日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD59] 中学生におけるネットメディア依存と時間的展望との関連

日潟淳子 (姫路大学)

キーワード:時間的展望, ネットメディア依存

問題と目的
 今日,インターネットへの接続が簡単にできるスマートフォンやタブレット端末が登場し,それらを使ってオンラインゲームや動画視聴,SNSによる友達との交流などを行う児童・生徒が急増している。その中で,ネットメディアの使用をコントロールできず,社会生活や人間関係に支障をきたしているネット依存傾向が児童生徒の約1割~3割に生じているとされる(総務省,2013)。
 子どもたちがネットメディアに依存する一つの要因として未来や過去を見通す力が乏しく,現在の快楽に焦点化してしまうことが考えられる。そのため,その時期に時間的展望の意識を高め,過去や未来を見通して人生を歩むことの大切さを喚起する心理教育を行うことが,自らの意志でコントロールし,ネットメディア依存に陥らない力を身につけることにつながるのではないかと考える。
 そこで本研究では,ネットメディア機器の使用率が高まるが,その使用に対して親の管理が難しくなる時期でもあり,また,時間的展望が獲得される時期である中学1年生を対象に,ネットメディア依存状況と時間的展望の意識との関連をとらえる。加えて,ネット防止のための心理教育の開発に向けての示唆を得ることを目的とする。

方  法
(1) 調査時期:2018年2月上旬
(2) 調査対象者
兵庫県下の公立中学校の1年生3クラス97名(男子47名 女子49名 不明1名)
平均年齢 12.87歳(SD=.37)
(3) 質問紙内容
① ネットメディアを始めた時の状況
 年齢,始めた理由,使用機器,使用時間
② 現在のネットの使用状況
 使用理由,使用機器,使用時間
③ ネットメディアを使ってからの生活や気持ちの変化
 遠藤(2015)の友達・家族との関係,睡眠時間,視力,成績,将来への希望など11項目。3件法。点数が高い方がネガティブな変化を示す。
④ ネット依存尺度
 Young(1998)に基づいて総務省情報通信政策研究所(2014)が作成したもの。20項目。5件法。点数が高い方がネット依存度が高いことを示す。
⑤ 時間的展望を測定する項目
 都筑(2008)で使用された時間的展望尺度。10項目。4件法。下位因子は「将来の希望」「将来目標の渇望」「空虚感」「計画性」。
 石井(2015)による時間的連続性尺度から6項目を使用(中学生に分かる表現に一部修正)。4件法。下位因子は「現在と未来の連続性」「過去の現在の連続性」。
(4) 手続き
 配布は各クラスの担任の先生に依頼した。質問紙は1部ずつ封筒に入れ,生徒に配布してもらい,記入後に生徒に封印してもらい,回収していただいた。調査の実施に際して,姫路大学の研究倫理審査を得た。

結果と考察
(1) ネットメディアを始めた時期(Table 1)
 5歳が最も早く,9歳に急激に増え,小学校高学年が最も多くなった。
(2) ネットメディア使用による身体,気持ちや行動の変化
 友達との関係が悪くなった,気持ち,未来のことを考える項目に対してネガティブな変化があったと答えた者は少なかったが,成績,視力,体調,睡眠時間についてはネガティブな変化を感じる割合はポジティブな変化を感じる割合よりも高かった。目に見える変化については子どもたちも自覚していることがうかがえた。
(3) 始めた年齢,ネット依存傾向と時間的展望との関連
 始めた年齢,ネット依存傾向との関連がみられた時間的展望は「計画性」であった。また,ネット依存傾向と時間的展望のすべての下位因子において相関が見られた。この結果からネット依存に陥ることにより過去や未来への視野が狭くなっていることが示唆され,それらに働きかける心理教育を行うことの有効性が示唆された。

付 記 本研究は福原心理教育研究振興基金からの助成金によって遂行された