日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB75] いじめ予防のための包括的アセスメントツールの開発

中村孝 (広島大学大学院)

キーワード:アンケート, 学級理解, いじめ予防

問題と目的
国立教育政策研究所(2016)のいじめ追跡調査によると,週に1回以上いじめ被害を経験した児童は全体の10%を超えると報告されている。このように多数の被害者が存在するいじめは,その手法も多様で対応が難しい。イギリスの反いじめ協会コンサルタントのVarnava.G(2003)は,いじめや暴力行為の予防のために,「トレーニング」「カリキュラム」「環境」「組織」「価値」「学校地域家庭連携」の6つの観点が重要なことを明らかにし,Check Pointsを作成した。これを参考に中村・森・栗原(2014)は日本版いじめ予防チェックポイントを開発した。本研究では,先のチェックポイントではとらえきれないいじめの実態と学級でできる支援の対象が明らかとなるアセスメントツールの開発と検討が目的である。

方  法
予備調査 自由記述
目的 いじめ予防のために必要な要素について複数の立場から意見を集め質問紙の原案を作成する
方法 調査時期:2013年11月-12月
調査対象:A県8市町の6小学校(生徒200名,教師25名,保護者・地域住民47名),5中学校(生徒137名,教師20名,保護者・地域住民39名),教育委員会25名。
調査内容:竹川(1993)やRigby(2010)栗原(2013)等を参考に、いじめ予防のために必要な要素について「いじめが起きてしまうクラスとはどのようなクラスだと思いますか?」などの18-20の質問について,自由記述で回答を求めた。
結果 教員経験のある大学教員2名,心理学系大学教員1名,博士課程の学生2名により,項目の修正・追加作業を行った結果,最終的に49項目のいじめ予防尺度候補が作成された。
本調査
目的 予備調査で作成された49項目を精錬し,いじめ加害・被害に影響するか,いじめ予防アセスメント尺度としての妥当性を検討する
方法 調査時期:2014年
調査対象:A県の県立高校3校527名,中学校353名,小学校385名を対象とした。
調査内容:予備調査で作成されたいじめ予防尺度候補の49項目および,坂井・山崎(2004)の小学生用P-R攻撃性質問紙を参考に加害・被害について16項目を尋ねた。
結果:回答に不備があったものを除く1171名の結果を分析の対象とした。まず,49項目について,因子分析を行った主因子法(プロマックス回転)。その結果,共通性や因子負荷量を考慮し,7項目が除外され,最終的に42項目による因子負荷量が.35以上で4因子が想定された。4因子はそれぞれ「価値観」「対応能力」「サポート」「対人的環境」と命名された。これらの因子を説明変数,いじめ加害・被害を従属変数とする重回帰分析を行った。その結果,「価値観」「対応能力」「対人的環境」が加害行為と,「対応能力」「サポート」が被害行為に有意な影響を与えていた(それぞれR2=.40,p<.01,β=.28,p<.01, β=.34,p<.01, β=.31,p<.01, R2=.31,p<.01,β=.30,p<.01, β=.18,p<.01)。

考  察
重回帰分析の結果,加害行為・被害行為それぞれに今回作成した尺度の因子が影響を与えていたことは,これらの得点が高いことで加害・被害が少なることを示唆しており,いじめ加害や被害を予測・予防するために有用と考えられる。今後の取組として,他尺度との併存的妥当性の検討や学校現場で使いやすいように,十分な説明力がある項目抽出に取り組むことが期待される。また,前回開発した日本版チェックポイントと,今回開発したアセスメント尺度を併存して活用することで,Figure1のような学校現場が見てすぐに現状がわかり,次にどのような支援や対策をしたらよいかわかるシステムを開発していきたい。