[PA51] 制御適合は小学生のパフォーマンスを高めるのか?
キーワード:制御焦点, 制御適合, パフォーマンス
問題と目的
Higgins(1997)は制御焦点理論を提唱し,人の目標志向性を,希望や理想をかなえることを目指し,利得の有無に関心をもつ“促進焦点”と義務や責任を果たすことを目指し,損失の有無に関心をもつ“防止焦点”に分類した。また,制御適合理論(Higgins, 2000)では,それぞれの目標志向性には適した方略があり,目標志向性と適合した方略を用いることでパフォーマンスの向上がみられるとされている。
本研究では,方略として速さと正確さに着目し,小学生を対象とした実験においても,目標志向性と方略の適合がパフォーマンスの向上につながるのかを検討する。仮説としては,促進焦点は速さを重視した時に速さのパフォーマンスが向上し,防止焦点は正確さを重視した時に正確さのパフォーマンスが向上すると考えられる。
方 法
実験はクラスごとに集団で実施した。
実験協力者 小学生4,5,6年生計339名(女子178名)であった。
実施課題 引き算課題を用いた。形式は,横の列の数字から縦の列の数字を引いていくものであった。制限時間は45秒で実施した。
パフォーマンス 問題を解いた数を“速さ得点”,不正解および書き直した数を“ミス得点”とした。
制御焦点の測定 クラスの担任の教師に子どもの制御焦点の分類を依頼した。制御焦点に関する説明を読んだ後に,クラスの子ども1人ひとりを思い浮かべながら,それぞれを促進焦点または防止焦点のいずれかに分類した。
方略の操作 方略の操作はクラスごとに実施した。課題を解く前に,担任の教師が以下の教示をすることで,方略の操作を行った。なお,教示は課題の表紙にも印刷されていた。
速さ重視条件 たくさん解くことができるように,速く解いてください
正確さ重視条件 間違えないで解くことができるように,正確に解いてください
結果と考察
分析にあたり,M±2SDを基準に著しく回答数が少なかったものやミスが多かったものを除外した。
各条件の人数 促進/速さ73名,促進/正確さ101名,防止/速さ83名,防止/正確さ82名であった。
パフォーマンスの検討 学年および性別を共変量とした2(促進/防止)×2(速さ/正確さ)の共分散分析を実施した。その結果,速さ得点(Figure 1)においては,制御焦点の主効果 (F (1, 333)=3.70, p=.06, ηp2=.01), 方略の主効果(F (1, 333)=3.92, p=.05, ηp2=.01)がそれぞれ有意または有意傾向となった。また,交互作用も有意であった(F (1, 333)=4.56, p=.03, ηp2= .01)。単純主効果の検定を行った結果,促進焦点において速さを重視した方が正確さを重視した時よりも得点が高かった(p=.01, ηp2 = .02)。また,速さを重視した際には,促進焦点が防止焦点よりも得点が高かった(p=.01, ηp2 =.02)。以上より,小学生においても制御適合の効果が認められ,促進焦点の傾向の子どもには“速さ重視”のような熱望的な方略を用いることで,パフォーマンスの向上がみられることが示された。
一方で,正確さについては,制御焦点 (F (1, 333) =0.00, p=.96, ηp2=.00),方略(F (1, 333)=0.67, p=.41, ηp2=.00)の主効果,交互作用(F (1, 333)=0.28, p=.60, ηp2=.00)ともに有意とならなかった。本研究では,ミスの数が全体的に少なかったことが関係していることが考えられる(Table 1)。
付 記
本研究は,第 1, 2, 3, 4著者が NPO 法人教育テスト研究センター(CRET)の連携研究員として,第 5 著者が理事として行ったものである。
Higgins(1997)は制御焦点理論を提唱し,人の目標志向性を,希望や理想をかなえることを目指し,利得の有無に関心をもつ“促進焦点”と義務や責任を果たすことを目指し,損失の有無に関心をもつ“防止焦点”に分類した。また,制御適合理論(Higgins, 2000)では,それぞれの目標志向性には適した方略があり,目標志向性と適合した方略を用いることでパフォーマンスの向上がみられるとされている。
本研究では,方略として速さと正確さに着目し,小学生を対象とした実験においても,目標志向性と方略の適合がパフォーマンスの向上につながるのかを検討する。仮説としては,促進焦点は速さを重視した時に速さのパフォーマンスが向上し,防止焦点は正確さを重視した時に正確さのパフォーマンスが向上すると考えられる。
方 法
実験はクラスごとに集団で実施した。
実験協力者 小学生4,5,6年生計339名(女子178名)であった。
実施課題 引き算課題を用いた。形式は,横の列の数字から縦の列の数字を引いていくものであった。制限時間は45秒で実施した。
パフォーマンス 問題を解いた数を“速さ得点”,不正解および書き直した数を“ミス得点”とした。
制御焦点の測定 クラスの担任の教師に子どもの制御焦点の分類を依頼した。制御焦点に関する説明を読んだ後に,クラスの子ども1人ひとりを思い浮かべながら,それぞれを促進焦点または防止焦点のいずれかに分類した。
方略の操作 方略の操作はクラスごとに実施した。課題を解く前に,担任の教師が以下の教示をすることで,方略の操作を行った。なお,教示は課題の表紙にも印刷されていた。
速さ重視条件 たくさん解くことができるように,速く解いてください
正確さ重視条件 間違えないで解くことができるように,正確に解いてください
結果と考察
分析にあたり,M±2SDを基準に著しく回答数が少なかったものやミスが多かったものを除外した。
各条件の人数 促進/速さ73名,促進/正確さ101名,防止/速さ83名,防止/正確さ82名であった。
パフォーマンスの検討 学年および性別を共変量とした2(促進/防止)×2(速さ/正確さ)の共分散分析を実施した。その結果,速さ得点(Figure 1)においては,制御焦点の主効果 (F (1, 333)=3.70, p=.06, ηp2=.01), 方略の主効果(F (1, 333)=3.92, p=.05, ηp2=.01)がそれぞれ有意または有意傾向となった。また,交互作用も有意であった(F (1, 333)=4.56, p=.03, ηp2= .01)。単純主効果の検定を行った結果,促進焦点において速さを重視した方が正確さを重視した時よりも得点が高かった(p=.01, ηp2 = .02)。また,速さを重視した際には,促進焦点が防止焦点よりも得点が高かった(p=.01, ηp2 =.02)。以上より,小学生においても制御適合の効果が認められ,促進焦点の傾向の子どもには“速さ重視”のような熱望的な方略を用いることで,パフォーマンスの向上がみられることが示された。
一方で,正確さについては,制御焦点 (F (1, 333) =0.00, p=.96, ηp2=.00),方略(F (1, 333)=0.67, p=.41, ηp2=.00)の主効果,交互作用(F (1, 333)=0.28, p=.60, ηp2=.00)ともに有意とならなかった。本研究では,ミスの数が全体的に少なかったことが関係していることが考えられる(Table 1)。
付 記
本研究は,第 1, 2, 3, 4著者が NPO 法人教育テスト研究センター(CRET)の連携研究員として,第 5 著者が理事として行ったものである。