日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD56] 女子高校生における学業的自己概念の偏りと抑うつ傾向の関連

3年間の縦断データから

宮本友弘1, 相良順子2, 鈴木悦子3 (1.東北大学, 2.聖徳大学, 3.聖徳大学)

キーワード:学業的自己概念, 抑うつ傾向, 縦断的研究

問  題
 学業的自己概念(Academic Self-Concept,以下,ASC)は,それ自体が重要な結果変数であると同時に,他の望ましい心理的,行動的結果を促進する重要な媒介変数とされる(外山,2008)。しかし,相良他(2015)の女子高校生を対象にした調査によれば,英語のASCを学業成績に比して過小に評価する場合,自己価値の評価が低下した。自己価値は抑うつ傾向と強い負の相関があることから(相良他,2016), こうしたASCの偏りは,不適応を招く可能性がある。この点について,高校3年間の縦断データから検討する。

方  法
 調査対象 首都圏にある私立女子高校201X年度入学者178名及び翌年度入学者160名。
 手続き ASCと抑うつ傾向については毎年7月に質問紙を実施し,学業成績は毎年実施されている標準学力テストの結果を利用した。なお,本研究は聖徳大学「ヒューマンスタディに関する倫理審査委員会」の承認を得て実施した。
 ASC 国語,数学,英語について「どのくらい得意か」を5件法で尋ねた。
 抑うつ傾向 日本版DSRS-C(18項目,3件法)。
学業成績 ベネッセのスタディーサポートの国語,数学,英語の成績(全国を基準とした偏差値)。

結  果
 ASCの偏りの類型化 全学年・教科でASCと学業成績の間には有意な正な相関がみられた。そこで,学業成績から予測されるASCと実際のASCの間のズレ(残差)を求めた。全残差を使用してクラスター分析(Ward法)を行い,デンドログラムから4クラスターが妥当と判断した。Figure 1の通り,CL2は3年間,本来の学力以上に国語が得意と評価する「国語得意」群,同様にCL3は「英語得意」群,CL4は「数学得意」群,一方,CL1はいずれの教科も実力ほど得意とは評価しない「全般不得意」群と命名した。
 偏りの類型による抑うつ傾向の比較 4類型の抑うつ傾向を比較した。Figure 2の通り,全学年で英語得意群と全般不得意群の差が有意であった。DSRS-Cのカットオフポイントは16であることからも,全般不得意群は抑うつ傾向が高かった。

考  察
 以上,学業成績に比してASCを低く評価する生徒は,抑うつ傾向が高くなることが示唆された。一方,特定の科目,とくに英語のASCを高く評価する生徒は抑うつ傾向が低くなる。女子高校生のASC形成における他の教科との比較(内的準拠枠)の影響(宮本・相良,2018)を踏まえ,「英語ができる」ことの心理的な意味を探る必要がある。

付  記
本研究は科研費(26380949)の助成を受けた。