[PB67] 個人と集団活動を通したレジリエンス・プログラムの効果検討
キーワード:レジリエンス, 予防的介入, 効果研究
問題と目的
レジリエンス(resilience)とは,「困難で脅威的な状況にもかかわらず,うまく適応する過程・能力・結果」と定義され(Masten, Best, & Garmezy, 1990),誰もが獲得し身に付けられる能力である(Grotberg, 2002)。こうしたレジリエンスをどのように高められるかは国際的に大きな関心が持たれている。レジリエンスの拡がりには潜在的な資質を「発掘」することによる拡がりと,新たに「増幅」することによる拡がりがあり,またその拡がりのプロセスは「個人」で進めるものと,「他者」との間で進められていくものがある(平野,2017)。すなわち,レジリエンスに対するアプローチは「発掘・増幅(資質の拡がり)/個人・他者(プロセス)」の二軸で示すことができ,「個人活動」と「集団活動」の両方をプログラムに導入することが有用である。とりわけレジリエンスの獲得において重要な「気づき」や「自己理解」は,個人活動だけでなく,他者との集団活動を通して獲得されることが明らかとなっている(Robertson, Cooper, Sarkar, & Curran, 2015)。集団活動を重視した介入研究はいくつか報告されており,たとえば大学体育授業におけるレジリエンス促進を検討したUeno & Hirano(2017)の研究では集団活動を通した計15回(各回90分)のプログラムにより,レジリエンス(資質的・獲得的要因)の得点が有意に上昇したことが示されている(d = 0.48)。
そこで本研究では,平野(2017)の視点にもとづき,個人活動と集団活動の両方を含むレジリエンス・プログラムを構成しその効果を検証することを目的とした。具体的には,計4回(1)自己―増幅,2)自己―発掘,3)他者―発掘,4)他者―増幅)のプログラムを実施し,個人のレジリエンス得点の変化を明らかにする。
方 法
調査対象者と手続き 調査時期は2017年の9月から2018年1月であった。調査対象者は首都圏の大学に在籍する学生であり,本研究の介入プログラムの信頼性を高めるために,同様のプログラムを異なる対象者に実施した。分析対象者は全てのプログラムを受講しており,内訳は次の通りである。Sample 1は53名(男性11名,女性42名,平均年齢18.66歳,SD = 0.73),Sample 2は55名(男性14名,女性41名,平均年齢18.98歳,SD = 0.97),Sample 3は67名(男性25名,女性42名,平均年齢19.08歳,SD = 1.81)であった。調査は第一著者の担当授業にて行われ,週1回の計4回(各回90分)のプログラムを実施した。具体的に,1回目はレジリエンスの概念の理解(自己―増幅),2回目は個人活動を通した自身のレジリエンスの理解(自己―発掘),3回目は他者から見た自身のレジリエンスの理解(他者―発掘),4回目は集団活動を通した自身のレジリエンスの理解(他者―増幅)であった。なお,質問紙への回答は1回目(Pre)と4回目(Post)に行った。
調査内容 フェイスシートは性別と年齢,回答した尺度は二次元レジリエンス要因尺度(平野, 2010)であった。本研究では資質的要因と獲得的要因に分類し,分析に用いた。
結果と考察
統計学的解析はHAD16.012(清水, 2016)を使用して行われた。分析の結果,全てのSampleにおいて,Preと比較しPostの方が資質的・獲得的要因,いずれも有意に得点が上昇した(p < .001)。資質的・獲得的要因それぞれの効果量(d)は,Sample 1で0.43(95%CI[0.04,0.82])と0.61(95%CI[0.21,1.00]),Sample 2で0.45(95%CI[0.07,0.83])と0.55(95%CI[0.16,0.94]),Sample 3で0.60(95%CI[0.25,0.95])と0.93(95%CI[0.57,1.29])であった。異なる対象者に実施した場合でも,資質的要因では小程度以上,獲得的要因では中程度以上の効果量が確認された。
以上のことから,本研究のレジリエンス・プログラムの有用性が示された。しかし,各回のプログラム内容(個人/集団活動)による詳細な効果の違いは明らかにできなかった。引き続き,本プログラムの一般化に向け,ランダム化比較試験などによって検証することが望まれる。
付 記
本研究は,JSPS科研費16J00972(研究課題:スポーツ集団を通したスポーツ競技者のレジリエンスの獲得・形成プロセスの解明)および,JSPS科研費15K17291(潜在的レジリエンスを引き出す臨床心理学的アプローチの開発)の助成を受けて実施された。
レジリエンス(resilience)とは,「困難で脅威的な状況にもかかわらず,うまく適応する過程・能力・結果」と定義され(Masten, Best, & Garmezy, 1990),誰もが獲得し身に付けられる能力である(Grotberg, 2002)。こうしたレジリエンスをどのように高められるかは国際的に大きな関心が持たれている。レジリエンスの拡がりには潜在的な資質を「発掘」することによる拡がりと,新たに「増幅」することによる拡がりがあり,またその拡がりのプロセスは「個人」で進めるものと,「他者」との間で進められていくものがある(平野,2017)。すなわち,レジリエンスに対するアプローチは「発掘・増幅(資質の拡がり)/個人・他者(プロセス)」の二軸で示すことができ,「個人活動」と「集団活動」の両方をプログラムに導入することが有用である。とりわけレジリエンスの獲得において重要な「気づき」や「自己理解」は,個人活動だけでなく,他者との集団活動を通して獲得されることが明らかとなっている(Robertson, Cooper, Sarkar, & Curran, 2015)。集団活動を重視した介入研究はいくつか報告されており,たとえば大学体育授業におけるレジリエンス促進を検討したUeno & Hirano(2017)の研究では集団活動を通した計15回(各回90分)のプログラムにより,レジリエンス(資質的・獲得的要因)の得点が有意に上昇したことが示されている(d = 0.48)。
そこで本研究では,平野(2017)の視点にもとづき,個人活動と集団活動の両方を含むレジリエンス・プログラムを構成しその効果を検証することを目的とした。具体的には,計4回(1)自己―増幅,2)自己―発掘,3)他者―発掘,4)他者―増幅)のプログラムを実施し,個人のレジリエンス得点の変化を明らかにする。
方 法
調査対象者と手続き 調査時期は2017年の9月から2018年1月であった。調査対象者は首都圏の大学に在籍する学生であり,本研究の介入プログラムの信頼性を高めるために,同様のプログラムを異なる対象者に実施した。分析対象者は全てのプログラムを受講しており,内訳は次の通りである。Sample 1は53名(男性11名,女性42名,平均年齢18.66歳,SD = 0.73),Sample 2は55名(男性14名,女性41名,平均年齢18.98歳,SD = 0.97),Sample 3は67名(男性25名,女性42名,平均年齢19.08歳,SD = 1.81)であった。調査は第一著者の担当授業にて行われ,週1回の計4回(各回90分)のプログラムを実施した。具体的に,1回目はレジリエンスの概念の理解(自己―増幅),2回目は個人活動を通した自身のレジリエンスの理解(自己―発掘),3回目は他者から見た自身のレジリエンスの理解(他者―発掘),4回目は集団活動を通した自身のレジリエンスの理解(他者―増幅)であった。なお,質問紙への回答は1回目(Pre)と4回目(Post)に行った。
調査内容 フェイスシートは性別と年齢,回答した尺度は二次元レジリエンス要因尺度(平野, 2010)であった。本研究では資質的要因と獲得的要因に分類し,分析に用いた。
結果と考察
統計学的解析はHAD16.012(清水, 2016)を使用して行われた。分析の結果,全てのSampleにおいて,Preと比較しPostの方が資質的・獲得的要因,いずれも有意に得点が上昇した(p < .001)。資質的・獲得的要因それぞれの効果量(d)は,Sample 1で0.43(95%CI[0.04,0.82])と0.61(95%CI[0.21,1.00]),Sample 2で0.45(95%CI[0.07,0.83])と0.55(95%CI[0.16,0.94]),Sample 3で0.60(95%CI[0.25,0.95])と0.93(95%CI[0.57,1.29])であった。異なる対象者に実施した場合でも,資質的要因では小程度以上,獲得的要因では中程度以上の効果量が確認された。
以上のことから,本研究のレジリエンス・プログラムの有用性が示された。しかし,各回のプログラム内容(個人/集団活動)による詳細な効果の違いは明らかにできなかった。引き続き,本プログラムの一般化に向け,ランダム化比較試験などによって検証することが望まれる。
付 記
本研究は,JSPS科研費16J00972(研究課題:スポーツ集団を通したスポーツ競技者のレジリエンスの獲得・形成プロセスの解明)および,JSPS科研費15K17291(潜在的レジリエンスを引き出す臨床心理学的アプローチの開発)の助成を受けて実施された。