[PC75] 全国学力・学習状況調査における質問紙調査の再分析(2)
平成27年度生徒質問紙データを用いた因子構造と学力との関連の検討
キーワード:学力, 学習状況, 質問紙調査
問題と目的
文部科学省により実施されている全国学力・学習状況調査は,当初より学力調査に加えて,児童生徒を対象とした質問紙調査を実施しており,児童生徒の学力や学習状況の把握,教育改善の方針検討等に役立ってきたと考えられる。一方で,結果の報告が回答割合の記述や各項目と学力のクロス集計にとどまっているため,学力の予測要因をより詳細に検討することが求められる。
そこで,本研究では中学生を対象としたH27年度調査データの因子構造を確認し,見出された因子と学力との関連を重回帰分析により検討することを目的とする。
方 法
対象者
本研究では,中学3年生を対象とした生徒調査の分析を行った。平成27年度の全国学力・学習状況調査における中学3年生の対象者は1,061,032名であった。
測定内容
平成27年度全国学力・学習状況調査における生徒調査は87項目から構成されていた。その領域は「学習に対する関心・意欲・態度」,「学習状況(言語活動)」,「基本的生活習慣」,「自尊意識」等の15領域に分類されていた。分析に使用した項目は4件法(1.当てはまる~4.当てはまらない)で測定された。また,学力調査について,国語A・B,数学A・B,理科の3教科5つの調査を実施した。国語・数学について,A問題については主に知識,B問題については主に活用についての問いから構成されていた。国語Aは33問,国語Bは9問,数学Aは36問,数学Bは15問,理科は25問であった。
結果と考察
各項目の基礎的検討のため,記述統計量,各項目と学力調査の正答率との間の相関分析を実施したが,紙面の制約上結果は割愛する。その後,最尤法・プロマックス回転による探索的因子分析を実施した。生徒調査においては,ガットマン基準及び解釈可能性の観点から因子数を決定し,因子負荷量が.25に満たない項目は下位因子から除外した。その結果,13因子が抽出された。
上記の探索的因子分析によって見出された各因子を説明変数,学力(国語A,国語B,数学A,数学B)を従属変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。
分析の結果,国語A・国語Bに対しては,「国語への関心・意欲・態度」,「基本的生活習慣」,「記述問題への取り組み」の3因子が比較的高い説明力をもつことが示唆された(国語A:国語への関心・意欲・態度 β=-.15;基本的生活習慣 β=-.14;記述問題への取り組み β=-.39;国語B:国語への関心・意欲・態度 β=-.13;基本的生活習慣 β=-.11;記述問題への取り組み β=-.36;ps<.001)。また,数学A・数学Bに対しては,「数学への関心・意欲・態度」,「基本的生活習慣」,「記述問題への取り組み」の3因子が比較的高い説明力をもつことが示唆された(数学A:数学への関心・意欲・態度 β=-.34;基本的生活習慣 β=-.16;記述問題への取り組み β=-.41;数学B:数学への関心・意欲・態度 β=-.26;基本的生活習慣 β=-.13;記述問題への取り組み β=-.43;ps<.001)。
国語,数学共に「関心・意欲・態度」と学力の間に関連がみられたことについて,学習の行動的な側面だけではなく,学習の動機づけ的な側面が重要であることが示唆された。一方で,全国学力・学習状況調査における「関心・意欲・態度」の項目群は,動機づけ心理学において異なる構成概念と捉えられるものが混在している点等が課題点であるといえる。また,「基本的生活習慣」と学力の間の関連について,セルフコントロールと学習時間との間に関連がみられていることから(尾崎・後藤・小林・沓澤,2016),自己制御や満足遅延の程度が背景にあることが考えられるため,今後は上記の概念とのつながりを検討する必要がある。最後に,「記述問題への取り組み」について,この因子に含まれる項目は,国語・数学・理科の各学力調査において最後まで記述問題の解答を書こうと努力したかを問う項目であった。そのため,テストにおいて記述問題に粘り強く取り組めるかどうかが学力調査の点数に影響していると考えられる。
付 記
本発表は文部科学省委託研究「平成28年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の一部である。
文部科学省により実施されている全国学力・学習状況調査は,当初より学力調査に加えて,児童生徒を対象とした質問紙調査を実施しており,児童生徒の学力や学習状況の把握,教育改善の方針検討等に役立ってきたと考えられる。一方で,結果の報告が回答割合の記述や各項目と学力のクロス集計にとどまっているため,学力の予測要因をより詳細に検討することが求められる。
そこで,本研究では中学生を対象としたH27年度調査データの因子構造を確認し,見出された因子と学力との関連を重回帰分析により検討することを目的とする。
方 法
対象者
本研究では,中学3年生を対象とした生徒調査の分析を行った。平成27年度の全国学力・学習状況調査における中学3年生の対象者は1,061,032名であった。
測定内容
平成27年度全国学力・学習状況調査における生徒調査は87項目から構成されていた。その領域は「学習に対する関心・意欲・態度」,「学習状況(言語活動)」,「基本的生活習慣」,「自尊意識」等の15領域に分類されていた。分析に使用した項目は4件法(1.当てはまる~4.当てはまらない)で測定された。また,学力調査について,国語A・B,数学A・B,理科の3教科5つの調査を実施した。国語・数学について,A問題については主に知識,B問題については主に活用についての問いから構成されていた。国語Aは33問,国語Bは9問,数学Aは36問,数学Bは15問,理科は25問であった。
結果と考察
各項目の基礎的検討のため,記述統計量,各項目と学力調査の正答率との間の相関分析を実施したが,紙面の制約上結果は割愛する。その後,最尤法・プロマックス回転による探索的因子分析を実施した。生徒調査においては,ガットマン基準及び解釈可能性の観点から因子数を決定し,因子負荷量が.25に満たない項目は下位因子から除外した。その結果,13因子が抽出された。
上記の探索的因子分析によって見出された各因子を説明変数,学力(国語A,国語B,数学A,数学B)を従属変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。
分析の結果,国語A・国語Bに対しては,「国語への関心・意欲・態度」,「基本的生活習慣」,「記述問題への取り組み」の3因子が比較的高い説明力をもつことが示唆された(国語A:国語への関心・意欲・態度 β=-.15;基本的生活習慣 β=-.14;記述問題への取り組み β=-.39;国語B:国語への関心・意欲・態度 β=-.13;基本的生活習慣 β=-.11;記述問題への取り組み β=-.36;ps<.001)。また,数学A・数学Bに対しては,「数学への関心・意欲・態度」,「基本的生活習慣」,「記述問題への取り組み」の3因子が比較的高い説明力をもつことが示唆された(数学A:数学への関心・意欲・態度 β=-.34;基本的生活習慣 β=-.16;記述問題への取り組み β=-.41;数学B:数学への関心・意欲・態度 β=-.26;基本的生活習慣 β=-.13;記述問題への取り組み β=-.43;ps<.001)。
国語,数学共に「関心・意欲・態度」と学力の間に関連がみられたことについて,学習の行動的な側面だけではなく,学習の動機づけ的な側面が重要であることが示唆された。一方で,全国学力・学習状況調査における「関心・意欲・態度」の項目群は,動機づけ心理学において異なる構成概念と捉えられるものが混在している点等が課題点であるといえる。また,「基本的生活習慣」と学力の間の関連について,セルフコントロールと学習時間との間に関連がみられていることから(尾崎・後藤・小林・沓澤,2016),自己制御や満足遅延の程度が背景にあることが考えられるため,今後は上記の概念とのつながりを検討する必要がある。最後に,「記述問題への取り組み」について,この因子に含まれる項目は,国語・数学・理科の各学力調査において最後まで記述問題の解答を書こうと努力したかを問う項目であった。そのため,テストにおいて記述問題に粘り強く取り組めるかどうかが学力調査の点数に影響していると考えられる。
付 記
本発表は文部科学省委託研究「平成28年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の一部である。