[PD22] 読み手意識(Audience Awareness)尺度と説明文章のわかりやすさの関連性の検討
読み手意識尺度の信頼性と妥当性への注目
キーワード:読み手意識(Audience Awareness), 説明文章, 因子分析
わかりやすい説明を行うには,どのような点に注意する必要があるのだろうか。辻・岸・中村(2003)は,口頭説明場面における情報処理モデルの提案を行った。それによると,説明者が聴き手の状況(目的,スキル,状態)を推測し,それに合わせた説明内容と説明方法の選択を通して,わかりやすい説明活動が可能となる。小学校学習指導要領(国語科)においても,「相手や目的に応じて,書く上で必要な事柄を調べること(小学校3・4年)」とされている。このように,説明の受け手を意識した説明活動の重要性が注目されている。その一方,説明活動の指導は容易ではない。その理由として,説明の受け手を意識する能力について,どのような能力や技能が関連しているのか,十分な知見が得られていないことが挙げられる。
説明活動の受け手に対する意識の背景要因として,岸・辻・籾山(2014)は,説明文章産出における読み手意識尺度(Audience Awareness尺度: 以下,AA尺度)の提案と検証を行っている。しかし,岸ら自身による検証,また,辻(2015)による追試において,AA尺度の高低間で説明文章のわかりやすさに違いが見られていない。この点について,尺度構成概念の再検討が必要である。本研究では,AA尺度の構成概念に関する再検討を実施した(研究I)。また,再検討されたAA尺度(改定版AA尺度)に基づき,産出される説明文章のわかりやすさの比較を行った(研究II)。これらを通して,読み手意識に基づいた説明文章の指導に関する基礎的な知見が得られることが期待される。
研究I
AA尺度の構成概念として,説明意識(わかりやすさに対する関心),書き手意識(読み手の立場に立った表現),メタ理解(読み手の理解状況モニタリング),工夫実践(理解を促す工夫),以上の4因子(16項目)が挙げられる(岸ら, 2014)。ここでは,質問項目の類似性やワーディングに注目し,見直しを行った質問紙調査を行った。被験者は大学生113名であった。調査は,2017年12月に実施した。探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)の結果,5因子が抽出された。それぞれ,第一因子「受け手の興味関心」,第二因子「説明プラン」,第三因子「柔軟性」,第四因子「メタ的観点」,第五因子「修正・リカバリ」と命名した。因子間相関は,r=.29~.52であった。続いて,メタ認知尺度,クリティカルシンキング尺度との併存的妥当性の検証を実施した。その結果,抽出された5因子構造について一定の妥当性が確認された。研究Iを通して得られた尺度について,改訂版読み手意識尺度(改訂版AA尺度)とした。
研究II
研究Iを通して,改訂版AA尺度の信頼性と妥当性の検証を行った。では,改訂版AA尺度の得点が高い被験者は,読み手に配慮したわかりやすい説明文章を産出することができるのだろうか。研究IIでは,改訂版AA尺度の高低間における説明文章の比較を実施し,わかりやすい説明活動の背景要因の検討を行った。
被験者は大学生38名であり,同時に多人数に説明文産出課題を提示し解答させた。調査は2018年1月に実施した。説明する課題は,大学構内の案内文(道案内文章)と,幾何学図形の伝達(図形伝達文章)の2種類であった。佐藤・中里(2012)は,図形説明課題を用いることで,難易度の設定と正誤判定が比較的容易であると指摘している。
改訂版AA尺度の中央値を基準として,被験者の群分け(高群・低群)を行った。評価に際して,学部4年生(教育心理学に関するゼミ所属) 2名が評価を行い,実験者との協議を通して,7件法による数量評定を行った。評価観点は,①正しさ,②わかりやすさ,③受け手配慮,④ていねいさ,⑤簡潔さ,⑥好感度であった。ここで,②わかりやすさに注目すると,道案内文章課題において有意傾向が見られた(p=.069)。その一方,図形伝達文章課題には,差は認められなかった。その他の評価観点に注目すると,道案内文章において,「受け手配慮」「ていねいさ」「好感度」に差が見られた(高群>低群, p<.05)。一方で,図形伝達文章においては,いずれの項目にも差は見られなかった。これらの結果は,改訂版AA尺度の高群における説明文章は,常にわかりやすいものではなく,説明課題(説明内容)に依存する可能性を示している。特に,幾何学図形課題は,非常に抽象度の高い説明課題であり,読み手に対する意識を行動で実践する選択肢が限られていたことが考えられる。今後の課題として,改訂版AA尺度の信頼性と妥当性の検証を続けること,また,多様な説明課題における説明活動の評価と比較を実施すること,これらが挙げられる。
説明活動の受け手に対する意識の背景要因として,岸・辻・籾山(2014)は,説明文章産出における読み手意識尺度(Audience Awareness尺度: 以下,AA尺度)の提案と検証を行っている。しかし,岸ら自身による検証,また,辻(2015)による追試において,AA尺度の高低間で説明文章のわかりやすさに違いが見られていない。この点について,尺度構成概念の再検討が必要である。本研究では,AA尺度の構成概念に関する再検討を実施した(研究I)。また,再検討されたAA尺度(改定版AA尺度)に基づき,産出される説明文章のわかりやすさの比較を行った(研究II)。これらを通して,読み手意識に基づいた説明文章の指導に関する基礎的な知見が得られることが期待される。
研究I
AA尺度の構成概念として,説明意識(わかりやすさに対する関心),書き手意識(読み手の立場に立った表現),メタ理解(読み手の理解状況モニタリング),工夫実践(理解を促す工夫),以上の4因子(16項目)が挙げられる(岸ら, 2014)。ここでは,質問項目の類似性やワーディングに注目し,見直しを行った質問紙調査を行った。被験者は大学生113名であった。調査は,2017年12月に実施した。探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)の結果,5因子が抽出された。それぞれ,第一因子「受け手の興味関心」,第二因子「説明プラン」,第三因子「柔軟性」,第四因子「メタ的観点」,第五因子「修正・リカバリ」と命名した。因子間相関は,r=.29~.52であった。続いて,メタ認知尺度,クリティカルシンキング尺度との併存的妥当性の検証を実施した。その結果,抽出された5因子構造について一定の妥当性が確認された。研究Iを通して得られた尺度について,改訂版読み手意識尺度(改訂版AA尺度)とした。
研究II
研究Iを通して,改訂版AA尺度の信頼性と妥当性の検証を行った。では,改訂版AA尺度の得点が高い被験者は,読み手に配慮したわかりやすい説明文章を産出することができるのだろうか。研究IIでは,改訂版AA尺度の高低間における説明文章の比較を実施し,わかりやすい説明活動の背景要因の検討を行った。
被験者は大学生38名であり,同時に多人数に説明文産出課題を提示し解答させた。調査は2018年1月に実施した。説明する課題は,大学構内の案内文(道案内文章)と,幾何学図形の伝達(図形伝達文章)の2種類であった。佐藤・中里(2012)は,図形説明課題を用いることで,難易度の設定と正誤判定が比較的容易であると指摘している。
改訂版AA尺度の中央値を基準として,被験者の群分け(高群・低群)を行った。評価に際して,学部4年生(教育心理学に関するゼミ所属) 2名が評価を行い,実験者との協議を通して,7件法による数量評定を行った。評価観点は,①正しさ,②わかりやすさ,③受け手配慮,④ていねいさ,⑤簡潔さ,⑥好感度であった。ここで,②わかりやすさに注目すると,道案内文章課題において有意傾向が見られた(p=.069)。その一方,図形伝達文章課題には,差は認められなかった。その他の評価観点に注目すると,道案内文章において,「受け手配慮」「ていねいさ」「好感度」に差が見られた(高群>低群, p<.05)。一方で,図形伝達文章においては,いずれの項目にも差は見られなかった。これらの結果は,改訂版AA尺度の高群における説明文章は,常にわかりやすいものではなく,説明課題(説明内容)に依存する可能性を示している。特に,幾何学図形課題は,非常に抽象度の高い説明課題であり,読み手に対する意識を行動で実践する選択肢が限られていたことが考えられる。今後の課題として,改訂版AA尺度の信頼性と妥当性の検証を続けること,また,多様な説明課題における説明活動の評価と比較を実施すること,これらが挙げられる。