[PD28] 協働学習の授業デザインに関する教師の認識
自由記述による探索的検討
キーワード:協働学習, 授業デザイン, 自由記述
問題と目的
今日,学習指導要領の改訂などから協働学習への関心はより一層の高まりを見せている。こうした協働学習に対する社会的関心の一方で,協働学習を支える教師の専門性への研究は十分な蓄積がない現状にある(秋田他,2016)。
Kaendler et al.(2015)によると,教師の役割は主に「学習前の支援」,「学習中の支援」「学習後の支援(評価)」の3点に分類できる。特に「学習前の支援」に着目すると,例えばオープンエンド課題の設定や,グループのメンバー構成といった協働学習デザインに関する支援が挙げられる(レビューとしてGillies,2014; Webb,2013)。これらを踏まえると,一般的な授業デザインと協働学習を念頭に入れた授業デザインは相違があると考えられる。そこで本研究は一般的な授業デザイン認識と協働学習を用いた授業デザイン認識を比較し,協働学習を用いた授業デザインにおいて教師が重要視するポイントを探索的に検討することを目的とする。
方 法
対象者
小学校教師129名(男性86名,女性43名,20.66±10.45年)。株式会社マクロミルに登録されているサンプルより小学校教師を事前スクリーニングした上で協力を依頼した。
課題
教示文として一般的な授業デザインについては「日々の授業デザインの中で意識されていること」として,自由記述を求めた。
協働学習を用いた授業デザインについては「協働学習を取り入れた授業をデザインする中で意識されていること」として,自由記述を求めた。なお,ここでの“協働学習”は,ペア,グループ,クラス全体での話し合いを基軸とした授業を想定するよう求めた。
結果と考察
Table 1は,一般的な授業デザイン認識と協働学習を用いた授業デザイン認識についての各回答について,カテゴリー化し記述数を集計した結果である。カテゴリーは「活動に関する記述:子どもたちが行う具体的な活動に言及した記述(e.g., 多様な考えを出す,全員が授業に参加する,友だちの考えも聞く)」,「内容に関する記述:子どもたちが扱う課題やねらい,授業の雰囲気に言及した記
述(e.g., 楽しい授業,興味・関心を引き出す,思考力を付ける授業)」,「教師の在り方に関する記述:当該授業における教師の立場や意識することに言及した記述(e.g., 子どもの意欲を大切にする,教師が話しすぎない)」,「タイミングに関する記述:活動の切り替えや時間配分に言及した記述(e.g., 協働学習を取り入れるタイミング,取り入れる時間配分)」「その他:分類の難しい記述(e.g., 想像力,授業は生もの)」「なし(無記述も含む)」の6カテゴリーが生成された。教師によっては2つ以上のデザインのポイントが見出され,それらは別々にカウントした。カテゴリー分類の信頼性はκ=.71であり,十分と認められた。
「その他」と「なし」を除いた4カテゴリーの記述数についてカイ二乗検定を行ったところ,有意となった(χ2(3)=17.23, p<.01, Cramer’s V=.26, 95%CI[.16,.38])。残差分析結果はTable 1に示す。
この結果は2つの解釈可能性を有する。1つは,協働学習を用いた授業デザインが活動面(how)を重視し,内容面(what)をあまり重視せずにデザインされる傾向にある可能性である。一方で,日本の授業が協働的であるという指摘(Stigler & Hiebert,1999)を考慮すると,一般的な授業デザイン認識において,協働的な学びを生む授業が想定されていた可能性もある。もしそうであれば,内容面を考慮する一般的な授業デザイン認識に加えて,活動面を考慮する協働学習のデザイン認識の二重構造により,協働学習がデザインされている可能性も考えられる。
付 記
本研究は東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化センター若手研究者育成プロジェクト(2015年度)の支援を受けて実施されました。
今日,学習指導要領の改訂などから協働学習への関心はより一層の高まりを見せている。こうした協働学習に対する社会的関心の一方で,協働学習を支える教師の専門性への研究は十分な蓄積がない現状にある(秋田他,2016)。
Kaendler et al.(2015)によると,教師の役割は主に「学習前の支援」,「学習中の支援」「学習後の支援(評価)」の3点に分類できる。特に「学習前の支援」に着目すると,例えばオープンエンド課題の設定や,グループのメンバー構成といった協働学習デザインに関する支援が挙げられる(レビューとしてGillies,2014; Webb,2013)。これらを踏まえると,一般的な授業デザインと協働学習を念頭に入れた授業デザインは相違があると考えられる。そこで本研究は一般的な授業デザイン認識と協働学習を用いた授業デザイン認識を比較し,協働学習を用いた授業デザインにおいて教師が重要視するポイントを探索的に検討することを目的とする。
方 法
対象者
小学校教師129名(男性86名,女性43名,20.66±10.45年)。株式会社マクロミルに登録されているサンプルより小学校教師を事前スクリーニングした上で協力を依頼した。
課題
教示文として一般的な授業デザインについては「日々の授業デザインの中で意識されていること」として,自由記述を求めた。
協働学習を用いた授業デザインについては「協働学習を取り入れた授業をデザインする中で意識されていること」として,自由記述を求めた。なお,ここでの“協働学習”は,ペア,グループ,クラス全体での話し合いを基軸とした授業を想定するよう求めた。
結果と考察
Table 1は,一般的な授業デザイン認識と協働学習を用いた授業デザイン認識についての各回答について,カテゴリー化し記述数を集計した結果である。カテゴリーは「活動に関する記述:子どもたちが行う具体的な活動に言及した記述(e.g., 多様な考えを出す,全員が授業に参加する,友だちの考えも聞く)」,「内容に関する記述:子どもたちが扱う課題やねらい,授業の雰囲気に言及した記
述(e.g., 楽しい授業,興味・関心を引き出す,思考力を付ける授業)」,「教師の在り方に関する記述:当該授業における教師の立場や意識することに言及した記述(e.g., 子どもの意欲を大切にする,教師が話しすぎない)」,「タイミングに関する記述:活動の切り替えや時間配分に言及した記述(e.g., 協働学習を取り入れるタイミング,取り入れる時間配分)」「その他:分類の難しい記述(e.g., 想像力,授業は生もの)」「なし(無記述も含む)」の6カテゴリーが生成された。教師によっては2つ以上のデザインのポイントが見出され,それらは別々にカウントした。カテゴリー分類の信頼性はκ=.71であり,十分と認められた。
「その他」と「なし」を除いた4カテゴリーの記述数についてカイ二乗検定を行ったところ,有意となった(χ2(3)=17.23, p<.01, Cramer’s V=.26, 95%CI[.16,.38])。残差分析結果はTable 1に示す。
この結果は2つの解釈可能性を有する。1つは,協働学習を用いた授業デザインが活動面(how)を重視し,内容面(what)をあまり重視せずにデザインされる傾向にある可能性である。一方で,日本の授業が協働的であるという指摘(Stigler & Hiebert,1999)を考慮すると,一般的な授業デザイン認識において,協働的な学びを生む授業が想定されていた可能性もある。もしそうであれば,内容面を考慮する一般的な授業デザイン認識に加えて,活動面を考慮する協働学習のデザイン認識の二重構造により,協働学習がデザインされている可能性も考えられる。
付 記
本研究は東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化センター若手研究者育成プロジェクト(2015年度)の支援を受けて実施されました。