日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB51] 保育者養成課程学生の共感性の変化

他専攻の学生と比較して

木野和代1, 内田千春2, 鈴木有美3 (1.宮城学院女子大学, 2.東洋大学, 3.福岡女子大学)

キーワード:多次元共感性, 縦断調査, 女子学生

問題と目的
 共感性は,保育士や幼稚園教諭といった保育者 (e.g., 秋政他, 2009) など主に対人援助職を中心とした職業場面において必要な資質として重要視されている。保育所保育指針 (厚生労働省, 2017) においても「一人一人の子どもの気持ちを受容し,共感しながら,子どもとの継続的な信頼関係を築いていく。」ことが挙げられており,保育士には,他者に共感する能力が求められることがわかる。実際,保育者養成においては,共感性の育成を目指し,共感的かかわりを扱う教育活動が行われることが多い。本報告では,多次元共感性尺度を用いて,保育者養成課程の学生の共感性の各側面の変化の様相を,他専攻の学生と比較しながら縦断的に検討することとした。
 なお,本報告の調査対象となる保育者養成課程の学生は保育の講義や実技を履修するほか,2年次6月に保育所実習,夏休み以降に2週間の施設実習を経験する。3年次には複数の演習で共感や共生などについて学ぶ機会をもち,保育所・幼稚園実習に3回 (計6週間) 赴く。これらにより,共感性の重要性を十分認識し,これを高めるよう努めていると予想される。

方  法
調査対象と手続き (a) 保育者養成課程に在籍する女子大学生,(b) 心理学を専攻する女子大学生,(c)教員養成課程に在籍する男女大学生を対象に,質問紙法により縦断調査を行った。調査時期は1年次,3年次前期および後期であり,3回連続して回答した者のみを分析対象とした ((a) 122名,(b) 80名,(c) 女35名,男53名)。調査用紙は講義時間を利用して一斉に配付し,その場で回答と提出を求めた。なお,(c) については教育実習後の3年次後期に調査を実施する予定であったが,実施できなかったため,2回分の回答を集計した。(c)の一部学生 (女14名,男2名) は6月に幼稚園実習に出かけており,その後3年次前期の調査に回答した。
調査内容 本報告では,多次元共感性尺度 (鈴木・木野, 2008) への回答を分析対象とした。他者指向的反応 (5項目),自己指向的反応 (4項目),被影響性 (5項目),視点取得 (5項目),想像性 (5項目) の5下位概念からなる。回答は5件法で求めた。

結果と考察
 各下位尺度得点は原典にしたがって,構成項目の合計点とした。各下位尺度について,専攻 (保育者養成/心理学専攻) ×調査時期 (3時点) の分散分析をおこなった。ここでは,自己指向的反応と被影響性の結果について教員養成系学生の2時点の結果を含めて図示した。
 これらは,共感疲労の観点から課題視されてきた共感性の側面である。木野他 (2011) 等の一連の研究では,他者の窮地に共感しすぎることが共感疲労を招く恐れもあることから,保育者志望学生を対象とした共感疲労に陥りにくい共感性のあり方を検討している。これまでに,自己指向的反応と被影響性の高さが好ましくない結果を導く可能性が示されてきた。また,一般の女子学生と比較すると,自己指向的反応を除く,4側面で保育者養成課程の学生の方が,より高得点であることが示されている。従って,適応的な職業生活のためには,自己指向的反応を低めることが望まれよう。
 このような自己指向的反応については,専攻の主効果,および,専攻と時期の交互作用が見られた(Figure 1)。心理学専攻学生が上昇傾向,保育者養成系が下降傾向にあり,結果として3年次後期での両群での開き(保育者養成>心理学専攻)が見られた。被影響性については,時期の主効果が見られ,保育者養成系,心理学専攻ともに上昇傾向にあった(Figure 2)。3時点目の調査が実施できなかったが,教員養成課程の女子学生と比べると,同じ子どもの教育支援にあたる職でも,学生たちの様相が異なることが見てとれる。特に被影響性の結果については,教員志望学生の方が巻き込まれにくくなっていく様子が見られた。変化の背景についてはさらなる検討が必要である。

付 記 
本研究は,JSPS科研費(課題番号:JP26380943;研究代表者:木野和代)の助成を受けた。