[PD60] 高校生に対する予防的心理支援としてのレジリエンス教育の実践と効果(4)
生徒の環境感受性と介入効果の交互作用の観点から
キーワード:レジリエンス, 心理教育, 環境感受性
問題と目的
近年,多くの学校教育現場おいて,生徒たちの不適応や抑うつといった心理的問題の予防や,社会的情動性をはじめとした非認知能力の育成を目的とした心理教育が導入されるようになった。それに伴い,こうした心理教育の効果検討も求められるようになり,尺度評価を中心とした実証的な知見が積み重ねられるようになってきた。しかしながら,とりわけ学校現場での実践においては,その教育内容だけが効果を左右するわけではなく,生徒の個人特性や年齢特徴,集団特性,教員の特性など,関連する要因との相互作用によって効果にばらつきがみられることが多い。例えば鈴木ら(2017)は,同一講師が同一プログラムを実施した場合でも,生徒のコホートの違いや心理状態(自己評価)によって効果が異なったことを報告している。したがって,より効果的な心理教育を展開するために,こうした関連要因と教育内容との関係を丁寧に検討していくことが求められる。
そこで,本研究では予防的心理支援としてのレジリエンス教育において,生徒のもつ個人特性(気質的特性)によるプログラムの効果の違いを検討することを目的とした。具体的には,生得的な心理的敏感さである環境感受性(Pluess , 2015)の高低によって,教育効果に違いがあるかどうかを検討した。
方 法
対象 都内A高校に通う高校生156名(介入群)および296名(統制群)
介入内容 45分×6セッションから構成されるレジリエンス教育(SPARK:Boniwell &Ryan, 2009)を実施した。統制群は翌年度に同教育を実施した。
尺度 介入群・統制群ともに,効果評価の指標として,二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010)21項目,自尊感情尺度(Rosenberg, 1965)10項目,一般自己効力尺度(Ito, Schwarzer, & Jerusalem, 2005)10項目を,介入前(T1),介入後(T2)の時点で実施した。また,個人の環境感受性の評価として,Highly Sensitive Child尺度(HSC: Pluess & Boniwell, 2015)をT1に実施した。
分析方法 HSC尺度得点の上位30%を高群,下位30%を低群とした上で,反復測定の分散分析(混合計画)によりレジリエンス,自尊感情,自己効力感得点の変化を検討した。
結 果
T1時点におけるHSC低群/高群の各尺度得点比較 介入群・統制群ともに,レジリエンス得点,自己効力感にはHSCによる有意な差が見られなかった。一方で,自尊感情については両群ともにHSC高群の方が有意に低いことが確認された(介入群:t(99) = -3.29, p < .01, 統制群:t(179) = -2.88, p < .01)。
介入前後の変化の検討
介入群:レジリエンスおよび自己効力感についてはHSC低群・高群ともに介入前後で有意な得点変化は見られなかったものの,自尊感情については交互作用が有意であり(F(1, 97) = 4.22, p < .05),HSCの高い生徒のみ介入後に自尊感情が上昇していた(Figure)。
統制群:いずれの尺度についても,主効果,交互作用とも有意な結果は示されなかった。
考 察
T1で自尊感情が有意に低いことが示された心理的敏感さの高い生徒の方がレジリエンス教育を通して自尊感情が向上するという結果が得られた。これは,感受性の高い人々が,環境からのネガティブな影響を受けやすいと同時にポジティブな影響も受けやすいという差次感受性(differential susceptibility)の概念を支持する結果であると考えられる。すべての尺度指標について同様の傾向が見られたたわけではないが,本研究の結果は,生徒のもつ気質的な特性である環境感受性の違いによって,心理教育の効果に違いが生じる可能性を示すものであり,今後は生徒の個人特性に合わせた効果的な支援を検討していく必要がある。
近年,多くの学校教育現場おいて,生徒たちの不適応や抑うつといった心理的問題の予防や,社会的情動性をはじめとした非認知能力の育成を目的とした心理教育が導入されるようになった。それに伴い,こうした心理教育の効果検討も求められるようになり,尺度評価を中心とした実証的な知見が積み重ねられるようになってきた。しかしながら,とりわけ学校現場での実践においては,その教育内容だけが効果を左右するわけではなく,生徒の個人特性や年齢特徴,集団特性,教員の特性など,関連する要因との相互作用によって効果にばらつきがみられることが多い。例えば鈴木ら(2017)は,同一講師が同一プログラムを実施した場合でも,生徒のコホートの違いや心理状態(自己評価)によって効果が異なったことを報告している。したがって,より効果的な心理教育を展開するために,こうした関連要因と教育内容との関係を丁寧に検討していくことが求められる。
そこで,本研究では予防的心理支援としてのレジリエンス教育において,生徒のもつ個人特性(気質的特性)によるプログラムの効果の違いを検討することを目的とした。具体的には,生得的な心理的敏感さである環境感受性(Pluess , 2015)の高低によって,教育効果に違いがあるかどうかを検討した。
方 法
対象 都内A高校に通う高校生156名(介入群)および296名(統制群)
介入内容 45分×6セッションから構成されるレジリエンス教育(SPARK:Boniwell &Ryan, 2009)を実施した。統制群は翌年度に同教育を実施した。
尺度 介入群・統制群ともに,効果評価の指標として,二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010)21項目,自尊感情尺度(Rosenberg, 1965)10項目,一般自己効力尺度(Ito, Schwarzer, & Jerusalem, 2005)10項目を,介入前(T1),介入後(T2)の時点で実施した。また,個人の環境感受性の評価として,Highly Sensitive Child尺度(HSC: Pluess & Boniwell, 2015)をT1に実施した。
分析方法 HSC尺度得点の上位30%を高群,下位30%を低群とした上で,反復測定の分散分析(混合計画)によりレジリエンス,自尊感情,自己効力感得点の変化を検討した。
結 果
T1時点におけるHSC低群/高群の各尺度得点比較 介入群・統制群ともに,レジリエンス得点,自己効力感にはHSCによる有意な差が見られなかった。一方で,自尊感情については両群ともにHSC高群の方が有意に低いことが確認された(介入群:t(99) = -3.29, p < .01, 統制群:t(179) = -2.88, p < .01)。
介入前後の変化の検討
介入群:レジリエンスおよび自己効力感についてはHSC低群・高群ともに介入前後で有意な得点変化は見られなかったものの,自尊感情については交互作用が有意であり(F(1, 97) = 4.22, p < .05),HSCの高い生徒のみ介入後に自尊感情が上昇していた(Figure)。
統制群:いずれの尺度についても,主効果,交互作用とも有意な結果は示されなかった。
考 察
T1で自尊感情が有意に低いことが示された心理的敏感さの高い生徒の方がレジリエンス教育を通して自尊感情が向上するという結果が得られた。これは,感受性の高い人々が,環境からのネガティブな影響を受けやすいと同時にポジティブな影響も受けやすいという差次感受性(differential susceptibility)の概念を支持する結果であると考えられる。すべての尺度指標について同様の傾向が見られたたわけではないが,本研究の結果は,生徒のもつ気質的な特性である環境感受性の違いによって,心理教育の効果に違いが生じる可能性を示すものであり,今後は生徒の個人特性に合わせた効果的な支援を検討していく必要がある。