[PB32] ゼミナールの授業外活動と教員の専門分野との関係
キーワード:大学教育, 学習環境, 質問紙調査
問題と目的
昨今,多くの大学で,入学当初より基礎ゼミナールや初年次ゼミナールが実施されている。主に3年生から始まる卒業研究を見据えた専門ゼミナールとは,形式や様相が異なるが,自ら問いを持ち,深く考える学びが重視されている表れといえよう。南田 (2011) はゼミナールについて,知識をつける目的に留まらない時間と空間を与えるが,メンバー各自が考えて動かない場合,その空間は無機質なものになってしまうと指摘する。
ゼミナールに関する実証研究としては,教員による授業構成が学生の汎用的技能に与える影響の検討 (伏木田ほか,2014) や,先輩-後輩間の協同プロセスに関する考察 (山田,2011) が挙げられる。ゼミナールは少人数での共同体的な学習環境であり (伏木田,2017),授業内ですべてが完結するわけではない。そうした観点から先行研究を捉え直すと,ゼミナールの授業外に焦点を当て,実態を広く調査する試みは行われていない。
そこで本研究では,ゼミナールにおいて設定されている授業外活動の現状を明らかにした上で,教員の専門分野との関係について検討した。
方 法
調査手順 東京都内に本部が所在する大学の中で,人文学,社会科学,総合科学系学部に所属している教員 (専任講師以上) 約14355名のうち, 525名を系統抽出した。学部2年生以上が対象のゼミナールについて,当該年度の状況を回答するよう求めた。調査の期間は,2015年2月下旬~3月下旬までとした。
調査項目 年齢,性別,専門分野 (人文学,社会科学,総合科学),初めてゼミナールを担当した年齢,対象学年と人数,学習テーマのほか,授業外活動の設定の有無などから構成した。
分析方法 「そのゼミナールでは,授業時間外にどのような活動を設定しましたか?」という質問に対して,計12の活動それぞれに5件法 (1.全くなかった,2.あまりなかった,3.どちらともいえない,4.ある程度あった,5.よくあった)で回答を求めた。
結果と考察
調査票一式を郵送した全体の約30%にあたる157名の教員より回答が得られた。重複回答や未回答などを欠損値として処理した後,有効回答は130名であった。性別については,男性92名 (70.8%),女性37名 (28.5%),年齢は平均51.1歳 (S.D.=10.4),ゼミナールの経験年数は平均14.4歳 (S.D.=9.5) であった。
最も多く設定されていたのは,平均3.4 (S.D.=1.2)の「ゼミコンパ (飲み会・歓迎会等)」で,次いで平均2.7(S.D.=1.6)の「学習活動が設定されているゼミ合宿」,平均2.5(S.D.=1.4)の「サブゼミ (学生が自主的に行うゼミナール・勉強会等)」と続いた。また,教員の専門分野に関する分散分析の結果,Table1に示した活動において主効果が有意であった。
F-Shaffer法による多重比較の結果,例えば「OB・OGとの交流」は社会科学,「地域との交流」は総合科学の平均値が,他分野に比べて有意に高いことが示された。これらの結果から,教員の専門分野はゼミナールの授業外活動の設定に少なからず影響を与えているといえよう。
引用文献
伏木田稚子, 北村智, 山内祐平 (2014) 学部ゼミナールの授業構成が学生の汎用的技能の成長実感に与える影響 日本教育工学会論文誌, 37, 419-433.
伏木田稚子 (2017) ゼミナールの授業外活動の重要性に対する認識――計量テキスト分析による検討 日本教育心理学会第59回総会発表論文集 554.
南田勝也 (2011) 第1章 大学に入ったら. 南田勝也, 矢田部圭介, 山下玲子 (著) ゼミで学ぶスタディスキル. 北樹出版, 13-19.
山田嘉徳 (2011) 先輩後輩関係を指導単位とするゼミ制度の有効性に関する一考察:B&S制度における協同的な学びに着目して 京都大学高等教育研究, 17, 1-14.
付 記
本研究は,JSPS科研費26885022の助成を受けた研究の一部である。ご協力くださった方々に深謝いたします。
昨今,多くの大学で,入学当初より基礎ゼミナールや初年次ゼミナールが実施されている。主に3年生から始まる卒業研究を見据えた専門ゼミナールとは,形式や様相が異なるが,自ら問いを持ち,深く考える学びが重視されている表れといえよう。南田 (2011) はゼミナールについて,知識をつける目的に留まらない時間と空間を与えるが,メンバー各自が考えて動かない場合,その空間は無機質なものになってしまうと指摘する。
ゼミナールに関する実証研究としては,教員による授業構成が学生の汎用的技能に与える影響の検討 (伏木田ほか,2014) や,先輩-後輩間の協同プロセスに関する考察 (山田,2011) が挙げられる。ゼミナールは少人数での共同体的な学習環境であり (伏木田,2017),授業内ですべてが完結するわけではない。そうした観点から先行研究を捉え直すと,ゼミナールの授業外に焦点を当て,実態を広く調査する試みは行われていない。
そこで本研究では,ゼミナールにおいて設定されている授業外活動の現状を明らかにした上で,教員の専門分野との関係について検討した。
方 法
調査手順 東京都内に本部が所在する大学の中で,人文学,社会科学,総合科学系学部に所属している教員 (専任講師以上) 約14355名のうち, 525名を系統抽出した。学部2年生以上が対象のゼミナールについて,当該年度の状況を回答するよう求めた。調査の期間は,2015年2月下旬~3月下旬までとした。
調査項目 年齢,性別,専門分野 (人文学,社会科学,総合科学),初めてゼミナールを担当した年齢,対象学年と人数,学習テーマのほか,授業外活動の設定の有無などから構成した。
分析方法 「そのゼミナールでは,授業時間外にどのような活動を設定しましたか?」という質問に対して,計12の活動それぞれに5件法 (1.全くなかった,2.あまりなかった,3.どちらともいえない,4.ある程度あった,5.よくあった)で回答を求めた。
結果と考察
調査票一式を郵送した全体の約30%にあたる157名の教員より回答が得られた。重複回答や未回答などを欠損値として処理した後,有効回答は130名であった。性別については,男性92名 (70.8%),女性37名 (28.5%),年齢は平均51.1歳 (S.D.=10.4),ゼミナールの経験年数は平均14.4歳 (S.D.=9.5) であった。
最も多く設定されていたのは,平均3.4 (S.D.=1.2)の「ゼミコンパ (飲み会・歓迎会等)」で,次いで平均2.7(S.D.=1.6)の「学習活動が設定されているゼミ合宿」,平均2.5(S.D.=1.4)の「サブゼミ (学生が自主的に行うゼミナール・勉強会等)」と続いた。また,教員の専門分野に関する分散分析の結果,Table1に示した活動において主効果が有意であった。
F-Shaffer法による多重比較の結果,例えば「OB・OGとの交流」は社会科学,「地域との交流」は総合科学の平均値が,他分野に比べて有意に高いことが示された。これらの結果から,教員の専門分野はゼミナールの授業外活動の設定に少なからず影響を与えているといえよう。
引用文献
伏木田稚子, 北村智, 山内祐平 (2014) 学部ゼミナールの授業構成が学生の汎用的技能の成長実感に与える影響 日本教育工学会論文誌, 37, 419-433.
伏木田稚子 (2017) ゼミナールの授業外活動の重要性に対する認識――計量テキスト分析による検討 日本教育心理学会第59回総会発表論文集 554.
南田勝也 (2011) 第1章 大学に入ったら. 南田勝也, 矢田部圭介, 山下玲子 (著) ゼミで学ぶスタディスキル. 北樹出版, 13-19.
山田嘉徳 (2011) 先輩後輩関係を指導単位とするゼミ制度の有効性に関する一考察:B&S制度における協同的な学びに着目して 京都大学高等教育研究, 17, 1-14.
付 記
本研究は,JSPS科研費26885022の助成を受けた研究の一部である。ご協力くださった方々に深謝いたします。