日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD25] 保育者研修におけるマイクロティーチングの研究Ⅱ

ビデオを用いた行動分析による有効性の検討

金子智栄子1, 金子智昭2, 清水優菜3 (1.文京学院大学, 2.埼玉純真短期大学, 3.慶應義塾大学)

キーワード:マイクロティーチング, 保育者研修, 行動分析

問題と目的
 研究Ⅰ(教心総会,2018)では,マイクロティーチング(MT)の有効性を観察者の行動評定により検証したところ,保育者役(T)の保育技術が向上し,子ども役(C)ものびのびと活動を発展させていったことが分かった。そこで本研究Ⅱでは,ビデオを用いて行動分析を行い,MTの有効性を検証する。

方  法
参加者,指導内容,訓練日時・手順:研究Ⅰ参照
行動観察の項目作成:MTのビデオ録画を基に,TとCの発言をトランスクリプトとして作成し,1人の発話者の発話内容を,分析単位とした。
 TとCの相互作用を明らかにするために,森ら(1991)を参考に,筆者らが独自のカテゴリーを開発した。TからCへの働きかけを表すT→Cのカテゴリーについて,保育者から幼児への発言として6カテゴリー(「T1:賞賛・励まし・支持・共感」,「T2:示唆・助言」,「T3:(子どもの訴えに対する)承認・許可」,「T4:中間的発言(説明・指示・確認・発問)」,「T5:命令・禁止」,「T6:注意・叱責・非難」)および2カテゴリー(「open:クラス全体に向けた発言または幼児の多様な答えや行動を引き出す発言」,「end:特定の幼児に向けた発言または幼児に決まった答えや行動を求める発言),その保育者の働きかけに対する幼児の反応として3カテゴリー(「TC1:無反応」,「TC2:拒否」,「TC3:受容」)を作成した。幼児から保育者への働きかけを表すC→Tカテゴリーについて,幼児から保育者への発言として7カテゴリー(「C1:賞賛・励まし・支持・共感」,「C2:(クラス全体に向けた)提案・代案」,「C3:自律的な援助要請」,「C4:中立的発言(説明・意見・確認・発問)」,「C5:(自分事に関する)承認・許可」,「C6:(自分事に関する)訴え・依頼」,「C7:依存・甘え・自己顕示的行動」),その幼児に対する保育者の反応として3カテゴリー(「CT1:無反応」,「CT2:拒否」,「CT3:受容」)を作成した。

結果と考察
 評定者は教員経験のある2人で,そのうち一人は保育者養成校にて実習指導をしている。全21カテゴリーに対する評定者間の一致率は,64.0%~100%であった。不一致の場合は協議してカテゴリーを決定した。MT実践の1回目と2回目のカテゴリーの出現割合を算出し,比率の差の検定を行った。
全体について:MT実践の1回目よりも2回目の方が,T→Cでは「end」(p<.01)が増加し,TC2(p<.05)が減少した。C→TではC1(p<.05)増加し,CT2(p<.05)が減少していた。Tの特定の行動への要求が増えてもCは拒否せず,Cの肯定的な行動が増えてTの拒否が減るといった好ましい循環があったことがうかがわれる。
場面について:時系列と指導内容から4場面(「朝の集まり」「出欠」「夕涼み会(全体説明)」「夕涼み会(踊りの練習)」)ごとに分析した。
 夕涼み会(全体説明)において,T6(p<.05)とTC2(p<.05)が減少し,TC3(p<.05)が増加した。Tの否定的な働きかけが減り,Cが拒否せず受け止めるようになったことがわかる。
 夕涼み会(踊りの練習)においてT→Cの「end」(p<.001),C→TのC1(p<.01)が増加し,CT1(p<.05)が減少していた。TがCに対して特定の行動を要求するようになったが,Cが活動に意欲的に参加するようになったと考える。「練習」という特定の行動への要求であっても,Cが主体的に参加している様子がうかがえる。
 MTによる保育技術の向上がTとCの相互交渉に好ましい循環をもたらしたと考える。