日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA73] 図画工作科「造形遊び」の意義

工作および他教科との比較を通して

藤尾美奈子1, 秋光恵子2 (1.兵庫教育大学附属小学校, 2.兵庫教育大学)

キーワード:造形遊び, 友だちとのかかわり, 人間関係

問題と目的
 図画工作科「造形遊び」は,子どもが材料や場所などと出会い,それに体全体で触れ合うなどして,自分の感覚や行為などを通して形や色を捉え,自分で目的を見つけて発展させていく子ども主体の活動である。一方,造形遊びには「準備が大変」「遊ばせるだけでは教育ではない」といった戸惑いや否定的な声も多く,学習指導要領で表現領域に位置付けられた活動であるにもかかわらず積極的に行われていないことも事実である。そこで本研究では,造形遊びの授業が積極的に行なわれるように,造形遊びにおける子どもの学びを明らかにし,造形遊びの可能性を実証的に検証することを目的とする。

方  法
調査対象者:公立A小学校4年生3クラス92名
手続き:造形遊びと工作の授業,図工以外の教科として算数の授業を対象として,それぞれの授業後に学びの内容についての質問紙を実施した。また,造形遊びと図工の授業後には感想も記述させた。
質問紙:小学校教諭5名へのインタビューと小学3年生31名の授業後の感想記述から抽出した造形遊びの意義66項目について,学校心理学を専門とする大学教員1名と学校心理学を学ぶ大学院生3名で分類した。その結果,造形遊びにおける子どもの学びを測定する尺度として,“自己有用感”“自己肯定感”“自分の解放”“集団意識”“他人に認めてもらうこと”“友だちとのかかわりによる楽しさ”“意欲・態度”“知識・理解”“発想・構想・イメージ”の9カテゴリー32項目が作成された。これらの項目に対して4件法で回答を求めた。

結果と考察
(1)質問紙調査の結果
 因子分析(主因子法・プロマックス回転)の結果,「友だちや集団でのかかわりによる楽しさや達成感」「試行錯誤の楽しさ」「発想・構想・アイデア」「賞賛」「自己有用感」の5因子が抽出された。各因子のα係数は,α=.79からα=.89であった。
 「造形遊び」「工作」「算数」の学びの違いについて検証するため,各因子の因子得点を用いて繰り返しのある一要因分散分析を行った。その結果,第5因子を除く4つの因子において主効果が有意であった(F(2,144)=5.097,p<.01)。多重比較の結果,第1因子では造形遊びが算数よりも,また第2因子から第4因子では,造形遊びと工作が算数よりも有意に高得点だった。しかし,いずれの因子においても造形遊びと工作との間に有意な差異は見られなかった。
 そこで次に,造形遊びをしてから工作をしたクラスと,工作をしてから造形遊びをしたクラスとの違いを見るため,工作,造形遊びそれぞれの授業後の回答を従属変数としてクラス間で比較する一要因分散分析を行った。その結果,造形遊びの授業後の回答では有意な差はなかったが,工作の授業後の回答においては,第1因子,第2因子,第5因子でクラスの主効果が有意だった(F(2,77)=3.742,p<.05)。さらに多重比較の結果,すべてにおいて造形遊びの後に図工をしたクラスの方が有意に高得点だった。よって,造形遊びをせずに工作を行うよりも,造形遊びをしてから工作をする方が,友だちとのかかわりによる楽しさや達成感を感じており,試行錯誤も出来,自己有用感をもっていたことが分かった。
(2)子どもの授業後の感想による結果
 子どもが記述した感想では,工作よりも造形遊びの授業後において,活動への意欲や達成感,友だちと一緒に活動したことの楽しさや喜び,そして「自分も結構できる」といった自己肯定感や「自分のアイデアで友だちと楽しめた」といった自己有用感などを感じていることを示す記述が多く見られた。
 以上のことから, 造形遊びは,他の教科(算数)よりも友だちとのかかわりによる楽しさや達成感を感じることが出来ること,互いの良いところを見つけ賞賛し合うことが出来ること等が明らかとなり,主体的に学ぶ態度や他者を認め合う学級風土の醸成などにもつながる可能性が示唆された。また,試行錯誤や発想・構想・アイデアが生まれていたことから,図画工作科のねらいとする資質・能力を十分に育てることが出来ることも確認された。そのような造形遊びの体験は,その後の工作の授業にも活かされることが示された。