日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB71] 児童のストレスに影響を及ぼす慢性疲労症状に対する能動的注意制御機能の緩衝効果

今井正司1, 伊與田万実#2, 鈴木茜3 (1.名古屋学芸大学, 2.名古屋学芸大学, 3.名古屋学芸大学)

キーワード:注意制御機能, 慢性疲労, 児童

研究の背景と目的
 慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)とは,6ヵ月以上持続する疲労・倦怠感によって社会生活に支障をきたす疾患である。児童の抱える慢性的疲労は学校不適応の状態にある児童に多くみられる症状である。特に,不登校傾向にある児童においては,疲労倦怠感や活力低下を中心とする不調を示しており,CFSと類似した症状を多く保有していることも明らかにされている(中村ら, 2010)。CFSの主な認知的症状としては,注意制御機能の低下が報告されている。注意制御機能とは「選択的注意(多くの対象から特定の対象に注意を向ける機能)」「転換的注意(注意を他の対象に適切に切り替える機能)」「分割的注意(複数の対象に同時に注意を分配させる機能)」で分類される場合が多く(今井, 2016),児童期のCFSは,転換的注意の機能低下が明らかになっている(川谷, 2011)。しかしながら,これらの研究は入院患者や通院患者を対象にしていることから,健康状態にある児童の慢性的疲労症状を捉えているとは言い難い。学習場面において注意能力を必要とする学校現場においては,疲労症状をストレスの要因として訴える児童が多い状況を考えると,アナログ研究的な視点から児童の疲労症状と注意制御との関連性を検討することは,早急に把握すべき課題であると考えられる。そこで本研究では,児童における能動的注意制御機能がストレス脆弱要因の慢性疲労症状に及ぼす影響について検討することを目的とした。

方  法
調査対象者と手続き
 東海圏の公立小学校に通学する4年生から6年生を対象に一斉調査を実施した。記入漏れなどを除いた385名分を有効回答として分析の対象とした。なお,本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受けて行われた(倫理番号:210)。
調査材料
a)Chalder Fatigue Scale(CFS;花輪ら,2002):慢性疲労に関連する疲労感全般について測定する尺度である。「身体的疲労」と「精神的疲労」の因子で構成されている(14項目4件法)。
b)小学生用ストレス反応尺度(PSI;坂野ら, 2007):小学生のストレス反応の強度を測定する尺度である。「身体反応」「抑うつ・不安」「不機嫌・怒り」「無気力」の因子で構成されている(12項目4件法)。
c)能動的注意制御尺度(VACS-C;今井ら, 2014);児童の能動的注意制御を測定する尺度である。「選択的注意」「転換的注意」「分割的注意」の因子で構成されている(18項目6件法)。

結  果
 Figureの構造モデルを作成し,共分散構造分析を用いて変数間の影響性を検討した(GFI=.979, AGFI=.945, RMSEA=.073)。その結果,CFS(慢性疲労症状)はStress(ストレス)に正の影響を示した(β=.79, p<.001)。VACS(能動的注意制御機能)からCFS(慢性疲労症状)には負の影響が示された(β=-.58, p<.000)。

考  察
 本研究の目的は,健康的な小学生における能動的注意制御機能がストレスの脆弱要因となる慢性疲労症状を緩和する効果について検討することであった。本研究の結果から,慢性疲労症状はストレスの脆弱要因となることが改めて示された。しかしながら,これらの慢性疲労症状は,能動的注意制御機能を促進することで緩和できることが示唆された。能動的注意制御能力は,前頭前野背外側部の発達と関連していることを考えると,それらの発達過程である小学生高学年に対する予防的効果は大きいと考えられる。今後は,児童の脳機能の発達段階から精神保健教育をプログラム化することが有用であると思われる。