[PA55] 不登校経験を巡る心理的変容プロセスの検討(2)
自己肯定感の低い高校生に着目して
キーワード:不登校経験, 通信制高校, M-GTA
問題と目的
文部科学省の「不登校生徒に関する追跡調査報告書」(2014)では,不登校経験者の高校進学率の上昇や高校中退率の減少が報告されている。その一方,金子・伊藤(2015)は,不登校経験のある高校生の中には,高校生活に適応し,安定した進路を取る者もいれば,高校生活に適応できず,その後の進路も不安定な生徒が存在することを指摘している。本研究では,不登校経験がある高校生の手記をもとに,彼らの自己肯定感に焦点をあて,彼らの不登校経験時から高校に在学する現在に至る心理的変容過程を明らかにし,不登校経験がその後の高校生活にどう影響するのかについて検討を加えた。
調査対象
広域A通信制高校に通う127名(男子64名,女子61名,不明2名)を対象とした。中学校時代に不登校を経験しており,高校では登校を継続している生徒である。平均年齢は16.8歳で,1年生36 名,2年生42名,3年生47名,不明2名だった。
調査手続き
201X年10月~201X+1年3月,広域A通信制高校の各分校において,担任教員が生徒に対して自尊感情に関するアンケートと各自の不登校経験に関する質問とそれに対する自由記述用紙を配布し,回答を求めた。
調査内容
1:自尊感情尺度(東京都版)(伊藤・若本,2010)の22項目に4件法で回答を求めた。
調査項目は<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>の3因子からなる。
2:不登校の始まりからその渦中,高校生活を送る現在までの各時点での心境についての手記調査:34項目の質問に自由記述で回答を求めた。質問内容の概要は
①不登校に至る前の状況と心境
②不登校中の状況と心境
③高校進学を決める際の状況と心境
④高校進学後の状況と心境
⑤家族や学校の先生との関わり
についてだった。
調査対象者の分類
自尊感情尺度22項目から自尊感情得点(レンジ22~88点)を算出し,88~66点を自己肯定群(55名),65~55点を中間群(53名),54~22点を自己否定群(19名)と分類した。自己肯定群と自己否定群とでは不登校経験のあり方や現在の高校生活ばかりでなく,その心理的変容プロセスが大きく異なっていた。本研究では自己否定群の自由記述データを分析対象とした。
研究方法
不登校経験の多様さや個人の心情の変化を重視した研究であることから質的研究法を採用した。自己否定群の不登校の始まりから高校生活を送る現在までの経験や心情に関する自由記述データを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:木下,2003)を用いて分析した。
結 果
自己否定群の心理的変容プロセス
自己否定群の中学時代から現在(高校生活)に至る心理的変容プロセスは,学校生活を送ることがあまりに辛く“いっそ不登校になった方が楽だ”と感じる①【不登校への憧れ】を抱く時期から【不登校の窒息状態】を脱するまでの心情と体験,現在の②【不安定な高校生活】に関する心情と体験に分けることができた。このような心理的プロセスに対する影響要因として【本人要因】【周囲との関係性】【親との関係性】【通信制高校の体制】【複雑な負の感情】の5カテゴリーが抽出された。
考 察
自己否定群は,不登校の渦中において【周囲との関係性】【親との関係性】が悪く,「自己否定感」や「被害者意識」を強め,次第に独特の「マイナス思考」と「周囲への恨み」といった【複雑な負の感情】を形成していた。その結果,彼らは高校進学後も「不登校という傷」を引きずり,高校生活にうまく適応できていなかった。こうした状況にもかかわらず自己否定群が,高校生活を何とか継続できているのは,【通信制高校の体制】の手厚いサポート体制に依るところが大きかった。自己否定群の生徒にとって高校での「教師サポート」の重要性が示唆されたといえるだろう。
文部科学省の「不登校生徒に関する追跡調査報告書」(2014)では,不登校経験者の高校進学率の上昇や高校中退率の減少が報告されている。その一方,金子・伊藤(2015)は,不登校経験のある高校生の中には,高校生活に適応し,安定した進路を取る者もいれば,高校生活に適応できず,その後の進路も不安定な生徒が存在することを指摘している。本研究では,不登校経験がある高校生の手記をもとに,彼らの自己肯定感に焦点をあて,彼らの不登校経験時から高校に在学する現在に至る心理的変容過程を明らかにし,不登校経験がその後の高校生活にどう影響するのかについて検討を加えた。
調査対象
広域A通信制高校に通う127名(男子64名,女子61名,不明2名)を対象とした。中学校時代に不登校を経験しており,高校では登校を継続している生徒である。平均年齢は16.8歳で,1年生36 名,2年生42名,3年生47名,不明2名だった。
調査手続き
201X年10月~201X+1年3月,広域A通信制高校の各分校において,担任教員が生徒に対して自尊感情に関するアンケートと各自の不登校経験に関する質問とそれに対する自由記述用紙を配布し,回答を求めた。
調査内容
1:自尊感情尺度(東京都版)(伊藤・若本,2010)の22項目に4件法で回答を求めた。
調査項目は<自己評価・受容><関係の中の自己><自己主張・決定>の3因子からなる。
2:不登校の始まりからその渦中,高校生活を送る現在までの各時点での心境についての手記調査:34項目の質問に自由記述で回答を求めた。質問内容の概要は
①不登校に至る前の状況と心境
②不登校中の状況と心境
③高校進学を決める際の状況と心境
④高校進学後の状況と心境
⑤家族や学校の先生との関わり
についてだった。
調査対象者の分類
自尊感情尺度22項目から自尊感情得点(レンジ22~88点)を算出し,88~66点を自己肯定群(55名),65~55点を中間群(53名),54~22点を自己否定群(19名)と分類した。自己肯定群と自己否定群とでは不登校経験のあり方や現在の高校生活ばかりでなく,その心理的変容プロセスが大きく異なっていた。本研究では自己否定群の自由記述データを分析対象とした。
研究方法
不登校経験の多様さや個人の心情の変化を重視した研究であることから質的研究法を採用した。自己否定群の不登校の始まりから高校生活を送る現在までの経験や心情に関する自由記述データを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:木下,2003)を用いて分析した。
結 果
自己否定群の心理的変容プロセス
自己否定群の中学時代から現在(高校生活)に至る心理的変容プロセスは,学校生活を送ることがあまりに辛く“いっそ不登校になった方が楽だ”と感じる①【不登校への憧れ】を抱く時期から【不登校の窒息状態】を脱するまでの心情と体験,現在の②【不安定な高校生活】に関する心情と体験に分けることができた。このような心理的プロセスに対する影響要因として【本人要因】【周囲との関係性】【親との関係性】【通信制高校の体制】【複雑な負の感情】の5カテゴリーが抽出された。
考 察
自己否定群は,不登校の渦中において【周囲との関係性】【親との関係性】が悪く,「自己否定感」や「被害者意識」を強め,次第に独特の「マイナス思考」と「周囲への恨み」といった【複雑な負の感情】を形成していた。その結果,彼らは高校進学後も「不登校という傷」を引きずり,高校生活にうまく適応できていなかった。こうした状況にもかかわらず自己否定群が,高校生活を何とか継続できているのは,【通信制高校の体制】の手厚いサポート体制に依るところが大きかった。自己否定群の生徒にとって高校での「教師サポート」の重要性が示唆されたといえるだろう。