日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD64] 高校生は心理学研究におけるデータ収集方法に関してどのような知識を有しているのか?

堀江竜也 (大阪府立寝屋川高等学校)

キーワード:高等学校, 心理学教育, 心理学研究法

問題と目的
 高校生に対する心理学教育の重要性が語られて久しい(日本学術会議,2008)。実際に,全国各地で授業実践が行われている(e.g.道田,2012)。しかしそれらの多くは,大学教員が実施する進路学習という位置づけになっており,単発的なものに留まっている。我が国の心理学の発展及び,一般市民の心理学リテラシーの向上を図るには,高校教育における内容の充実が喫緊の課題であろう。しかしながら,高校教育において,心理学に関する知見は複数の教科に分散されて設定されており,体系的な学びではない。また心理学と深い関わりがあると考えられる「倫理」においても十分な内容が取り上げられているとは言いがたい(高橋・仁平,2010)。また,上述した大学教員の出前授業以外の高校現場での授業実践は乏しく,どのような内容を設定すれば良いか,検討材料も少ない。そのため“同門異室”の心理学入門といった問題が生じており,高校における心理学教育の混乱を招いていると考えられる(仁平・高橋,2011)。特に,方法論に対する実践はほとんど見当たらない。教育現場においても,その重要性はあまり意識されていないのが現状である(楠見,2018)。しかしながら,心理学の科学性は学問としての心理学を形作る重要な要素であり(宮本,2016),方法論に関する学びを抜きにして,高校生に心理学の面白み,本質を伝えたと言えるのだろうか。
 以上のような問題意識のもと,方法論に関する授業充実のための基礎的資料提供を目的として研究を行った。具体的には,高校生がデータの収集方法に関してどのような知識を有するのか検討した。データ収集は,心理学研究の根幹であり,哲学と心理学を分ける大きな要素であると言える(市川,2003)。

方  法
実施日:平成27年7月
参加者:普通科高校に通う高校1年生37名(男子  
 19名,女子18名)
 著者が担当する現代社会の授業において「心理学ってどんな学問?」というタイトルで,心理学研究の方法をテーマとする実践を50分行った。授業の大まかな流れは,生徒に「心理学のイメージ」「人の心について明らかにしたい疑問とは何か」「どのような方法を用いれば,その疑問を調べることができるのか」という3つの質問で構成されたワークシートに取り組んでもらい,その後,グループワークで互いのアイデアを出し合い,意見をまとめ,発表するというものであった。分析の対象としたのは,個人で取り組んだワークシートの回答である。
 なお,「イメージ」に関する質問は生徒の授業に取り組む姿勢や心理学に関する知識,興味,関心の度合いを計る指標として,設定された。

結  果
 「イメージ」と「疑問」についてはほぼ全員が回答していたが「データ収集方法」について回答した者は19名であった。それらの回答を高野・岡(2004)を参考にカテゴリー分けを行った。その結果,「実験的研究」は1名,「観察的研究」は10名「その他」8名となった(Table1)。

考  察
 ほぼ全員が「イメージ」「疑問」について回答しており,心理学に関する知識,興味,関心をある程度有していたと考えられる。また「データ収集方法」についての回答者数が19名であった事から,心理学を体系的に学んでいない高校生であっても幾分かの知識を有しており,方法論の学びを通して心理学を科学的に捉える萌芽を有していると考えられる。しかしながら「観察的研究」に関する回答が多く,「実験的研究」に関する回答が少ない事から,高校における心理学教育において,「実験的研究」に関する内容が,大きな難関になることが予想される。これをいかに工夫していくかが,今後の検討課題である。