日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD18] 医学生に対するピア・コーチングの効果

会話分析による変化の検討

西垣悦代1, 藤村あきほ2 (1.関西医科大学, 2.立命館大学大学院)

キーワード:コーチング, 会話分析, 大学生

背景と目的
 コーチング(coaching)とは,コーチとクライアントとの関係の中で,会話を通して個人の潜在能力を開放し,その人自身の能力を最大限に高める活動のことを指す。大学生を対象としたコーチング演習では,自己成長への動機づけ,目標の明確化,コミュニケーションスキルの向上に効果があったとの報告がある(Steele & Arthur,2012)。また,筆者らは医療系学生を対象にしたピア・コーチング演習を通して,学生のコーチングスキル自己効力感が上昇すること(西垣ら2014,2015)を確認した。さらに国際的に確立された医療会話分析システムRIAS(Roter Method of Interaction Process Analysis System)がコーチングの会話分析に転用可能であることを明らかにした(西垣・藤村,2017)。本研究は学生がピア・コーチングのトレーニングを受けた結果,会話がどのように変化したかをRIASの分析を通して明らかにすることを目的として行った。

方  法
 ピア・コーチングは6人の受講生が毎回パートナーを変えながら指定されたテーマでおこなった。セッションは同意を得てICレコーダに録音し,作成された逐語録をもとに2名のコーダーが会話分析をおこなった。分類はRIASのカテゴリーをベースに,西垣ら(2017)の先行研究に基づき,「情報提供」は「事実」と「思考」の下位カテゴリーに分けた。本研究では受講初期と4ヶ月後に同一学生がコーチ役となったセッションを分析した。

結  果
 分析ではコーチ役の発話の変化に着目した。前半,後半のどちらにおいても,社会情緒的発話はコーチの発話のうち約70%,業務的発話は約30%を占めていた。コーチの発話のうち,特に変化が大きかったのが,コーチングの内容に関連する業務的発話のカテゴリーであった。前半と比較して後半は「開かれた質問」の割合が増え,「閉じた質問」がなくなった。また,クライアントへのフィードバックを示す「情報提供(思考)」や確認の「言い換え」の割合が増加した。またカテゴリーには含まれないが,クライアントの発話への明らかな遮りが後半では見られなくなった。
 社会情緒的発話カテゴリーでは,後半に「社交的会話」や「笑い」,クライアントに対する共感的姿勢を示す「同意・理解」「共感」の割合が増加し,「非同意」がなくなった。
  
考  察
 学生に対するピア・コーチングのトレーニングの結果,コーチ役としての発話は開かれた質問が増え,フィードバックや確認が増えるなど,クライアントの話をよく傾聴する方向に変化した。

引用文献
西垣悦代・藤村あきほ(2017)ピア・コーチングの会話分析―RIAS転用の可能性― 日教心第59回発表論文集p132