日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

2018年9月15日(土) 15:30 〜 17:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC41] 文章と設問の読解順序と個人の能力特性が内容理解に与える影響

国語の試験における方略の観点から

岩井珠生 (東京大学大学院)

キーワード:読解順序, 内容理解

問題と目的
 近年児童の読解力低下が,様々な教科への理解を阻害している。
 石渡ら(2007)は文章の内容理解には,ワーキングメモリ容量(WM)やマクロ命題認識度(MP)等の能力特性や試験の方略が影響すると示しているが,その他の要因として読解の順序も影響するのではないかと思われる。読解順序とは,全文読んだ後に全ての設問を解く(全文読み),少し読んで解ける部分まで解き進めることを繰り返す(部分読み),設問を先に読んだ後文章を読んで設問を解く(設問読み)と3つに分けられ,参考書等の推奨がそれぞれ異なる事から指導法は確立されていないことがわかる。しかし文章の内容理解と読解順序の関連を調べた研究はほとんどない。
 そこで,本研究では内容理解と読解順序の関連を検討することを目的とする。内容理解は,文意把握力と文章記憶力の2つの面から検討する。

方  法
実験協力者 小学6年生計95名(男子50名,女子45名)
要因計画 読解順序要因(全文読み群・部分読み群・設問読み群)×能力特性要因(WM高MP高群・WM高MP低群・WM低MP高群・WM低MP低群)の2要因計画で,実験協力者間要因である。内容理解を測るために,文意把握力を要点把握試験[a],構成把握試験[b],細部把握試験[c],文章記憶力を単語選択試験[d],確信度試験[e]と計5つの試験方略に分け,それぞれの得点を従属変数とする。
手続き 実験協力者に全文読み群用,部分読み群用,設問読み群用の文章読解([a][b][c]各3問。計9問)をランダムに配り解答してもらった。その直後に文章は見ずに,提示された文章に関する試験である [d] (5問)と[d]の解答への確信度評価(7段階)である[e]を行った。WM測定(5問)は,提示文の意味が通るかどうかの判断をし,下線部の単語再生をしてもらった。MP測定は,4つの文の結論を示す文を4つの選択肢から選んでもらった(4問)。

結果と考察
 読解順序要因と内容理解との関連は,[a][b][c]では見られず,[d][e]では全文読み群で得点が高かった。
 能力特性要因と内容理解との関連は,WMの効果は見られず,[e]以外の試験全てでMPの主効果があり,<MP高>の得点が<MP低>に比べ高かった。
 読解順序要因と能力特性要因が内容理解に与える影響において,<WM高MP低>は全ての試験で全文読み群の得点が,<WM低MP低>は[a][b][c]で設問読み群の得点が有意に高かった。また,WMのみで比較すると[a][b][c]において有意な交互作用がみられ<WM高>は全文読み群で,<WM低>は設問読み群で得点が高かった(Figure 1)。MPのみで比較すると,全ての試験において交互作用はみられなかった。
 交互作用が見られたことから,WM容量が低くても,設問読みを用いるとWM容量の高い児童よりも文意を把握しやすいことがわかった。また,部分読みでは理解を促す傾向は見られなかった為,指導の場において全文読み,または設問読みを用いるのが効果的であると考えられる。これらのことから,文章読解において読解順序が内容理解に影響を与える事が示唆された。