[PA59] ADHD不注意傾向幼児の保育に関する保育者の認識(3)
注意散漫による課題遂行ができない事例への対応
キーワード:ADHD, 不注意傾向, 保育者
問題と目的
ADHD不注意傾向の子ども(以下,不注意児)は幼児期に問題が顕在化するケースは少ないが,学齢期以降に問題や二次障害を起こすケースが多い。たとえば,児童期・思春期において,不注意児は友人関係の問題を引き起こすこと,児童期後期・思春期において抑うつや低い自尊感情と関連することが示されている(斎藤,2015; 斎藤ら,2016; 田中ら,2014)。
しかし,多動・衝動傾向の子どもに比べて不注意児は適切な対応を受けにくいことが指摘されている(Solden,2005)。そのため,幼児期からの適切な対応が求められる。Mizuno(2017)では,保育者は不注意児に特徴的にみられる行動に関する知識が不十分である一方で,保護者や小学校の教員への情報提供の重要性を認識していた。しかし,実際に不注意児へどのような対応を行っているかは不明確である。そこで,本研究では,作業途中で注意散漫になり,課題を遂行できない子どもの事例を用いて,保育者が具体的にどのように対応すべきと考えているのか明らかにしたい。
方 法
調査対象者・調査手続き:I県の保育所,幼稚園,認定こども園に勤務する保育者132名に任意による無記名の自記式質問紙を郵送し,111名から質問紙を回収した(回収率84.1%)。調査時期は2016年5月~11月であった。本研究は,筑波大学医の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1025)。
質問項目:担当するクラスに以下のような子どもが在籍していた場合,具体的にどのように対応するのかを自由記述で回答を求めた。「Aちゃんは製作活動をする際に、はじめは他の子どもたちと同様に作業に取り組んでいるのですが、途中からよそ見が多くなったり、ぼーっとしていたりします」。
結果と考察
あらかじめ表に示すカテゴリーを作成し,それぞれの記述がどのカテゴリーに含まれるか検討した。心理学,保育の専門家4名で独立に評定を行い,3名以上の評定が一致した場合にカテゴリーに含まれるようにした。結果を表に示す。
まず,「興味がもてる声かけする」,「子どもに合わせて対応する」などの指示内容が具体的でない声かけや具体的な対応が記述されていない「抽象的な対応」は66件(59%)と過半数を超えていた。このような回答は,注意散漫になっている子どもに対して,どのように対応すればよいのかの具体策を持っていないと考えられる。また,製作を手伝う,そばで一緒に活動するなど「一緒に活動する」(22件,20%),指示内容が具体的である声かけや励ましである「声かけ」(20件,17%),不注意傾向の特性に合わせた環境を整える「環境調整」(19件,17%)はそれぞれ2割程度だった。
以上より,保育者は不注意児に対してほとんどの場合,定型発達の子どもと同様の対応をしており,ADHD不注意の特性に応じた具体的な対応をとっていないことが示された。したがって,今後,不注意児の特性に合わせた声かけの仕方や集中できる環境調整の内容など具体的な対応方法をADHD不注意児への対応についての研修内容に含める必要がある。
ADHD不注意傾向の子ども(以下,不注意児)は幼児期に問題が顕在化するケースは少ないが,学齢期以降に問題や二次障害を起こすケースが多い。たとえば,児童期・思春期において,不注意児は友人関係の問題を引き起こすこと,児童期後期・思春期において抑うつや低い自尊感情と関連することが示されている(斎藤,2015; 斎藤ら,2016; 田中ら,2014)。
しかし,多動・衝動傾向の子どもに比べて不注意児は適切な対応を受けにくいことが指摘されている(Solden,2005)。そのため,幼児期からの適切な対応が求められる。Mizuno(2017)では,保育者は不注意児に特徴的にみられる行動に関する知識が不十分である一方で,保護者や小学校の教員への情報提供の重要性を認識していた。しかし,実際に不注意児へどのような対応を行っているかは不明確である。そこで,本研究では,作業途中で注意散漫になり,課題を遂行できない子どもの事例を用いて,保育者が具体的にどのように対応すべきと考えているのか明らかにしたい。
方 法
調査対象者・調査手続き:I県の保育所,幼稚園,認定こども園に勤務する保育者132名に任意による無記名の自記式質問紙を郵送し,111名から質問紙を回収した(回収率84.1%)。調査時期は2016年5月~11月であった。本研究は,筑波大学医の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1025)。
質問項目:担当するクラスに以下のような子どもが在籍していた場合,具体的にどのように対応するのかを自由記述で回答を求めた。「Aちゃんは製作活動をする際に、はじめは他の子どもたちと同様に作業に取り組んでいるのですが、途中からよそ見が多くなったり、ぼーっとしていたりします」。
結果と考察
あらかじめ表に示すカテゴリーを作成し,それぞれの記述がどのカテゴリーに含まれるか検討した。心理学,保育の専門家4名で独立に評定を行い,3名以上の評定が一致した場合にカテゴリーに含まれるようにした。結果を表に示す。
まず,「興味がもてる声かけする」,「子どもに合わせて対応する」などの指示内容が具体的でない声かけや具体的な対応が記述されていない「抽象的な対応」は66件(59%)と過半数を超えていた。このような回答は,注意散漫になっている子どもに対して,どのように対応すればよいのかの具体策を持っていないと考えられる。また,製作を手伝う,そばで一緒に活動するなど「一緒に活動する」(22件,20%),指示内容が具体的である声かけや励ましである「声かけ」(20件,17%),不注意傾向の特性に合わせた環境を整える「環境調整」(19件,17%)はそれぞれ2割程度だった。
以上より,保育者は不注意児に対してほとんどの場合,定型発達の子どもと同様の対応をしており,ADHD不注意の特性に応じた具体的な対応をとっていないことが示された。したがって,今後,不注意児の特性に合わせた声かけの仕方や集中できる環境調整の内容など具体的な対応方法をADHD不注意児への対応についての研修内容に含める必要がある。