日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB16] 幼児期のメタ認知発達支援に関する研究

「音楽活動」実践における保育者の語りから見えてきたもの

石上浩美 (大手前大学)

キーワード:メタ認知, 発達支援, 音育

問題と目的
 一般的に,メタ認知は児童期後半以降に学習場面において発達するものと捉えられている。だが,音の知覚や音楽の構成要素(メロディー,リズム,和音)の聴き分け(弁別)などは,大人よりも幼児期の子どもの方が優れている場合がある。小松(2016)によると,音育(sound education)とは,「耳の感性を磨くための音の教育」の略語であり,「普段聞き逃しがちな背景音の存在をまずは自覚し,その気づきをもとに参加者の聴覚的フレームを一時的に変えること」ができるように,耳を鍛えることである。また,三宮(2009)は,「メタ認知をうながす学習支援法の前提になるものは,自らの教授方略に対する教師のメタ認知である」とし,保育者・教師側のメタ認知が保育・教育指導上重要であることを指摘している。さらに,石上(2017a;2017b)は,幼児の「音遊び活動」や「ごっこ遊び」における子ども同士のやりとりから,幼児期特有のメタ認知について,どのような言葉となって表出しているのかを示そうと試みた。
 そこで,本研究では,聴覚を鍛えることを主目的とした「音楽活動」への参与観察を通じて,幼児期特有のメタ認知(proto-metacognition)の特徴と,その発達支援方略について明らかにすることを目的とする。

方  法
調査期間:2017年10月-2017年12月
調査対象者:
・A保育士(40代女性):保育士・幼稚園教諭・看護師の資格を持ち,副園長職も兼務している。保護者からは何でも相談できる先生と信頼されている。音楽に関する専門知識や技能は高くはないが,B保育士とともに実践計画を作成し,活動の中核的な役割を担っている。
・B保育士(20代女性):音楽大学(ピアノ主専攻)卒業後保育士資格を取得,音楽療法士の資格も持っている。保育の定番楽曲演奏だけではなく,子どものリクエストに応じた即興演奏や弾き歌いを得意とし,子どもにも慕われている。「音楽活動」では中心的な役割を担っており,A保育士とペアで活動することが多い。また,「音育」に対する興味・関心も高い。
調査・分析方法:半構造化面接法による個別インタビュー調査,1名あたり60分,調査協力者の勤務する保育園にてプライバシーの確保された個室で実施した。インタビューデータはICレコーダーで録音し,逐語記録を作成した。その後,発話群を抽出し,音声的な抑揚や間を加筆したテキストとし,質的コード化の技法(Coffey & Atkinson.1996;メイナード.1993),および質的分析ソフト(IBM SPSS Text Analytics for Surveys)で分類・分析した。

結果と考察
 年間保育計画では,「音楽活動」は20回(1セッション30分,月1~2回の頻度)設定されており,保護者も自由に参加できる形で実施されていた。以下,紙面の都合上,A保育士のインタビューデータの一部を示す。

(「音楽活動」実施計画・準備について)
Bさんが,ほんとうによくやってくれています。私は(音楽の)専門家ではないので,いまだによくわからないこともたくさんあるけれど,それは(Bさんが)できることだから,(選曲や進行は)任せています。子どもの性格とか特徴,動きについての(合理的)配慮などについては,「こうしたら」ってアドバイスすることはよくありますね。それをうまくやってくれていると思います。
(「音楽活動」中の子どもの様子やメタ認知について)
子どもが喜んでね。今流行の「***の歌」とか。なんか,ほかの(絵本の読み聞かせやお絵かき)よりも楽しそうなので,もう少し(「音楽活動」の)時間を取ってあげたいけれどほかのこともしなければいけないし…。言葉が出にくい子でも,この活動(「音楽活動」)は好きなようで。(音に合わせて)よく動きますね。でも,(音そのものは)あんまり聞いていないかも。(休み時間や他の活動中に)なんかよく歌ったり踊ったりしてますね。覚えてしまうのかも。嫌そうな子はいませんね。