[PC48] 小学校におけるソーシャルスキル教育を中心とした心理教育の縦断実践研究(11)
2年間の心理教育に対する児童のふり返りの量的および質的分析
キーワード:ソーシャルスキル教育, 児童, 縦断研究
問題と目的
国立教育政策研究所(2014)は中1ギャップ問題に関して,小学校から予防教育に取り組む必要性を唱えている。筆者らはH26,27年の2年間にわたり公立小学校1校(以下A小)において,ソーシャルスキル教育(以下SSE)を中心技法とする心理教育を実践した。その目的は児童のソーシャルスキルの獲得と自己肯定感や学校適応感などの肯定的感情を育成し,中1ギャップの予防につなげることである。具体的内容は,H26年度の1学期にあいさつ,聴き方&話し方,感謝の3つのソーシャルスキルを取り上げ,2学期からH27年度までは感情スキルを取り上げた。本研究の目的は,心理教育を2年間受けた児童を対象として,SSEをふり返り実行度と仲間関係やその必要性に対するメタ認知を明らかにすることである。
方 法
調査対象者:2年間のSSEを受けかつH27年度にA小に在籍していた2~6年生の323名であった。
調査時期と実施方法:H28年3月であった。調査は学級毎に行われた。担任教師が調査用紙の配付と回収を行った。2学年においては,担任教師が質問を音読し児童に回答させた。
調査項目と回答方法:項目①「ソーシャルスキルの学習は楽しくできましたか?」,項目②「ソーシャルスキルを教室やお家でやってみましたか?」,項目③「ソーシャルスキルを学習して,友達ともっとなかよくなれましたか?」4件法で尋ねた。自由記述法を用いて,2・3年生に対しては項目④「ソーシャルスキルを学習して,良かったことがあったら書きましょう」,4年生以上には項目⑤「ソーシャルスキルを学習して,自分が成長できたなと思ったことを書きましょう」,項目⑥「ソーシャルスキルの学習はなぜ必要だと思いますか?思いつく理由を書きましょう」と尋ねた。
結果と考察
発達段階を考慮し,分析は2・3年生の低学年群と4・5・6年生の高学年群に分けて行った。
低学年の結果:当日出席し,回答に記入漏れが無かった117名を分析対象者とした。項目①~③の平均値(SD値)は,3.44(0.72),2.56(1.11),3.18(0.87)であった。項目①~③の平均値と理論的中央値の差の検定をした結果,①と③は平均値が理論的中央値よりも有意に高かった(t(116)=順に14.10,8.45, 共にp<.01)。②は有意差は見られなかった(t(116)=0.63, n.s.)。この結果より,低学年児童は2年間のSSEをふり返って,ソーシャルスキルの学習を楽しかったと感じていたこと,ソーシャルスキルを学習したことによって,友達とさらに仲よくなれたと感じていたことが分かった。教室や家でソーシャルスキルを実行したかについて有意差が見られなかった原因として2つ考えられる。一つは,教室と家の2カ所を尋ねたことである。例えば,教室では実行したが,家では実行していなかった場合である。もう一つの解釈は,SD値が大きいことから,実行した児童としなかった児童が混在していたことが考えられる。その背景には教師や保護者の声かけやフィードバックの頻度の差があったのかもしれない。自由記述で回答した項目④に対する回答率は33%であった。回答には「ともだちともっとなかよくなれたのでうれしかったです(3年生)」などがあった。
高学年の結果:分析対象者は180名であった。項目①~③の平均値(SD値)は3.08(0.80),2.56(0.92),2.92(0.85)であった。項目①~③について同様の検定をした結果,①と③は平均値が理論的中央値よりも有意に高かった(t(179)=順に9.73,6.68, 共にp<.01)。②は有意差は見られなかった(t(179)=0.81, n.s.)。低学年と同様の結果であったことから,その要因も同様と推測される。
自由記述で回答した項目⑤の回答率は89%であった。回答例は「この授業をやってから友だちの気持ちが少しわかるようになった(4年生)」などがあった。項目⑥の回答率は91%であった。例として「悪口を言い合って,更に関係を悪化させるのを未然に防げた事は,自分の中でも成長したなと思った(6年生)」。高学年は自由記述への回答率が高く,自己の省察に基づく内容が多かった。
発達差の検討:項目①②③について低学年と高学年の得点差を検討するためにt検定をした。項目①③は低学年が高学年よりも有意に高かった(t(295)=順に3.91,2.53,共にp<.01)。項目②では有意差は見られなかった(t(295)=.02,n.s.)。
ソーシャルスキル実行差による検討:低・高学年毎に項目②の回答が3,4を実行群,1,2を不実行群とし,項目①③を従属変数としてt検定を行った。低学年は項目①③共に不実行群<実行群であった(t(115)=順に5.86,6.61,共にp<.01)。高学年も同結果であった(t(178)=順に4.87,4.03,共にp<.01)。スキル実行の重要性が実証された。
国立教育政策研究所(2014)は中1ギャップ問題に関して,小学校から予防教育に取り組む必要性を唱えている。筆者らはH26,27年の2年間にわたり公立小学校1校(以下A小)において,ソーシャルスキル教育(以下SSE)を中心技法とする心理教育を実践した。その目的は児童のソーシャルスキルの獲得と自己肯定感や学校適応感などの肯定的感情を育成し,中1ギャップの予防につなげることである。具体的内容は,H26年度の1学期にあいさつ,聴き方&話し方,感謝の3つのソーシャルスキルを取り上げ,2学期からH27年度までは感情スキルを取り上げた。本研究の目的は,心理教育を2年間受けた児童を対象として,SSEをふり返り実行度と仲間関係やその必要性に対するメタ認知を明らかにすることである。
方 法
調査対象者:2年間のSSEを受けかつH27年度にA小に在籍していた2~6年生の323名であった。
調査時期と実施方法:H28年3月であった。調査は学級毎に行われた。担任教師が調査用紙の配付と回収を行った。2学年においては,担任教師が質問を音読し児童に回答させた。
調査項目と回答方法:項目①「ソーシャルスキルの学習は楽しくできましたか?」,項目②「ソーシャルスキルを教室やお家でやってみましたか?」,項目③「ソーシャルスキルを学習して,友達ともっとなかよくなれましたか?」4件法で尋ねた。自由記述法を用いて,2・3年生に対しては項目④「ソーシャルスキルを学習して,良かったことがあったら書きましょう」,4年生以上には項目⑤「ソーシャルスキルを学習して,自分が成長できたなと思ったことを書きましょう」,項目⑥「ソーシャルスキルの学習はなぜ必要だと思いますか?思いつく理由を書きましょう」と尋ねた。
結果と考察
発達段階を考慮し,分析は2・3年生の低学年群と4・5・6年生の高学年群に分けて行った。
低学年の結果:当日出席し,回答に記入漏れが無かった117名を分析対象者とした。項目①~③の平均値(SD値)は,3.44(0.72),2.56(1.11),3.18(0.87)であった。項目①~③の平均値と理論的中央値の差の検定をした結果,①と③は平均値が理論的中央値よりも有意に高かった(t(116)=順に14.10,8.45, 共にp<.01)。②は有意差は見られなかった(t(116)=0.63, n.s.)。この結果より,低学年児童は2年間のSSEをふり返って,ソーシャルスキルの学習を楽しかったと感じていたこと,ソーシャルスキルを学習したことによって,友達とさらに仲よくなれたと感じていたことが分かった。教室や家でソーシャルスキルを実行したかについて有意差が見られなかった原因として2つ考えられる。一つは,教室と家の2カ所を尋ねたことである。例えば,教室では実行したが,家では実行していなかった場合である。もう一つの解釈は,SD値が大きいことから,実行した児童としなかった児童が混在していたことが考えられる。その背景には教師や保護者の声かけやフィードバックの頻度の差があったのかもしれない。自由記述で回答した項目④に対する回答率は33%であった。回答には「ともだちともっとなかよくなれたのでうれしかったです(3年生)」などがあった。
高学年の結果:分析対象者は180名であった。項目①~③の平均値(SD値)は3.08(0.80),2.56(0.92),2.92(0.85)であった。項目①~③について同様の検定をした結果,①と③は平均値が理論的中央値よりも有意に高かった(t(179)=順に9.73,6.68, 共にp<.01)。②は有意差は見られなかった(t(179)=0.81, n.s.)。低学年と同様の結果であったことから,その要因も同様と推測される。
自由記述で回答した項目⑤の回答率は89%であった。回答例は「この授業をやってから友だちの気持ちが少しわかるようになった(4年生)」などがあった。項目⑥の回答率は91%であった。例として「悪口を言い合って,更に関係を悪化させるのを未然に防げた事は,自分の中でも成長したなと思った(6年生)」。高学年は自由記述への回答率が高く,自己の省察に基づく内容が多かった。
発達差の検討:項目①②③について低学年と高学年の得点差を検討するためにt検定をした。項目①③は低学年が高学年よりも有意に高かった(t(295)=順に3.91,2.53,共にp<.01)。項目②では有意差は見られなかった(t(295)=.02,n.s.)。
ソーシャルスキル実行差による検討:低・高学年毎に項目②の回答が3,4を実行群,1,2を不実行群とし,項目①③を従属変数としてt検定を行った。低学年は項目①③共に不実行群<実行群であった(t(115)=順に5.86,6.61,共にp<.01)。高学年も同結果であった(t(178)=順に4.87,4.03,共にp<.01)。スキル実行の重要性が実証された。