[PC29] 受験英語有用感尺度作成の試み
大学生の英語学習に着目して
キーワード:大学入試, 英語学習, 動機づけ
問 題
日本では,大学受験で問われる知識は社会に出てから役に立たないと考えられてきた(北野・下司・小笠原,2018)。中でも入試問題に出題される英語(以下「受験英語」とする)はリーディング問題が中心であり,受験英語のために学んでも話せるようにならないと批判されてきた(阿部,2017;金谷,2008)。
しかし,大学入試を突破するために学んできた受験英語やその学習経験が,大学進学後の学びにポジティブな影響を及ぼすこともあるだろう。例えば,受験期に学習した英単語や英熟語,文法,語法などの英語の知識は,大学の英語の授業を受ける際の基礎力となる。また,授業だけでなく,ボランティアやアルバイト,海外旅行や留学などの授業外の活動においても,受験英語で学んだ知識は役に立つ可能性が考えられる。
先行研究では,受験経験を心理特性化した尺度として,大学入試場面における競争の機能に対する学習者の認識を測定するための尺度である受験競争観尺度(鈴木,2014)が開発されている。しかし,この尺度が測定しているのは,受験競争が学習者の心身や学習意欲,友人関係など,受験に関連する様々な事象についてであり,大学入試における学習経験が学習という具体的な行動に与える影響を測定することはできない。
そこで本研究では,大学入試のために英語を学習した経験が,現在の英語学習にどのように役立っているかに対する学習者の認識である受験英語有用感を測定するための新規尺度作成に向けた予備調査を行う。
方 法
調査時期 2018年4月
調査対象者 都内国立大学生9名,私立大学生21名の計30名(男性11名,女性19名:平均年齢21.3歳(SD=1.30))。
調査方法 大学入試のために学んだ英語は,現在の英語学習や英語使用にどのように役立っているか,もしくはどのように役立っていないかについて,自由記述で回答を求めた。その際,読む,聞く,書く,話すという技能ごとに回答を求めた。
結 果
自由記述より得られた回答をKJ法(川喜田,1970)によって分類した。まず全回答のうち,内部推薦など大学受験経験の無い大学生の回答と,質問の意図を理解していない項目を除外した。さらに,受験英語は役に立っていないという趣旨の回答項目を削除し,最終的に58項目が得られた。これをそれぞれカテゴリー化し,「授業」,「日常生活」,「資格取得」,「趣味・娯楽」,「留学・旅行」の計5つに分類された。
第一著者を含む,心理学および英語教育学を専攻する大学院生2名により分類を検討し,信頼性,妥当性が確認された。
考 察
本研究より,受験英語有用感尺度は「授業」,「日常生活」,「資格取得」,「趣味・娯楽」,「留学・旅行」の5因子から構成されることが示唆された。受験競争観尺度と比較すると,受験経験が自己の成長につながるという点で共通するものの,受験経験がどのような成長につながるのかという具体的な内容を測定することができる点において違いがあると考えられる。
阿部(2017)は,日本人は英語力の低さの原因を大学入試や学校の授業など,教育制度に帰属する傾向にあることを指摘している。本研究より,受験英語を学習したという経験が大学進学後の学びに役立つと認識している大学生は,様々な英語学習場面において受験経験を活用する可能性が示唆される。
今後は,受験英語有用感尺度を作成し,信頼性と妥当性について検証するとともに,学習動機づけや学習方略との関連を検討することで,受験英語を効果的に活用しようと認識することで大学生の学習がどのように促進されるのか検討する。
日本では,大学受験で問われる知識は社会に出てから役に立たないと考えられてきた(北野・下司・小笠原,2018)。中でも入試問題に出題される英語(以下「受験英語」とする)はリーディング問題が中心であり,受験英語のために学んでも話せるようにならないと批判されてきた(阿部,2017;金谷,2008)。
しかし,大学入試を突破するために学んできた受験英語やその学習経験が,大学進学後の学びにポジティブな影響を及ぼすこともあるだろう。例えば,受験期に学習した英単語や英熟語,文法,語法などの英語の知識は,大学の英語の授業を受ける際の基礎力となる。また,授業だけでなく,ボランティアやアルバイト,海外旅行や留学などの授業外の活動においても,受験英語で学んだ知識は役に立つ可能性が考えられる。
先行研究では,受験経験を心理特性化した尺度として,大学入試場面における競争の機能に対する学習者の認識を測定するための尺度である受験競争観尺度(鈴木,2014)が開発されている。しかし,この尺度が測定しているのは,受験競争が学習者の心身や学習意欲,友人関係など,受験に関連する様々な事象についてであり,大学入試における学習経験が学習という具体的な行動に与える影響を測定することはできない。
そこで本研究では,大学入試のために英語を学習した経験が,現在の英語学習にどのように役立っているかに対する学習者の認識である受験英語有用感を測定するための新規尺度作成に向けた予備調査を行う。
方 法
調査時期 2018年4月
調査対象者 都内国立大学生9名,私立大学生21名の計30名(男性11名,女性19名:平均年齢21.3歳(SD=1.30))。
調査方法 大学入試のために学んだ英語は,現在の英語学習や英語使用にどのように役立っているか,もしくはどのように役立っていないかについて,自由記述で回答を求めた。その際,読む,聞く,書く,話すという技能ごとに回答を求めた。
結 果
自由記述より得られた回答をKJ法(川喜田,1970)によって分類した。まず全回答のうち,内部推薦など大学受験経験の無い大学生の回答と,質問の意図を理解していない項目を除外した。さらに,受験英語は役に立っていないという趣旨の回答項目を削除し,最終的に58項目が得られた。これをそれぞれカテゴリー化し,「授業」,「日常生活」,「資格取得」,「趣味・娯楽」,「留学・旅行」の計5つに分類された。
第一著者を含む,心理学および英語教育学を専攻する大学院生2名により分類を検討し,信頼性,妥当性が確認された。
考 察
本研究より,受験英語有用感尺度は「授業」,「日常生活」,「資格取得」,「趣味・娯楽」,「留学・旅行」の5因子から構成されることが示唆された。受験競争観尺度と比較すると,受験経験が自己の成長につながるという点で共通するものの,受験経験がどのような成長につながるのかという具体的な内容を測定することができる点において違いがあると考えられる。
阿部(2017)は,日本人は英語力の低さの原因を大学入試や学校の授業など,教育制度に帰属する傾向にあることを指摘している。本研究より,受験英語を学習したという経験が大学進学後の学びに役立つと認識している大学生は,様々な英語学習場面において受験経験を活用する可能性が示唆される。
今後は,受験英語有用感尺度を作成し,信頼性と妥当性について検証するとともに,学習動機づけや学習方略との関連を検討することで,受験英語を効果的に活用しようと認識することで大学生の学習がどのように促進されるのか検討する。