[PC38] 教科における能力の可変性の認識と知能観や得意不得意の関係
キーワード:知能観, 得意不得意, 学習能力の可変性
問題と目的
「数学が不得意だ」など学校の教科学習に不得意感覚を持つ人は多い。このような,教科に対する不得意感覚は,どのようなプロセスを経て形成されるのか。植阪(2010)は,不得意教科を学習しなくなった児童や生徒は,不得意教科の学習前後に自己評価をしないこと,また,学習量志向の学習観を持つ特徴があることを報告している。そして,そのような児童生徒の多くは学習性無力感に似たプロセスで不得意感覚を形成しているとも指摘している。しかし,不得意感覚が形成されやすい時期や不得意感覚が維持されるプロセスは明らかになっていない。
そこで,本研究では,不得意な教科を学習する時に,勉強してもどうせできないだろうという信念を持っていることにより,その教科の学習に取り組まず,結局不得意な教科は不得意なままになっているという作業仮説の下,教科の得意不得意感覚の違いによって,その教科の学習に関する能力の可変性についての考え方に差があるのか否かを領域一般の知能観との関係から検討することを目的とする。
方 法
対象者 大学生256名(男性46名,女性210名)
質問紙 (1)知能観尺度3項目(及川, 2005)。(2)高校時代の3教科(数学,英語,体育)の成績に関する質問1項目(「対象の教科」の学業成績は良かった。)。(3)3教科の学習能力の可変性に関する質問5項目(問1「対象の教科」の学習に必要な才能は教育や努力によって大きく変えることはできない。問2「対象の教科」の学業成績は努力すれば向上する。問3「対象の教科」には努力しても超えられない才能の壁がある。問4「対象の教科」の学業成績が悪い人は才能がないのではなく,努力が不足している。問5「対象の教科」の勉強には向き不向きがある)。
手続き 質問紙に対象者のペースで回答させた。
結 果
各教科の能力の可変性の項目について,領域一般の知能観(成長型,固定型)と各教科の学業成績(得意,不得意)で2×2の分散分析を行った結果をTable1,Table2,Table3に示した。次に,領域一般の知能観によって教科横断的に能力の可変性の認識に差があるか否かを検討するために,各教科の能力の可変性に関する項目ごとに知能観と教科を独立変数とする分散分析を行った。その結果,5つの質問項目全てで交互作用が有意ではなく,知能観の主効果は問4を除く4項目で有意,教科の主効果は全項目で有意だった。
考 察
能力の可変性についての認識に領域一般の知能観と教科の学業成績の交互作用はなく,成長型群は固定型群よりも努力によって能力は変化する認識を持つことを示す項目が4つあったが効果量は低かった(偏η²=0.02~0.13)。一方で,教科の違いによる差もあり,数学や英語に比べて体育では両群とも能力の可変性を低く認識していることが示された。今後は不得意感覚があるけれども教科の能力の可変性を持つ学習者の実際の学習方法について検討が求められよう。
主な文献
及川昌典 (2005). 知能観が非意識的な目標追求に及ぼす影響 教育心理学研究, 53, 14-25.
「数学が不得意だ」など学校の教科学習に不得意感覚を持つ人は多い。このような,教科に対する不得意感覚は,どのようなプロセスを経て形成されるのか。植阪(2010)は,不得意教科を学習しなくなった児童や生徒は,不得意教科の学習前後に自己評価をしないこと,また,学習量志向の学習観を持つ特徴があることを報告している。そして,そのような児童生徒の多くは学習性無力感に似たプロセスで不得意感覚を形成しているとも指摘している。しかし,不得意感覚が形成されやすい時期や不得意感覚が維持されるプロセスは明らかになっていない。
そこで,本研究では,不得意な教科を学習する時に,勉強してもどうせできないだろうという信念を持っていることにより,その教科の学習に取り組まず,結局不得意な教科は不得意なままになっているという作業仮説の下,教科の得意不得意感覚の違いによって,その教科の学習に関する能力の可変性についての考え方に差があるのか否かを領域一般の知能観との関係から検討することを目的とする。
方 法
対象者 大学生256名(男性46名,女性210名)
質問紙 (1)知能観尺度3項目(及川, 2005)。(2)高校時代の3教科(数学,英語,体育)の成績に関する質問1項目(「対象の教科」の学業成績は良かった。)。(3)3教科の学習能力の可変性に関する質問5項目(問1「対象の教科」の学習に必要な才能は教育や努力によって大きく変えることはできない。問2「対象の教科」の学業成績は努力すれば向上する。問3「対象の教科」には努力しても超えられない才能の壁がある。問4「対象の教科」の学業成績が悪い人は才能がないのではなく,努力が不足している。問5「対象の教科」の勉強には向き不向きがある)。
手続き 質問紙に対象者のペースで回答させた。
結 果
各教科の能力の可変性の項目について,領域一般の知能観(成長型,固定型)と各教科の学業成績(得意,不得意)で2×2の分散分析を行った結果をTable1,Table2,Table3に示した。次に,領域一般の知能観によって教科横断的に能力の可変性の認識に差があるか否かを検討するために,各教科の能力の可変性に関する項目ごとに知能観と教科を独立変数とする分散分析を行った。その結果,5つの質問項目全てで交互作用が有意ではなく,知能観の主効果は問4を除く4項目で有意,教科の主効果は全項目で有意だった。
考 察
能力の可変性についての認識に領域一般の知能観と教科の学業成績の交互作用はなく,成長型群は固定型群よりも努力によって能力は変化する認識を持つことを示す項目が4つあったが効果量は低かった(偏η²=0.02~0.13)。一方で,教科の違いによる差もあり,数学や英語に比べて体育では両群とも能力の可変性を低く認識していることが示された。今後は不得意感覚があるけれども教科の能力の可変性を持つ学習者の実際の学習方法について検討が求められよう。
主な文献
及川昌典 (2005). 知能観が非意識的な目標追求に及ぼす影響 教育心理学研究, 53, 14-25.