 5.関西福祉科学大学)

キーワード:マインドセット, 品性の強み, ポジティブ心理学

 能力を伸ばす上では目標追求の過程で直面する困難に粘り強く取り組むことが重要であり,その動機づけはマインドセット(知能観)によって規定されることが明らかにされている。困難に直面した際,能力を生得的だと捉える固定的マインドセットは無力感を導くのに対し,能力を成長可能だと捉える成長マインドセットは粘り強さを示す(欧米ではDweck, 2012; 日本では竹橋・豊沢, 2016;2017)。成長マインドセットは子どもの学力や健康の問題を考える上で中核概念であるとされ,その育成方法の解明は重要な課題として位置づけることができる。本研究ではポジティブ心理学において注目されている24種類の「品性の強み」とマインドセットの関係について探索することで,成長マインドセットを育成する方法について示唆を得ることを目的とする。

方  法
調査概要 高校生および大学生2,238名に対してインターネット調査を行った(調査対象者の詳細については一連発表1を参照)。
分析項目 品性の強み質問紙CST24と知能観尺度の邦訳版(及川, 2005)を用いた。前者は独創性などの24の強みの自己評価を1項目で問うものである。後者は才能がどれほど生得的だと思うかを3項目で問う尺度で,高得点は固定的マインドセット,低得点は成長マインドセットを意味する。

結果と考察
 知能観得点(固定度)を従属変数,24の強み,それらの一次交互作用,性別,年齢を独立変数とするステップワイズ法による重回帰分析を行った。その結果(表1),独創性などの5つの強みが固定的マインドセットと関連していた。強みをもつ人ほど,弱みと向き合う必要性が小さくなると考えられるので,強みの知覚は固定的マインドセットと関連するのかもしれない。一方,熱意と勇気は成長マインドセットと関連していた。成長のためには今の自分の弱さを認め,困難に粘り強く取り組むことが重要であるとされるが(e.g., Dweck, 2016),熱意や勇気は弱さと向き合うための心的資源となる可能性が考えられる。
 興味深いことに,強みの組み合わせによる効果も確認された。まず,向学心の低い人(-1SD)は好奇心の高低によらず固定的であったが,向学心の高い人(+1SD)では好奇心が高いほどマインドセットが成長的であった(図1)。また,判断力が高い人は見通しの高低によらず固定的であったが,判断力が低い人では見通しが高いほどマインドセットが成長的であった(図2)。最後に,判断力が高い人は独創性の高低によらず固定的であったが,判断力が低い人では独創性が低いほどマインドセットが成長的であった。これらの結果は,高校生などの若年者では判断力や独創性への自負が成長可能性を低めるリスクと,向学心を伴った好奇心を育むことの重要性を示唆する。今後,このような強みの組み合わせ効果を念頭においた心理教育のあり方について検討することが求められる。

付  記
H.29・30関西福祉科学大学共同研究費,JSPS科研費補助金基盤研究(B)16H03743の助成を受けた。