日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA57] 保育者の感情特性・調節とGRITおよびストレスとの関連

神田奈保子 (NPO法人BOON)

キーワード:GRIT, 感情, 保育士ストレス

問題と目的
 2018年度,保育現場の指針と要領の3つが同時改訂され,保育の現場に更に求められる期待や負荷も大きくなることが予測できる。保育の質向上のためには,今後一層“保育従事者の“理解”と“メンタルケア”は、不可欠といえるだろう。
 主観的感情特性とは,日常生活において,自己・他者に評価される経験を通し作り上げられる,一人一人の感情特性である(平井,2017)。感情研究では,特性と共に感情調節も,日常生活において重要だといえる(吉津・関口・雨宮,2013;平井,2017)。また,物事をどの様に捉えるかという認知は,人を理解する際に,重要だと考えられるため,本研究では“GRIT(やり抜く)”にも注目した。以上のことより本研究では,①感情・GRITが保育士のストレスに与える影響②GRITとの関係を検討することを目的とし,保育現場の理解を深める。

方  法
1.調査対象者:保育園・認定こども園・幼稚園の保育従事者,保育関係者135名。
2.調査時期・手続き:2018年2月~3月末。各園(10園)にてインターネットでの回答依頼。
3.質問紙:①主観的感情特徴尺度:平井(2017)「主観的感情特性尺度」全18項目使用。②感情調節尺度:吉津・関口・雨宮(2013)「日本語版感情調節尺度」(以後ERQ)10項目使用。③GRIT尺度:西川・奥上・雨宮(2015)「日本語版GRIT-S」8項目使用。④保育士ストレス尺度:赤田(2010)「保育士ストレス評定尺度」(以後NTSS)29項目使用。

結果と考察
1.感情・GRITが保育士のストレスに与える影響
 4尺度の関連を見るために相関係数を算出した結果,NTSSと主観的感情特性(r=.23,p≦.01),ERQ(r=.178,p≦.05)に相関がみられた。NTSSに与える影響を明確にするため,感情特徴の6因子(喜び・驚き・悲しみ・怒り・嫌悪・恐怖),ERQの2因子(再評価方略・抑制方略)それぞれを独立変数とし,回帰分析を行った。感情特性5因子のみ標準偏回帰係数が有意であった。(Table1)
 結果より,喜びが多い人ほど時間や園の方針に対しストレスが小さくなることが分かった。怒りは,ストレス要因と一番多く結びつく。このことより怒りは,多くの場面で自他ともに影響を与えている可能性が示唆できた。また,ネガティブ傾向の感情が対人関係(同僚や保護者)のストレスを大きくする要因として,自己解決ができないことが考えられる。これは,GRITがNTSSと関係が見られなかった事に繋がる可能性が考えられる。
2.GRITとの関係
 GRITと主観的感情特性・ERQの間に相関が見られ,各尺度の因子を3群(低・中・高)に分け、一要因の分散分析を行ったその結果,「怒り」(F(2,132)=7.60,p≦.001)低≦高***中≦高*),「嫌悪」(F(2,132)=9.05,p≦.001)低≦高***中≦高*),「再評価方略」(F(2,132)=4.03,p≦.05)低≦高*)に関係があることが分かった。
 結果より,GRITは,ネガティブ傾向の感情と関係がみられることがわかった。ネガティブな経験は,マイナスな面だけでなく,GRITのように人を成長させる経験に繋がることが示唆できた。また,出来事を再解釈する力が高い人は,GRITが高い要因としては,考えや事実を整理することで,より長期に渡り物事に取り組めることが示唆できた。