[PD31] 文章題を読み解き,答えを導き出す図表のしくみ
どのように教え,どのように促すか
キーワード:学習方略, 認知負荷理論, 学習観
問題と目的
問題 数学問題解決には図表の活用が有効である(Diezmann, 2002; Larkin & Simon, 1987) 。しかし,生徒は自発的に図表を活用せず,図表を産出しても学習効果につながりにくい(Uesaka et al, 2007, 2010, 2012)。近年,具体的な図やイラストより抽象的な図表(表やグラフ)のほうが理解のための認知コストが大きいことが脳波を用いた神経科学的な研究からも実証された(van Leeuwen et al, 2015)。発表者はそれに基づいて,適切な抽象的図表(線分図,表,グラフ)の知識の教授と手続きの練習(Manalo & Uesaka, 2016)を介入した結果,認知負荷が下がり,自発的な図表活用が促され,正答率が大幅に向上することを明らかした。さらに,数週間に及ぶ実験期間に渡って図表の自発的使用は持続した。しかし,本来,問題構造に由来するはずの認知負荷がなぜ下がったのか,なぜ図表活用が問題解決につながったのか,なぜ図表活用が持続したのか,図表を活用できた生徒とそうでない生徒にはどのような違いがあるかについて検討されていない。
目的 これらの問題に対して認知負荷理論(Sweller, 2010)や期待価値理論(Wigfield & Eccles, 2000)に着目し,より詳細な分析を行うことで,生徒が図表を自発的に問題解決に活用するようになるための教授要件のしくみと学習観(Uesaka et al, 2008)に基づいた教育への示唆を検討する。
方 法
手続き 参加者は中学2年生70名(男33)で,実験期間は22日間(計8時限)であった。マルチプル・ベースライン・デザイン(プレテスト/線分図教授/事後テスト1/表教授/事後テスト2/グラフ教授/事後テスト3/フォローアップテスト)で実際の中学校で実施された教授介入実験において収集したデータを使用した。テスト課題には,いずれかの図表知識が問題解決に役立つと想定した3タイプの同型文章題(線分図課題/表課題/グラフ課題,各200~400字)であった。答案用紙には解決過程を記入できるスペースを設け,テスト実施直後に質問紙による調査を行った。
質問紙 学習観尺度12項目(プレテスト前),図表使用困難性尺度2項目,認知負荷尺度12項目,期待・価値尺度10項目(テスト後),いずれも10件法。
答案分析 ルーブリックを作成し,図表得点と課題得点をスコアリングした(0-8点)。
結果と考察
結果 まず,図表知識の教授介入を行った結果,すべての文章題タイプ(線分図/表/グラフ)において図表使用困難性が有意に低下し(F(1,69)=17.56, 53.67, 22.92, いずれもp<0.001),介入の有効性が確認された。図表使用困難性を独立変数,認知負荷(内在性・外在性)を従属変数とした回帰分析を行ったところ,有意なパスが確認された。次に,図表得点を媒介変数として認知負荷から課題得点に対する媒介分析を行った。すると,有意な媒介効果が確認された(ACME=.06-.17)。また,遅れ効果モデル(Finkel, 1995)を用いて,学習関連認知負荷から期待・価値への因果検討を行ったところ,有意なパスが確認された。最後に,図表を活用するようになった生徒と活用しなかった生徒の学習観を分析したところ,認知主義的学習観(方略志向,意味理解志向,思考過程重視志向,失敗活用志向)が高い生徒は教授介入によって図表得点が有意に高くなることが確認された。一方,非認知主義的学習観(学習量志向,丸暗記志向,結果重視志向)との間には有意な差はみられなかった。
考察 認知負荷による検討から,図表活用が問題の理解と解決の両面で役立つことが示唆された。これは図表知識(宣言的知識,条件的知識,手続き的知識)の教授が図表活用スキルを高め,問題空間(Newwell, 1972)として図表が解法に組み込まれたからだと考えられ,言語ベースの推論に基づく立式や計算よりも効果的な道具であることが示唆された。また,図表を活用した自発的な操作が学習関連認知負荷の割り当てを誘導し認知的動機づけを高め,問題の特徴から適切な道具を持続的に選択,活用させたとする説明が,期待・価値と関連づけて与えられた。学習観による検討から,問題の理解と解決を促す図表の意味,使い方,しくみの理解や失敗を生かしてスキルを身につけるという学習成立に対する認知的な信念が,図表活用スキルの習得においても有効であることが示唆された。
問題 数学問題解決には図表の活用が有効である(Diezmann, 2002; Larkin & Simon, 1987) 。しかし,生徒は自発的に図表を活用せず,図表を産出しても学習効果につながりにくい(Uesaka et al, 2007, 2010, 2012)。近年,具体的な図やイラストより抽象的な図表(表やグラフ)のほうが理解のための認知コストが大きいことが脳波を用いた神経科学的な研究からも実証された(van Leeuwen et al, 2015)。発表者はそれに基づいて,適切な抽象的図表(線分図,表,グラフ)の知識の教授と手続きの練習(Manalo & Uesaka, 2016)を介入した結果,認知負荷が下がり,自発的な図表活用が促され,正答率が大幅に向上することを明らかした。さらに,数週間に及ぶ実験期間に渡って図表の自発的使用は持続した。しかし,本来,問題構造に由来するはずの認知負荷がなぜ下がったのか,なぜ図表活用が問題解決につながったのか,なぜ図表活用が持続したのか,図表を活用できた生徒とそうでない生徒にはどのような違いがあるかについて検討されていない。
目的 これらの問題に対して認知負荷理論(Sweller, 2010)や期待価値理論(Wigfield & Eccles, 2000)に着目し,より詳細な分析を行うことで,生徒が図表を自発的に問題解決に活用するようになるための教授要件のしくみと学習観(Uesaka et al, 2008)に基づいた教育への示唆を検討する。
方 法
手続き 参加者は中学2年生70名(男33)で,実験期間は22日間(計8時限)であった。マルチプル・ベースライン・デザイン(プレテスト/線分図教授/事後テスト1/表教授/事後テスト2/グラフ教授/事後テスト3/フォローアップテスト)で実際の中学校で実施された教授介入実験において収集したデータを使用した。テスト課題には,いずれかの図表知識が問題解決に役立つと想定した3タイプの同型文章題(線分図課題/表課題/グラフ課題,各200~400字)であった。答案用紙には解決過程を記入できるスペースを設け,テスト実施直後に質問紙による調査を行った。
質問紙 学習観尺度12項目(プレテスト前),図表使用困難性尺度2項目,認知負荷尺度12項目,期待・価値尺度10項目(テスト後),いずれも10件法。
答案分析 ルーブリックを作成し,図表得点と課題得点をスコアリングした(0-8点)。
結果と考察
結果 まず,図表知識の教授介入を行った結果,すべての文章題タイプ(線分図/表/グラフ)において図表使用困難性が有意に低下し(F(1,69)=17.56, 53.67, 22.92, いずれもp<0.001),介入の有効性が確認された。図表使用困難性を独立変数,認知負荷(内在性・外在性)を従属変数とした回帰分析を行ったところ,有意なパスが確認された。次に,図表得点を媒介変数として認知負荷から課題得点に対する媒介分析を行った。すると,有意な媒介効果が確認された(ACME=.06-.17)。また,遅れ効果モデル(Finkel, 1995)を用いて,学習関連認知負荷から期待・価値への因果検討を行ったところ,有意なパスが確認された。最後に,図表を活用するようになった生徒と活用しなかった生徒の学習観を分析したところ,認知主義的学習観(方略志向,意味理解志向,思考過程重視志向,失敗活用志向)が高い生徒は教授介入によって図表得点が有意に高くなることが確認された。一方,非認知主義的学習観(学習量志向,丸暗記志向,結果重視志向)との間には有意な差はみられなかった。
考察 認知負荷による検討から,図表活用が問題の理解と解決の両面で役立つことが示唆された。これは図表知識(宣言的知識,条件的知識,手続き的知識)の教授が図表活用スキルを高め,問題空間(Newwell, 1972)として図表が解法に組み込まれたからだと考えられ,言語ベースの推論に基づく立式や計算よりも効果的な道具であることが示唆された。また,図表を活用した自発的な操作が学習関連認知負荷の割り当てを誘導し認知的動機づけを高め,問題の特徴から適切な道具を持続的に選択,活用させたとする説明が,期待・価値と関連づけて与えられた。学習観による検討から,問題の理解と解決を促す図表の意味,使い方,しくみの理解や失敗を生かしてスキルを身につけるという学習成立に対する認知的な信念が,図表活用スキルの習得においても有効であることが示唆された。