日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB66] 小学校中学年における自律性支援を志向した学級集団づくりの事例

学級目標の設定の視点から

藤原寿幸 (東京福祉大学)

キーワード:特別活動, 小学校中学年, 学級目標

問題と目的
 児童・生徒の主体性を育てる1つの方法として,学級目標の設定があげられる。心理学領域において,学級の目標構造として概念化されてきたものに「社会的目標(Wentzel,1998)」がある。社会的目標は,対人関係や集団生活における社会的な成果を予測するうえで重要な目標(大谷・岡田・中谷・伊藤,2016)であり,社会面における適応から学業面の動機づけ,達成などにも影響を及ぼすことが明らかとなっている(大谷・中谷・伊藤・岡田,2012;Wentzel,1998ほか)。そこで本研究は,児童生徒一人一人の主体的な活動を促すための基盤となる学級集団づくりにおいて,小学校中学年児童の発達に応じた学級目標の設定と,自律性を支援する教員の指導行動の関連を整理し,その効果を検証していくこととした。

方  法
調査時期:20XX年6月(Time1),12月(Time2)
対象学級:東京都内公立小学校3年A組(男子15名,女子12名)である。
測定用具:「学級満足度尺度」「学校生活意欲尺度」(河村,1998)を6月と12月に実施した。
調査手続き:学校長,学級担任に承諾を得た上で,学級ごとに集団方式で質問紙における調査を実施した。調査を実施するにあたり,この調査は学校の成績に関係がないこと,回答は強制ではなく回答しなくても不利益を被らないこと,回答は担任教師を含め教職員に見られることなく,データ処理されること,個人のプライバシーは守られることが調査参加者に伝えられた。また,上記内容についてはフェイスシートにも明記した。
自律性支援を志向した4つの視点
①教室全体を使った全員参加の学級目標づくり
 「どのような3年生になりたいか」「いいクラスってどんなクラスか」「どのようなクラスにしたいか」ということについて児童全員に用紙に表現させ,全員分学級だよりに載せて発行し,そのたびに全員で読み合った。全員で書いた「どのようなクラスにしたいか」の中から,気に入ったキーワードを全員が一人3~4枚ほど短冊に書き,それを教室の床全体に広げてKJ法で分類して学級目標を作成した。
②全員がリーダーとフォロワーを体験
 フォロワーの重要性を指導しながら,全員が2学期までのどこかで学級の代表やリーダーなどを経験できるよう配慮した。また,それを互いに承認し合う学級集会を開いた。
③児童の主体性・自律性を生かした学級目標達成のためのR-PDCAサイクル(田中,2013)の展開
 2学期からは,学級目標への気持ちの停滞感を防ぎ,達成のための動機づけを高めていくために,学級目標の達成度についてのアンケート結果をレーダーチャートで可視化し,分析・改善のための話し合い,活動を行い,再びアンケートを取り,変化について話し合った。

結果と考察
 対象学級児童のTime1とTime2の学校生活意欲尺度と学級満足度尺度の比較をした結果,友達関係,学習意欲,学級の雰囲気と承認得点は有意に高くなり,被侵害得点は有意に低くなった(Table 1)。
 ①では児童全員の思考の外化を繰り返すことにより,全員が当事者意識をもって学級目標づくりに参加することができ,主体的な学級づくりの基盤ができたと考えられる。
 ③では,学級目標の達成状況をレーダーチャートによって可視化することによって,児童は学級について主体的・具体的な分析が可能となり,それを受けて必要な取り組みを学級目標達成と結びつけながら実践していくことにより,学級目標の形骸化を防ぎ,学級目標を達成していく気持ちを維持・向上させることにつながったと考えられる。
 ②では全員がリーダーなどを務めるだけではなく,それを互いに認め合う学級集会やフォロワーの重要性を学ぶ機会を設けたことにより,より効果的な活動になったと考える(河村,2014)。
 したがって学級目標の設定を中心とした以上の3つの視点は,小学校中学年児童の主体性や自律性を高めることにおいて有用性があることが示唆されたと考える。