[PB56] 発語の見られない自閉症スペクトラム障害児への療育
一事例に関する構造化された環境の検討
キーワード:自閉症スペクトラム障害, 構造化, 療育
問題と目的
自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder;以下ASDと略記)は,DSM-5(2014)の中で,「社会コミュニケーションの障害」,「限定的な興味・行動・反復行動」とされている。WHO(1992)は,ASDの状態像を,中枢神経系の働きに異常があり,見る,聞く,触る,嗅ぐなどの知覚が正しく機能しないこと,そのために,周りの出来事の意味を上手く理解できず,混乱の中で強い不安や恐怖心を抱いて生活している状態と捉えられ,周囲の環境がASD児に与える影響は大きい。また,支援方法に関して西村(2004)は,TEACHプログラムの中で,ASDの認知特性を考慮した「構造化(環境を理解しやすいように再編成する)」が効果を上げているとしている。山本(2009)は,米国精神保健研究所(National Institute of Mental Health, 2004)が,応用行動分析学(Applied Behavior Analysis;以下ABAと略記)を効果的で広く用いられるASDの治療法だと述べ,ASDの認知の特性を理解し,支援することが有効との報告が多いとしている。
本研究では,ABAに基づく構造化した環境下での個別療育を行い,ASD児に行動の変容が見られた。よって,ASD児の行動の背景と行動変容をもたらした環境調整について検討を行っていく。
方 法
対象児:A(開始時は3歳1カ月,男児,ASDの診断有,療育手帳所持)
主訴:言葉を話して欲しい,人への乱暴をやめてほしい
開始時:視線は合わず,言葉かけに反応しない。支援者の手伝いを嫌がり,思い通りにならないと,暴れて物を投げる等,癇癪を起こす。保育園での活動中は落ち着かず,走り回り,通りざまに他児の髪の毛を引っ張る等見られ,発語は見られない。
環境設定
本研究では,療育中に行った環境調整と,主訴である言葉と問題行動に焦点を当て,質的に検討を行っていく。
結 果
table
考 察
岩永(2013)は,ASD児の80パーセント以上に,感覚刺激に対する反応異常が見られること,同時に過敏性と低反応どちらも見られることが多く,感覚の問題が問題行動と関連があると述べている。介入当初,Aの落ち着いて行動する事の難しさや,言葉かけに反応しないことは,周囲の視覚刺激に過敏に反応したり,聴覚刺激への鈍感さに起因すると考えられる。これらの感覚の問題に対するABAに基づく支援として,山本(2009)は,“安定した行動を引き出すように環境を整備し,行動問題と同じ機能を持つ適切なコミュニケーション行動を増やしていくことが最も有効な支援手段”だとしている。本研究で,Aの視覚刺激への過敏さを考慮し,視覚刺激を最小限にした環境を設定することで,人や聴覚刺激に反応できるように促した。そして,一貫した環境設定の下で,人に注意を向けられるようになったAは,人と関わる楽しさを感じ始め,人から関わられることを受け入れられるようになったと考えられる。さらに,終わりを意味するサイン言語の導入により,自分の気持ちを適切に他者に伝えられることを経験する。その際,適切な行動を増やすことを目的として,Th.が,意図を汲みすぎず,待つという対応を行うことで,発語の必要性を感じはじめ,言葉による表出に繋がったと考えられる。
山本(2007)が,ASD児のコミュニケーションの問題を“環境との交互作用の不全”と示しているように,本研究では,ABAに基づき,知覚が機能しやすいように構造化された環境での適切なコミュニケーション行動の促しにより,対人認知が向上し,言語理解が促され,模倣を通した適切なコミュニケーション行動が見られ始めた。このことは,個人と環境が交互に作用しはじめ,発達が促されたと言え,ASD児にとって環境の果たす役割の大きさを表していると言える。
自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder;以下ASDと略記)は,DSM-5(2014)の中で,「社会コミュニケーションの障害」,「限定的な興味・行動・反復行動」とされている。WHO(1992)は,ASDの状態像を,中枢神経系の働きに異常があり,見る,聞く,触る,嗅ぐなどの知覚が正しく機能しないこと,そのために,周りの出来事の意味を上手く理解できず,混乱の中で強い不安や恐怖心を抱いて生活している状態と捉えられ,周囲の環境がASD児に与える影響は大きい。また,支援方法に関して西村(2004)は,TEACHプログラムの中で,ASDの認知特性を考慮した「構造化(環境を理解しやすいように再編成する)」が効果を上げているとしている。山本(2009)は,米国精神保健研究所(National Institute of Mental Health, 2004)が,応用行動分析学(Applied Behavior Analysis;以下ABAと略記)を効果的で広く用いられるASDの治療法だと述べ,ASDの認知の特性を理解し,支援することが有効との報告が多いとしている。
本研究では,ABAに基づく構造化した環境下での個別療育を行い,ASD児に行動の変容が見られた。よって,ASD児の行動の背景と行動変容をもたらした環境調整について検討を行っていく。
方 法
対象児:A(開始時は3歳1カ月,男児,ASDの診断有,療育手帳所持)
主訴:言葉を話して欲しい,人への乱暴をやめてほしい
開始時:視線は合わず,言葉かけに反応しない。支援者の手伝いを嫌がり,思い通りにならないと,暴れて物を投げる等,癇癪を起こす。保育園での活動中は落ち着かず,走り回り,通りざまに他児の髪の毛を引っ張る等見られ,発語は見られない。
環境設定
本研究では,療育中に行った環境調整と,主訴である言葉と問題行動に焦点を当て,質的に検討を行っていく。
結 果
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考 察
岩永(2013)は,ASD児の80パーセント以上に,感覚刺激に対する反応異常が見られること,同時に過敏性と低反応どちらも見られることが多く,感覚の問題が問題行動と関連があると述べている。介入当初,Aの落ち着いて行動する事の難しさや,言葉かけに反応しないことは,周囲の視覚刺激に過敏に反応したり,聴覚刺激への鈍感さに起因すると考えられる。これらの感覚の問題に対するABAに基づく支援として,山本(2009)は,“安定した行動を引き出すように環境を整備し,行動問題と同じ機能を持つ適切なコミュニケーション行動を増やしていくことが最も有効な支援手段”だとしている。本研究で,Aの視覚刺激への過敏さを考慮し,視覚刺激を最小限にした環境を設定することで,人や聴覚刺激に反応できるように促した。そして,一貫した環境設定の下で,人に注意を向けられるようになったAは,人と関わる楽しさを感じ始め,人から関わられることを受け入れられるようになったと考えられる。さらに,終わりを意味するサイン言語の導入により,自分の気持ちを適切に他者に伝えられることを経験する。その際,適切な行動を増やすことを目的として,Th.が,意図を汲みすぎず,待つという対応を行うことで,発語の必要性を感じはじめ,言葉による表出に繋がったと考えられる。
山本(2007)が,ASD児のコミュニケーションの問題を“環境との交互作用の不全”と示しているように,本研究では,ABAに基づき,知覚が機能しやすいように構造化された環境での適切なコミュニケーション行動の促しにより,対人認知が向上し,言語理解が促され,模倣を通した適切なコミュニケーション行動が見られ始めた。このことは,個人と環境が交互に作用しはじめ,発達が促されたと言え,ASD児にとって環境の果たす役割の大きさを表していると言える。