[PB05] 母親の育児感情および養育行動が子どもの学習動機づけ・成績に及ぼす影響
キーワード:動機づけ, 養育行動, 自己決定理論
問題と目的
幼い頃から子どもの学習動機づけを高めることは重要であると考えられる。しかし,幼児期や小学校低学年を対象とした研究は殆ど見られない。そこで本研究では,幼児期・児童期前半を対象に親の育児感情や養育行動が,子どもの学習動機づけおよび成績に与える影響について検討する。
方 法
調査協力者・調査時期・手続き
東京都内の幼稚園6園の年中・年長児と,その近隣の小学校4校の1~3年生をもつ保護者,ならびにその子どもを担当する保育者・教師に調査への協力を仰いだ。保護者1554名,教師69名から回答を得た。2015年6月~8月に実施した。質問紙は糊付き封筒に入れて配付し,回答終了後は厳封した上で担任または園長・校長に提出するよう依頼した。
調査内容
1)~4)は保護者から,5),6)は保育者・教師から回答を得た。すべて4件法であった。
1)育児感情 荒牧・無藤(2008)の「育ちへの不安感」,「育児への束縛による負担感」,「育児への肯定感」から項目を抜粋して使用した。
2)自尊感情 桜井 (2000) の「ローゼンバーグ自尊感情尺度日本語版」を使用した。
3)ポジティブな養育行動 自己決定理論(Ryan &Deci, 2000)を参考に,新たな項目を作成した。
4)ネガティブな養育行動 三鈷(2008)の「感情的叱責」,「物的報酬」,「スパンキング」から一部修正して使用した。
5)学習動機づけ 「拡散的好奇心」,「特殊的好奇心」,「独立達成」,「挑戦」,「粘り強さ」,「自己効力感」の6側面について新たに項目を作成した。
6)成績 「言語理解・国語」,「数量理解・算数」,「運動・体育」について尋ねた。分析には,保育者・教師ごとに標準化した得点を用いた。
結果と考察
分析は母親データのみに絞り,生年や性別が正しく回答されたもののみ用いた。
ポジティブな養育行動の構造
ポジティブな養育行動について探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行ったところ,6因子構造が妥当であった。第1因子から順に「助言」,「意思尊重」,「温かさ」,「主体性育成」,「関与」,「自信育成」と命名された。さらに高次因子分析を行った結果,関与と温かさが第1因子に,意思尊重と主体性育成が第2因子に,自信育成と助言が第3因子に高い負荷を示した。これより,各因子は順に「関係性支援」,「自律性支援」,「有能感支援」を表すと考えられる。
親の育児感情および養育行動が,子どもの学習動機づけおよび成績に及ぼす影響
「育児感情→養育行動→学習動機づけ→成績」というプロセスを仮定し,幼小別に分析を行った。
幼小どちらにおいても,ポジティブな育児感情がポジティブな養育行動を,ネガティブな育児感情がネガティブな養育行動を高めることが示された。育児感情の正負に応じた養育行動が活性化され,異なるプロセスを辿ることが明らかとなった。
また幼児期において,母親の自尊感情の高さが養育行動の「関与」を促すこと,「関与」が子どもの学習動機づけを高め,さらに成績の高さへと繋がることが明らかとなった。母親の自尊感情が高いと子どもと積極的に関わるようになり,その関わりが子どもの好奇心の芽生えを察知したり,子どもの自己効力感を高めたり,粘り強く頑張ってみようという力を高めたりするものと考えられる。
また,養育行動の「物的報酬」が学習動機づけを低め,「スパンキング」が成績を直接低めることが明らかとなった。従来指摘されてきた通り,物的報酬と体罰の危険性が明らかとなった。
付 記
本研究は,公益財団法人 日本教材文化研究財団の支援を受けて実施した研究の一部を再分析したものである。
幼い頃から子どもの学習動機づけを高めることは重要であると考えられる。しかし,幼児期や小学校低学年を対象とした研究は殆ど見られない。そこで本研究では,幼児期・児童期前半を対象に親の育児感情や養育行動が,子どもの学習動機づけおよび成績に与える影響について検討する。
方 法
調査協力者・調査時期・手続き
東京都内の幼稚園6園の年中・年長児と,その近隣の小学校4校の1~3年生をもつ保護者,ならびにその子どもを担当する保育者・教師に調査への協力を仰いだ。保護者1554名,教師69名から回答を得た。2015年6月~8月に実施した。質問紙は糊付き封筒に入れて配付し,回答終了後は厳封した上で担任または園長・校長に提出するよう依頼した。
調査内容
1)~4)は保護者から,5),6)は保育者・教師から回答を得た。すべて4件法であった。
1)育児感情 荒牧・無藤(2008)の「育ちへの不安感」,「育児への束縛による負担感」,「育児への肯定感」から項目を抜粋して使用した。
2)自尊感情 桜井 (2000) の「ローゼンバーグ自尊感情尺度日本語版」を使用した。
3)ポジティブな養育行動 自己決定理論(Ryan &Deci, 2000)を参考に,新たな項目を作成した。
4)ネガティブな養育行動 三鈷(2008)の「感情的叱責」,「物的報酬」,「スパンキング」から一部修正して使用した。
5)学習動機づけ 「拡散的好奇心」,「特殊的好奇心」,「独立達成」,「挑戦」,「粘り強さ」,「自己効力感」の6側面について新たに項目を作成した。
6)成績 「言語理解・国語」,「数量理解・算数」,「運動・体育」について尋ねた。分析には,保育者・教師ごとに標準化した得点を用いた。
結果と考察
分析は母親データのみに絞り,生年や性別が正しく回答されたもののみ用いた。
ポジティブな養育行動の構造
ポジティブな養育行動について探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行ったところ,6因子構造が妥当であった。第1因子から順に「助言」,「意思尊重」,「温かさ」,「主体性育成」,「関与」,「自信育成」と命名された。さらに高次因子分析を行った結果,関与と温かさが第1因子に,意思尊重と主体性育成が第2因子に,自信育成と助言が第3因子に高い負荷を示した。これより,各因子は順に「関係性支援」,「自律性支援」,「有能感支援」を表すと考えられる。
親の育児感情および養育行動が,子どもの学習動機づけおよび成績に及ぼす影響
「育児感情→養育行動→学習動機づけ→成績」というプロセスを仮定し,幼小別に分析を行った。
幼小どちらにおいても,ポジティブな育児感情がポジティブな養育行動を,ネガティブな育児感情がネガティブな養育行動を高めることが示された。育児感情の正負に応じた養育行動が活性化され,異なるプロセスを辿ることが明らかとなった。
また幼児期において,母親の自尊感情の高さが養育行動の「関与」を促すこと,「関与」が子どもの学習動機づけを高め,さらに成績の高さへと繋がることが明らかとなった。母親の自尊感情が高いと子どもと積極的に関わるようになり,その関わりが子どもの好奇心の芽生えを察知したり,子どもの自己効力感を高めたり,粘り強く頑張ってみようという力を高めたりするものと考えられる。
また,養育行動の「物的報酬」が学習動機づけを低め,「スパンキング」が成績を直接低めることが明らかとなった。従来指摘されてきた通り,物的報酬と体罰の危険性が明らかとなった。
付 記
本研究は,公益財団法人 日本教材文化研究財団の支援を受けて実施した研究の一部を再分析したものである。