日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB72] 自己道徳観がセルフ・コンパッションとBPD特性に及ぼす影響

田中夏美1, 鈴木茜2, 伊與田万実#3, 今井正司4 (1.安城市立桜林小学校, 2.名古屋学芸大学大学院, 3.名古屋学芸大学, 4.名古屋学芸大学)

キーワード:道徳, セルフ・コンパッション, BPD特性

研究の背景と目的
 平成30年度から,道徳は「特別の教科:道徳」として教科化された。教科化にともない新たな課題として指摘されているのは「数量的評価」に関する問題である。しかしながら,本来の道徳教育について考えた場合,学校における成績評価の観点だけではなく,道徳を学ぶ本人が自分自身の道徳心の特徴や成長度を知るための測定や評価が重要な教育的観点となりうる。したがって,第三者による記述的評価だけではなく,数量的な自己評価を可能とする質問紙の作成は教育的にもニーズが高いと考えられる。また,これらの道徳心はどのような心理特性を涵養し,どのような人格形成を促すかということも同時に検討することで,道徳教育の目的が明確になる。本研究では,自己道徳観を測定する尺度を探索的に開発し,「自分自身を慈しむ心」や「パーソナリティの安定性」への影響性について検討した。

研究1:モラル・アイデンティティ尺度の作成
目的と方法
 「自己に関する道徳観」を測定する尺度(Moral Identity Scale : MoIS)の作成を目的とした。作成に際しては,学習指導要領解説「特別の教科:道徳編」に記載されている「主として自分自身に関すること」の6分類を参考にして,道徳的な態度や行動に関する原項目(30項目・6件法)を3名の研究者とともに作成した。東海圏に在籍する大学生324名を対象にMoISを用いた調査を実施した(有回答者は304名)。なお,本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査と承認を得て行われた(倫理番号:211)。

結果と考察
 された分類ごとに潜在因子を構成し,構造モデル方程式を用いた確証型因子分析を行った。因子負荷量の低い項目を削除し,6因子20項目で構成される構造モデルを採択した。各因子の内的一貫性を検討した結果,「善悪の判断(α=.592)」「正直・誠実(α=.578)」「節度・節制(α=.701)」「個性の伸長(α=.729)」「希望と勇気(α=.866)」「真理の追究(α=.741)」の値が示され,概ね満足いく信頼性が得られた(全体:α=.857)。

研究2:道徳観が慈しみとBPD特性に及ぼす影響
目的と方法
 研究1で開発したMoISが測定する道徳観がSCと人格の安定性に及ぼす影響について検討することを目的とした(倫理番号:211)。東海圏に在籍する大学生を対象に,MoISとともに以下の質問紙を用いた一斉調査を実施した(有回答者:304名)。
・セルフ・コンパッション尺度(Self-compassion Scale:SCS-J;有光ら, 2010;26項目5件法)。
・境界性パーソナリティ特性尺度(斉藤, 2007;38項目5件法)。

結果と考察
 Figureに示された構造モデルを作成し,共分散構造分析を行った(GFI=.923, AGFI=.960, RMSEA=.057)。各変数間の影響について検討した結果,MIからSCに有意な正の影響を示し(β=.53, p<.001),SCからBDPに有意な負の影響を示した(β=-.30, p<.001)。以上の結果から,道徳観は自己への慈しみを向上させ,それによって人格安定性がもたらされることが示唆された。

総合考察
 本研究において,道徳観を測定する尺度が開発されたことにより,数量的測定を用いながら道徳教育の評価が可能となったことは意義が深い。また,本研究では,道徳観は自己への慈しみを向上させ,それによって人格安定性がもたらされることが示唆された。これらの結果を活用することで,今後の道徳教育における発展可能性を示唆することができる。