[PC50] 自閉症スペクトラム傾向の高さはアイデンティティ形成に影響を及ぼすのか
友人に対する内的作業モデルの2次元を媒介変数とした検討
キーワード:自閉症スペクトラム傾向, 内的作業モデル, アイデンティティ
問題と目的
本研究では,自閉症スペクトラム傾向の高さとアイデンティティ形成の程度との関係について,他者との関係性という要因を加えて検討することを目的とする。なお,他者との関係性の測定について本研究では,内的作業モデルを用いる。
方 法
調査対象及び倫理的配慮
大学生103名を対象に質問紙調査を行った。欠損値のあるものを除いた90名(N= 90)を対象とした。倫理的配慮として,途中で回答を辞めることが可能であることなどを事前に教示した。
使用尺度
自閉症スペクトラム傾向 Baron-Cohen et al. (2001)の翻訳版である若林他(2004)のAQ50項目版を使用。4件法で測定し,自閉症スペクトラム傾向の高いとされる側に回答したものを1点として得点化する。
内的作業モデル Fraley et al. (2000)の翻訳版である島(2010)のECR-Rを,島(2010)の因子分析の結果から因子負荷量の高かったものを順に,各因子8項目ずつ,計16項目を使用(7件法)。「不安」「回避」の2因子からなる。
アイデンティティ形成 谷(2001)によるMEISを使用(7件法)。「自己斉一性・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」の4因子からなる。各因子5項目ずつ,計20項目。
結果と考察
尺度間相関
各尺度の相関係数をTable 1に示した。AQはECR-Rの2因子と弱い,MEISの4因子と弱~中程度の有意な相関を示した。また,ECR-Rの2因子はいずれもMEISの4因子と中程度の有意な相関を示した。さらに,ECR-Rの「不安」,「回避」を制御した場合のAQとMEISの偏相関係数を算出したところ,4因子とも有意な偏相関が得られた。
つまり,自閉症スペクトラム傾向は内的作業モデル及びアイデンティティと負の相関関係にあり,また,アイデンティティとの負の相関は内的作業モデルを制御しても維持されたといえる。このことから,自閉症スペクトラム傾向が高いことはアイデンティティ形成の低さと関連があることが示唆される。
共分散構造分析
自閉症スペクトラム傾向がアイデンティティ形成に影響を及ぼしている関係を検討するため,AQを独立変数,MEISを従属変数,内的作業モデルを測定しているECR-Rを媒介変数とした共分散構造分析を行った。今回は女子のみを分析対象としたため,母集団は1つであった。MEISは,潜在変数を仮定し,「自己斉一性・連続性」と「対自的同一性」からなる「主観的なアイデンティティの感覚」と「対他的同一性」と「心理社会的同一性」からなる「社会的なアイデンティティの感覚」の2因子を高次因子として設定した。分析には,完全モデルから非有意なパスを逐次削除する手法を用いた。その結果をFigure 1に示した。適合指数は,CFI= .974,GFI= .955,AGFI= .859,RMSEA= .091であった。なお,誤差変数及び共分散は省略している。パス解析の結果から,AQは直接的に,また内的作業モデルの「不安」次元を媒介して間接的に「主観的・社会的なアイデンティティの感覚」を低めている可能性が示された。
このことから,自閉症スペクトラム傾向が高いことは,他者との不安定な関係性と関連しながら,自身のアイデンティティ形成にも影響を及ぼしている可能性が示された。自閉症スペクトラム傾向の高い者の自己に着目した研究が今後期待される。
本研究では,自閉症スペクトラム傾向の高さとアイデンティティ形成の程度との関係について,他者との関係性という要因を加えて検討することを目的とする。なお,他者との関係性の測定について本研究では,内的作業モデルを用いる。
方 法
調査対象及び倫理的配慮
大学生103名を対象に質問紙調査を行った。欠損値のあるものを除いた90名(N= 90)を対象とした。倫理的配慮として,途中で回答を辞めることが可能であることなどを事前に教示した。
使用尺度
自閉症スペクトラム傾向 Baron-Cohen et al. (2001)の翻訳版である若林他(2004)のAQ50項目版を使用。4件法で測定し,自閉症スペクトラム傾向の高いとされる側に回答したものを1点として得点化する。
内的作業モデル Fraley et al. (2000)の翻訳版である島(2010)のECR-Rを,島(2010)の因子分析の結果から因子負荷量の高かったものを順に,各因子8項目ずつ,計16項目を使用(7件法)。「不安」「回避」の2因子からなる。
アイデンティティ形成 谷(2001)によるMEISを使用(7件法)。「自己斉一性・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」の4因子からなる。各因子5項目ずつ,計20項目。
結果と考察
尺度間相関
各尺度の相関係数をTable 1に示した。AQはECR-Rの2因子と弱い,MEISの4因子と弱~中程度の有意な相関を示した。また,ECR-Rの2因子はいずれもMEISの4因子と中程度の有意な相関を示した。さらに,ECR-Rの「不安」,「回避」を制御した場合のAQとMEISの偏相関係数を算出したところ,4因子とも有意な偏相関が得られた。
つまり,自閉症スペクトラム傾向は内的作業モデル及びアイデンティティと負の相関関係にあり,また,アイデンティティとの負の相関は内的作業モデルを制御しても維持されたといえる。このことから,自閉症スペクトラム傾向が高いことはアイデンティティ形成の低さと関連があることが示唆される。
共分散構造分析
自閉症スペクトラム傾向がアイデンティティ形成に影響を及ぼしている関係を検討するため,AQを独立変数,MEISを従属変数,内的作業モデルを測定しているECR-Rを媒介変数とした共分散構造分析を行った。今回は女子のみを分析対象としたため,母集団は1つであった。MEISは,潜在変数を仮定し,「自己斉一性・連続性」と「対自的同一性」からなる「主観的なアイデンティティの感覚」と「対他的同一性」と「心理社会的同一性」からなる「社会的なアイデンティティの感覚」の2因子を高次因子として設定した。分析には,完全モデルから非有意なパスを逐次削除する手法を用いた。その結果をFigure 1に示した。適合指数は,CFI= .974,GFI= .955,AGFI= .859,RMSEA= .091であった。なお,誤差変数及び共分散は省略している。パス解析の結果から,AQは直接的に,また内的作業モデルの「不安」次元を媒介して間接的に「主観的・社会的なアイデンティティの感覚」を低めている可能性が示された。
このことから,自閉症スペクトラム傾向が高いことは,他者との不安定な関係性と関連しながら,自身のアイデンティティ形成にも影響を及ぼしている可能性が示された。自閉症スペクトラム傾向の高い者の自己に着目した研究が今後期待される。