[PB13] 障害理解教育を通じた大学生の発達障害に対する潜在的態度の変容
潜在連合テストを用いた検討
キーワード:発達障害, 障害理解教育, 潜在連合テスト
問題と目的
発達障害者が一定の割合で存在することが明らかになり,発達障害に対する認知も高まりつつある。しかし,発達障害という言葉を聞いたことがあっても,発達障害の症状や対応の在り方について十分に理解している学生は少ない。大学にも少なからず存在する発達障害学生への支援を進めるためには,周囲の学生の発達障害に対する理解も重要になる。こうした問題意識に基づき,筆者らは心理学関連の教養教育科目において,発達障害理解教育を実施した。本研究では,発達障害理解教育によって大学生の発達障害に対する態度がどのように変容するのかについて,潜在連合テスト(IAT)を用いて検証することを目的とした。具体的には,発達障害に対する潜在的態度を障害理解教育実施前(プレ),障害理解教育実施後(ポスト),障害理解教育実施後一定時間経過後(フォローアップ)の3回測定することでその効果を明らかにした。
方 法
調査協力者および手続き 東北地方の国立A大学に在籍する44名(男性19名,女性25名,平均年齢19.2歳)を対象に,2017年6月~2018年1月にかけて心理学関連の教養教育科目において発達障害理解教育を実施した。授業は前期・後期にそれぞれ1コマずつ開講され,全15回の授業の内,3回分が発達障害理解教育にあてられた。授業では,代表的な発達障害である学習障害(LD),注意欠如多動性障害(ADHD),自閉症スペクトラム障害(ASD)が取り上げられ,各障害の症状や対応等について説明がなされた。紙筆版のIAT(Implicit Association Test)を授業内で計3回実施した。プレの調査を障害理解教育実施前,ポストの調査を障害理解教育直後,フォローアップの調査を障害理解教育実施後3~4週間後に実施した。
紙筆版IAT 潜在的態度の測定は,紙筆版のIATを用い,具体的には,「良い意味の語-悪い意味の語」と,「発達障害者-健常者」という,2種類のカテゴリ分類課題を組み合わせる形で,テストを作成した。良い意味の語と悪い意味の語の刺激は先行研究と同様の刺激を用いた(Pruett & Chan, 2006)。また,発達障害者と健常者のカテゴリ分類に用いた刺激は,発達障害者・健常者との連想価の高い単語を5語ずつ抽出し使用した。
結果と考察
測定時期(プレ・ポスト・フォローアップ)によって紙筆版IATの得点が異なるかどうかを検討するために,1要因の分散分析を行った。各測定時期における得点を図1に示した。分散分析の結果,障害理解教育の効果が有意であった(F(2, 78)=38.807, p<.001)。ボンフェローニ法による多重比較を実施した結果,ポスト得点はプレ,フォローアップ得点よりも得点が高いこと,フォローアップ得点はプレ,ポスト得点よりも得点が低いことが示された。つまり,障害理解教育実施直後の大学生の発達障害に対する潜在的態度は障害理解教育実施前よりもネガティブになるが,教育実施後一定時間が経過すると障害理解教育前よりも発達障害に対する態度はポジティブに変容することが明らかになった。
学生は,プレの段階では発達障害についてあまり考えたことがなく,具体的なイメージを持つことができていなかったと考えられる。しかし,授業を通じて発達障害の困難さを理解したり,発達障害が身近なものであることを認識したことで,障害に対する脅威や不安が惹起され,ポスト段階では一時的にIATの得点が高まったものと推察される。一方,フォローアップ得点が低くなった要因は,自らの偏見的な反応に気づいた時,罪悪感を感じ,偏見の低減に努力しようとする(Monteith et al., 1993)と報告されているように,自らの発達障害に対する偏見に気付き,発達障害に目を向けることによって,偏見抑制が動機づけられたことが考えられる。
発達障害者が一定の割合で存在することが明らかになり,発達障害に対する認知も高まりつつある。しかし,発達障害という言葉を聞いたことがあっても,発達障害の症状や対応の在り方について十分に理解している学生は少ない。大学にも少なからず存在する発達障害学生への支援を進めるためには,周囲の学生の発達障害に対する理解も重要になる。こうした問題意識に基づき,筆者らは心理学関連の教養教育科目において,発達障害理解教育を実施した。本研究では,発達障害理解教育によって大学生の発達障害に対する態度がどのように変容するのかについて,潜在連合テスト(IAT)を用いて検証することを目的とした。具体的には,発達障害に対する潜在的態度を障害理解教育実施前(プレ),障害理解教育実施後(ポスト),障害理解教育実施後一定時間経過後(フォローアップ)の3回測定することでその効果を明らかにした。
方 法
調査協力者および手続き 東北地方の国立A大学に在籍する44名(男性19名,女性25名,平均年齢19.2歳)を対象に,2017年6月~2018年1月にかけて心理学関連の教養教育科目において発達障害理解教育を実施した。授業は前期・後期にそれぞれ1コマずつ開講され,全15回の授業の内,3回分が発達障害理解教育にあてられた。授業では,代表的な発達障害である学習障害(LD),注意欠如多動性障害(ADHD),自閉症スペクトラム障害(ASD)が取り上げられ,各障害の症状や対応等について説明がなされた。紙筆版のIAT(Implicit Association Test)を授業内で計3回実施した。プレの調査を障害理解教育実施前,ポストの調査を障害理解教育直後,フォローアップの調査を障害理解教育実施後3~4週間後に実施した。
紙筆版IAT 潜在的態度の測定は,紙筆版のIATを用い,具体的には,「良い意味の語-悪い意味の語」と,「発達障害者-健常者」という,2種類のカテゴリ分類課題を組み合わせる形で,テストを作成した。良い意味の語と悪い意味の語の刺激は先行研究と同様の刺激を用いた(Pruett & Chan, 2006)。また,発達障害者と健常者のカテゴリ分類に用いた刺激は,発達障害者・健常者との連想価の高い単語を5語ずつ抽出し使用した。
結果と考察
測定時期(プレ・ポスト・フォローアップ)によって紙筆版IATの得点が異なるかどうかを検討するために,1要因の分散分析を行った。各測定時期における得点を図1に示した。分散分析の結果,障害理解教育の効果が有意であった(F(2, 78)=38.807, p<.001)。ボンフェローニ法による多重比較を実施した結果,ポスト得点はプレ,フォローアップ得点よりも得点が高いこと,フォローアップ得点はプレ,ポスト得点よりも得点が低いことが示された。つまり,障害理解教育実施直後の大学生の発達障害に対する潜在的態度は障害理解教育実施前よりもネガティブになるが,教育実施後一定時間が経過すると障害理解教育前よりも発達障害に対する態度はポジティブに変容することが明らかになった。
学生は,プレの段階では発達障害についてあまり考えたことがなく,具体的なイメージを持つことができていなかったと考えられる。しかし,授業を通じて発達障害の困難さを理解したり,発達障害が身近なものであることを認識したことで,障害に対する脅威や不安が惹起され,ポスト段階では一時的にIATの得点が高まったものと推察される。一方,フォローアップ得点が低くなった要因は,自らの偏見的な反応に気づいた時,罪悪感を感じ,偏見の低減に努力しようとする(Monteith et al., 1993)と報告されているように,自らの発達障害に対する偏見に気付き,発達障害に目を向けることによって,偏見抑制が動機づけられたことが考えられる。