日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB65] LGBに関する知識がLGBに対する態度とその心理的関連要因に及ぼす影響

水野文香1, 鈴木茜2, 伊與田万実#3, 今井正司4 (1.岐阜県大垣市立牧田小学校, 2.名古屋学芸大学大学院, 3.名古屋学芸大学, 4.名古屋学芸大学)

キーワード:LGB, 批判的思考態度

研究の背景と目的
 LGB(Lesbian, Gay and Bisexual)に対する社会の関心が近年高まりつつある。しかしながら,性に関して柔軟な社会であると言いきれるほどに,偏見・差別・誤解がなくなっているわけではない(葛西,2011)。この背景には,LGBが異性愛者にとって曖昧なものとして認識されていることが考えられる。曖昧さに非寛容な者は権威主義的パーソナリティ(Frenkel-Brunswik, 1949)などの,偏った態度を形成しやすいと考えられている(西村, 2007)。もう1つの背景要因としては,批判的思考によって差別的なステレオタイプ的思考や行動が見直されていないことが考えられ,性の多様性に関しても,その影響性は大きいと考えられる。そこで本研究では,LGBに関する知識量が「LGBへの態度」「曖昧さへの態度」「批判的思考態度」「LGBの接触経験」に及ぼす影響について検討することを目的とした。

方  法
調査対象者と手続き
 東海地方に在学する大学生207名を対象に質問紙調査を実施した。未回答および記入漏れを除いた190名の回答を分析対象とした。本研究は,名古屋学芸大学における研究倫理委員会の審査・承認を受けて実施された(倫理番号:251)。
調査材料
a)同性愛に対する態度尺度(和田,1996):「嫌悪・拒否」「ネガティブイメージ」「容認・寛容」の下位因子で構成されている(48項目5件法)。
b)曖昧さへの態度尺度(ATAS;西村,2007):曖昧さの「享受」「不安」「受容」「統制」「排除」の下位因子で構成されている(26項目6件法)。
c)批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004):「論理的思考への自覚」「探究心」「客観性」「証拠の重視」の下位因子で構成されている(本研究では簡易版を使用;18項目5件法)。
d)同性愛に関する知識(中島,2014):同性愛に関する知識量の測定に用いた(23項目3件法)。
e)同性愛に関する接触経験:中島(2014)を参考に,12項目を作成し,同性愛に関する接触経験量の測定に用いた(2件法)。

結  果
 同性愛に関する知識の平均点と標準偏差を算出し(Ave.= 40.9±16.4),平均値+1SD以上の得点群(高得点群:H群),平均値−1SD以下の得点群(低得点群:L群),それ以外の得点群(平均得点群:M群)に群分けした。群の要因を独立変数とし,各尺度の下位因子を従属変数とした分散分析を行った(多重比較検定:Tukey法)。その結果,同性愛に対する態度の「ネガティブイメージ(F=3.03, p<.05)」に有意な群間差が示された。曖昧さへの態度においては,「享受」にのみ有意傾向の群間差が示された(F=2.52, p<.08)。批判的思考態度においては,「探究心(F=4.35, p<.01)」に有意な群間差が示された。また,同性愛に関する接触経験に有意な群間差が示された(F=5.50, p<.01)。

考  察
 本研究の結果から,LGBに関する知識量が高い者ほど,LGBに対する「ネガティブイメージ」は低く,「容認・寛容」であることが示された。曖昧さに対する態度と批判的思考態度における結果から,LGBに対するポジティブな態度や正確な知識は,批判的思考態度の向上によって得られやすくなることが示唆された。また,同性愛に関する接触経験においては,知識量に敏感に反応していることから,LGBT者と直接的/間接的に接する教育活動の有効性を示唆することができる。今後は本研究で得られた知見を生かしながら,多様性教育の科学的理解と発展が期待される。