[PD12] 思春期の注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連における遺伝と環境
キーワード:注意欠如・多動傾向, 情緒の問題, 思春期
問題と目的
注意欠如・多動症(ADHD)の子どもはさまざまな精神的健康の問題を併存しやすいことが知られているが,その一つに抑うつや不安を含む情緒の問題が挙げられる。これまでに,注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連の背後には,遺伝と環境の両要因が寄与することが明らかにされてきた。例えば,Cole et al. (2009) は,遺伝要因と非共有環境要因による説明を最適モデルとし,遺伝相関(男子 r = .67, 女子 r = .77)および非共有環境相関(男子 r = .39, 女子 r = .40)を報告している。一方,Chen et al. (2015) は,遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因による説明を最適モデルとし,遺伝相関(r = .45),共有環境相関(r = 1.00),非共有環境相関(r = .13)を報告している。このように先行研究の結果は一貫しておらず,また本邦の子どもを対象とした検討は行われていない。
そこで,本研究では,思春期の子どもの注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連について行動遺伝学的検討を行い,これらの関連の背後に遺伝要因および環境要因がどのように寄与しているのかについて明らかにすることを目的とした。
方 法
調査対象者と手続き:全国組織の双生児サークルに所属する家庭を対象として1999年に開始された縦断研究プロジェクトに登録された子どものうち,1999,2001,2003,2005,2007,2009年の各調査年において,小学5年生~中学2年生であった双生児のべ787組(一卵性477組,二卵性310組)の母親の回答を分析の対象とした。各調査年に,郵送により質問紙の配付および回収を行った。
測定尺度:Child Behavior CheckList(CBCL; Achenbach, 1991)4~18歳児・養育者評定版の日本語版(戸ヶ崎・坂野, 1998)のうち,注意の問題に関する下位尺度(11項目,3件法)および情緒の問題に関する下位尺度(14項目,3件法)。
結果と考察
はじめに,単変量遺伝分析を行った結果,注意欠如・多動傾向と情緒の問題は共に,遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因により説明されることが明らかとなった。続いて,注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連(r = .64, p < .01)について,二変量遺伝分析を行ったところ,Figure 1に示される結果が得られた。すなわち,注意欠如・多動傾向を高める遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因は,情緒の問題を高める遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因とそれぞれに関連することが明らかとなった。
本研究の結果より,思春期の注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連について検討する上で,子ども自身の特性の背後にある遺伝要因,そして家庭の成員内で共有される環境要因および子ども一人ひとりが独自に経験する環境要因の各影響に考慮する必要性が示唆された。
引用文献
Chen et al. (2015). Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet, 171, 931-937.
Cole et al. (2009). J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 48, 1094-1101.
注意欠如・多動症(ADHD)の子どもはさまざまな精神的健康の問題を併存しやすいことが知られているが,その一つに抑うつや不安を含む情緒の問題が挙げられる。これまでに,注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連の背後には,遺伝と環境の両要因が寄与することが明らかにされてきた。例えば,Cole et al. (2009) は,遺伝要因と非共有環境要因による説明を最適モデルとし,遺伝相関(男子 r = .67, 女子 r = .77)および非共有環境相関(男子 r = .39, 女子 r = .40)を報告している。一方,Chen et al. (2015) は,遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因による説明を最適モデルとし,遺伝相関(r = .45),共有環境相関(r = 1.00),非共有環境相関(r = .13)を報告している。このように先行研究の結果は一貫しておらず,また本邦の子どもを対象とした検討は行われていない。
そこで,本研究では,思春期の子どもの注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連について行動遺伝学的検討を行い,これらの関連の背後に遺伝要因および環境要因がどのように寄与しているのかについて明らかにすることを目的とした。
方 法
調査対象者と手続き:全国組織の双生児サークルに所属する家庭を対象として1999年に開始された縦断研究プロジェクトに登録された子どものうち,1999,2001,2003,2005,2007,2009年の各調査年において,小学5年生~中学2年生であった双生児のべ787組(一卵性477組,二卵性310組)の母親の回答を分析の対象とした。各調査年に,郵送により質問紙の配付および回収を行った。
測定尺度:Child Behavior CheckList(CBCL; Achenbach, 1991)4~18歳児・養育者評定版の日本語版(戸ヶ崎・坂野, 1998)のうち,注意の問題に関する下位尺度(11項目,3件法)および情緒の問題に関する下位尺度(14項目,3件法)。
結果と考察
はじめに,単変量遺伝分析を行った結果,注意欠如・多動傾向と情緒の問題は共に,遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因により説明されることが明らかとなった。続いて,注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連(r = .64, p < .01)について,二変量遺伝分析を行ったところ,Figure 1に示される結果が得られた。すなわち,注意欠如・多動傾向を高める遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因は,情緒の問題を高める遺伝要因,共有環境要因,非共有環境要因とそれぞれに関連することが明らかとなった。
本研究の結果より,思春期の注意欠如・多動傾向と情緒の問題との関連について検討する上で,子ども自身の特性の背後にある遺伝要因,そして家庭の成員内で共有される環境要因および子ども一人ひとりが独自に経験する環境要因の各影響に考慮する必要性が示唆された。
引用文献
Chen et al. (2015). Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet, 171, 931-937.
Cole et al. (2009). J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 48, 1094-1101.