日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

2018年9月15日(土) 15:30 〜 17:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC67] 学校組織の協働性が教員の被援助志向性とメンタルヘルスの関連に与える効果

橋本博文1, 前田楓#2 (1.安田女子大学, 2.安田女子大学大学院)

キーワード:学校組織の協働性, 被援助志向性, メンタルヘルス

問  題
 本研究の主たる目的は,学校組織の協働性が教員の被援助志向性とメンタルヘルスの関連に与える効果を分析することにある。先行研究において,被援助志向性の低い教員,すなわち「助けられ上手」ではない教員ほど,燃え尽き症候群(バーンアウト)になりやすいことが指摘されている(田村・石隈, 2006)。本研究では,この指摘を踏まえつつ,教員をサポートするような“協働的”な学校組織の特性こそが各教員の被援助志向性によるメンタルヘルス問題への効果を低減するとの仮説を検討する。この仮説を検討するため,本研究では状況特性としての学校組織の協働性ないし閉鎖性を測定するための新たな尺度を開発する。これらの尺度の信頼性および妥当性を検討することも本研究の副次的な目的となる。

方  法
調査対象者 調査会社クロスマーケティングを介して,小学校ないし中学校に勤務する教員506名(男性377名,女性129名,平均年齢49.8歳)に回答を依頼した。
質問項目 教員が同僚教員に援助を求める態度を測定するための被援助志向性尺度11項目(田村・石隈, 2001)や身体的・心理的疲労の程度を測定するためのバーンアウト尺度15項目(久保・田尾, 1994)を質問項目として含めた。いずれの尺度も7件法で回答を求めた。
学校組織の協働性の測定 学校組織の風土に対する認識を測定するこれまでの試み(西山・淵上・迫田,2009; 淵上, 2004)を参考にしつつ,本研究で作成した学校組織の協働性・閉鎖性を測定する尺度も質問項目に含めることとした。この尺度は,教員個々人の認識に重きを置く従来の研究とは異なり,各教員が知覚する状況特性の測定を目指した尺度である。具体的には,リード文において,「あなた」に関することを尋ねるのではなく,「学校教育の現場であなたと普段つきあいのある教員たち(職員室内の同僚など)」に関することを尋ねる質問項目であることを明確にした。学校組織の協働性を測る項目として,「彼ら(あなたと普段つきあいのある教員たち)には,何か困ったときに,同僚たちから援助や助言を得る機会がたくさんある」などの8項目を,また学校組織の閉鎖性を測定する項目として,「彼らは,意見の対立を表面化させないようにお互いに気を配っている」などの7項目を設けた。

結  果
バーンアウト傾向に及ぼす効果 バーンアウト尺度の下位尺度である「脱人格化」の尺度得点を従属変数,年齢と性別,各教員の被援助志向性尺度の得点,学校組織の協働性および閉鎖性尺度の得点を独立変数とする重回帰分析を行ったところ,有意な主効果に関する結果から,若年層であり(β=-0.10),「助けられ上手」ではなく(β=-0.28),学校組織が協働的ではなく(β=-0.27),また閉鎖的であることが(β=0.12)バーンアウト傾向につながりやすい傾向が示された。また,有意な交互作用効果の結果から,Figure 1に示すとおり,学校組織が協働的ではない場合,そして閉鎖的である場合にとくに,教員の被援助志向性とバーンアウト傾向とが強く関連することが明らかにされた。

考  察
 本研究の結果は,教員の被援助志向性がバーンアウト傾向をはじめとするメンタルヘルス問題につながりやすいという先行研究の知見を再現すると同時に,そうした関連は学校組織の特性と密接にかかわることを明確に示すものであった。これらの結果は,「チーム学校」をはじめとする協働的な職場環境が,児童・生徒に関する諸問題のみならず,教員のメンタルヘルス問題に対しても有効となる可能性を示唆する結果である。