[PB50] 中学生の将来展望と生き方の志向性との関連
社会志向性と個人志向性の二次元的観点を用いて
キーワード:将来展望, 社会志向性, 個人志向性
問題と目的
現代社会は価値の多様化が進み,社会から生き方の共有モデルは提示されることは少なく,将来どう生きるかの選択と,どう生きたかの責任は個人に任されていると言える.こうした社会の中で,将来について悲観したり,不安を抱いたりしている中学生は少なくない.一方で,自分自身の将来に対して希望を持ち,具体的な将来設計を描いている生徒もいる.同じ時代を生きている中学生の間で,将来に対する感情や認知,そして行動について,個人差が見られることに疑問を抱いた.そこで,中学生の将来展望について研究対象とすることにした.
青年期の将来展望については,時間的展望研究から独立した形で行われてきた.しかし中学生の将来展望そのものを扱った研究は見当たらない.本研究では,将来展望を「将来に対して希望を持ち,将来に向けて行動しようとする特性」と定義し,関連する要因について検討することを目的とした.今回は,中学生の生き方の志向性との関連に着目し,伊藤(1993a)が作成した個人志向性・社会志向性尺度を用いて,二次元的観点で検討した.また,半年間における将来展望の変化についても検討した.
調査方法
2016年7月と12月にX県内のY中学校の3年生を対象に,質問紙を用いて実施した.使用した尺度は,将来展望尺度(三宅,2008)と個人志向性・社会志向性尺度(伊藤,1993a)である.
結果と考察
(1) 将来展望は個人志向性と社会志向性と正の関連があり,両者のバランスによって将来展望の様相は異なるということが示された.両志向性が高い生徒ほど,将来展望は高かった.また個人志向性と,社会志向性のどちらかが高い生徒は,両者とも低い生徒より,将来展望が高かったが,個人志向性と社会志向性のどちらが高いかで,将来展望に差異は見られなかった.
(2) 中学3年生の7月と12月で将来展望得点を比較したが有意な差は見られなかった.しかし,7月の将来展望得点と2時点間での将来展望の差得点の間には負の相関が見られたことから,7月に将来展望が低かった生徒が,12月にかけて将来展望が伸び,7月に将来展望が高かった生徒は,12月にかけて将来展望の伸びが小さいことが示された.この結果について,2学期に集中的に行われて進路指導や,高校受験に向けた環境の変化が影響していると考えられる.それに対して,7月に将来展望が高かった生徒が,12月に低下したのは,今まで漠然と肯定的に捉えていた将来を,より近いものとして現実的に捉えるようになり,将来を楽観視できなくなったからだと考えられる.
(3) 将来展望は,7月から12月にかけて個人志向性が正の変化があった場合は高まるが,社会志向性の変化とは関連がないことが検証された.個人志向性が高まるということは,自分自身の基準を尊重し,個性を活かした生き方への志向性(伊藤,1993b)が高まったということである.7月から12月にかけて,自己の欲求が明確になり,将来への動機づけが高まったと考えられる.7月から12月にかけて学校で行われた自己理解のプログラムや個人面談,そして受験校の選択機会などが,個人志向性を高めるために,効果的だった可能性がある.しかし,具体的にどの介入が個人の生き方の志向性に影響を与えたかは,本研究では明らかになっていない.
まとめ
将来展望は個人・社会志向性と関連が見られた.また,個人内で変化する特性であり,個人志向性が高まると,将来展望が高まることが示された.
今回用いた将来展望尺度は時間的展望尺度(白井,1994)をもとに,大学生を対象にした調査で使用されたものであり,中学生の将来展望の測定に有用だったかは検討の余地がある.今後,将来展望に関する知見を深め,中学生版の将来展望尺度の作成が必要である.
引用文献
伊藤美奈子(1993a). 個人志向性・社会志向性尺度の作成及び信頼性・妥当性の検討. 心理學研究, 64(2), 115-122.
伊藤美奈子(1993b). 個人志向性・社会志向性に関する発達的研究.教育心理学研究, 41(3), 293-301.
三宅俊治(2008). 将来展望に及ぼす成長志向不安と対人関係認知の影響―若年・中年・高齢者の比較. 吉備国際大学臨床心理相談研究所紀要, 5, 23-36.
現代社会は価値の多様化が進み,社会から生き方の共有モデルは提示されることは少なく,将来どう生きるかの選択と,どう生きたかの責任は個人に任されていると言える.こうした社会の中で,将来について悲観したり,不安を抱いたりしている中学生は少なくない.一方で,自分自身の将来に対して希望を持ち,具体的な将来設計を描いている生徒もいる.同じ時代を生きている中学生の間で,将来に対する感情や認知,そして行動について,個人差が見られることに疑問を抱いた.そこで,中学生の将来展望について研究対象とすることにした.
青年期の将来展望については,時間的展望研究から独立した形で行われてきた.しかし中学生の将来展望そのものを扱った研究は見当たらない.本研究では,将来展望を「将来に対して希望を持ち,将来に向けて行動しようとする特性」と定義し,関連する要因について検討することを目的とした.今回は,中学生の生き方の志向性との関連に着目し,伊藤(1993a)が作成した個人志向性・社会志向性尺度を用いて,二次元的観点で検討した.また,半年間における将来展望の変化についても検討した.
調査方法
2016年7月と12月にX県内のY中学校の3年生を対象に,質問紙を用いて実施した.使用した尺度は,将来展望尺度(三宅,2008)と個人志向性・社会志向性尺度(伊藤,1993a)である.
結果と考察
(1) 将来展望は個人志向性と社会志向性と正の関連があり,両者のバランスによって将来展望の様相は異なるということが示された.両志向性が高い生徒ほど,将来展望は高かった.また個人志向性と,社会志向性のどちらかが高い生徒は,両者とも低い生徒より,将来展望が高かったが,個人志向性と社会志向性のどちらが高いかで,将来展望に差異は見られなかった.
(2) 中学3年生の7月と12月で将来展望得点を比較したが有意な差は見られなかった.しかし,7月の将来展望得点と2時点間での将来展望の差得点の間には負の相関が見られたことから,7月に将来展望が低かった生徒が,12月にかけて将来展望が伸び,7月に将来展望が高かった生徒は,12月にかけて将来展望の伸びが小さいことが示された.この結果について,2学期に集中的に行われて進路指導や,高校受験に向けた環境の変化が影響していると考えられる.それに対して,7月に将来展望が高かった生徒が,12月に低下したのは,今まで漠然と肯定的に捉えていた将来を,より近いものとして現実的に捉えるようになり,将来を楽観視できなくなったからだと考えられる.
(3) 将来展望は,7月から12月にかけて個人志向性が正の変化があった場合は高まるが,社会志向性の変化とは関連がないことが検証された.個人志向性が高まるということは,自分自身の基準を尊重し,個性を活かした生き方への志向性(伊藤,1993b)が高まったということである.7月から12月にかけて,自己の欲求が明確になり,将来への動機づけが高まったと考えられる.7月から12月にかけて学校で行われた自己理解のプログラムや個人面談,そして受験校の選択機会などが,個人志向性を高めるために,効果的だった可能性がある.しかし,具体的にどの介入が個人の生き方の志向性に影響を与えたかは,本研究では明らかになっていない.
まとめ
将来展望は個人・社会志向性と関連が見られた.また,個人内で変化する特性であり,個人志向性が高まると,将来展望が高まることが示された.
今回用いた将来展望尺度は時間的展望尺度(白井,1994)をもとに,大学生を対象にした調査で使用されたものであり,中学生の将来展望の測定に有用だったかは検討の余地がある.今後,将来展望に関する知見を深め,中学生版の将来展望尺度の作成が必要である.
引用文献
伊藤美奈子(1993a). 個人志向性・社会志向性尺度の作成及び信頼性・妥当性の検討. 心理學研究, 64(2), 115-122.
伊藤美奈子(1993b). 個人志向性・社会志向性に関する発達的研究.教育心理学研究, 41(3), 293-301.
三宅俊治(2008). 将来展望に及ぼす成長志向不安と対人関係認知の影響―若年・中年・高齢者の比較. 吉備国際大学臨床心理相談研究所紀要, 5, 23-36.