日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB15] 幼児教育における適性処遇交互作用の把握

実習生によるエピソード記録を分析することを通して

藤谷智子 (武庫川女子大学)

キーワード:適性処遇交互作用, 幼児理解, 環境構成

目  的
 幼児教育においては,幼稚園教育要領等に,一人一人の発達過程や個人差に応じて保育することが明示されている。これは適性処遇交互作用(Aptitude Treatment Interaction; ATI)の重要性を幼児教育において表していると考えることができる。小学校以上の教育にあっては,子どもの学力や知能という適性と教育法という処遇のもたらす効果やマッチングに主な関心が置かれ研究も進められてきた。しかし,幼児教育においては,教育法の比較という研究の難しさがあるとともに,それよりも日々の保育における,子どもによって異なる保育者の言葉かけや対応とその効果に,より注目すべきと考えることもできる。そこで,本研究全体の目的は,幼児教育におけるATI現象を把握し評価したうえで,保育者ATIを意識しながら保育実践を行っていくための示唆を得ることである。本報告では,実習生が捉えたATIのエピソードを手掛かりに,今後の保育者を対象とする研究のための枠組みを得ることを主な目的とする。

方  法
 M女子大学3年生の幼保免許資格取得予定者を対象に,2017年10月,4週間の幼稚園教育実習を終えた次週に「保育の心理学Ⅱ」の授業内で,約40分の時間をとり,ATIのエピソードを記述してもらった。再度ATIの説明をしたうえで,幼稚園教育実習だけでなく保育所実習や施設実習も含め,原則として3つのエピソードを自由記述とし,感想も添えて提出してもらった。分析の対象となった数は,学生数93名計261のエピソードであった。そのうち幼保の3~5歳児を対象とする203のエピソードについて分析を進めた。エピソードの分類等は,結果に示した通りである。

結果及び考察
1.子どもの年齢と適性:実習生が適性次元に挙げたものを,事前の経験,性格・くせ,発達,得意不得意,障害の5つに分類し,それと年齢との関連を示したのが,Figure 1である。子どもの年齢によって,保育者が何を適性ととらえ対応しているかの違いがあることが示唆される(χ2=24.29,p≦0.01)。年齢が上がるほど,乗り越えるべき課題に対する不得意を克服するような対応を重視するようになることが伺われる。
2.子どもの適性と処遇のタイプ:処遇のタイプについては,個への対応,集団内の個への対応(複数の子どもがいる中で個々に対応),協同性の中で(集団での活動に組み込んだ個への対応),環境構成の4つに分類し,子どもの適性との関連を示したのがFigure 2である。障害の場合は個への対応が中心であるが,個々への対応といっても集団を意識し,主体性や協同性を重視した対応を行っているということがわかる(χ2=39.82,p≦0.01)。
今後はデータの取り方を本報告をもとに改善し,また保育者による振り返りに現れるATIを収集し,比較検討していく予定である。