[PE40] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(27)
教師と友人関係が小中学生のいじめ加害経験に与える学級・個人レベルの影響
Keywords:いじめ, 教師, 友人関係
教師のリーダーシップは,学級内におけるいじめ加害経験や友人関係の質に影響する。これまでに,教師との対立が児童生徒の攻撃行動を増加させたり (De Laet et al., 2014),友人関係の良さを抑制する一方で友人関係の悪さを促進したりすることが示されている (Hughes & Im, 2016)。学級内における友人関係の質もいじめ加害経験に影響する。たとえば,学級内の社会的ネットワーク構造は問題行動と関連するとの報告がある (De Laet et al., 2014; Shin & Ryan, 2017)。これらの知見から,教師のリーダーシップは友人関係の質を介していじめ加害経験を抑制する,という一連のプロセスが予測できる。
学級における児童生徒の行動や心理プロセスを理解するには,個人レベルだけでなく,学級レベルの要因にも注目する必要がある (Marsh et al., 2012)。実際,いじめ加害経験は,学級レベルと個人レベル両方の要因により説明されていた (Gini et al., 2015; Pozzoli et al., 2012)。本研究では,小中学生を対象とし,教師のリーダーシップはいじめ加害経験に対して直接的に影響するのか,それとも友人関係の質を通じて間接的に影響するかについて,学級レベルと個人レベルを分けて検討する。
方 法
参加者 A市のすべての小中学校 (12校) とB市の一部の小中学校 (7校) に通う児童生徒に対して質問紙調査を実施した。小学生は5・6年生を対象とし,中学生は1~3年生を対象とした。児童生徒95学級2,573名 (女子1,323名, 男子1,250名) を分析に用いた。
測定項目 (1) 教師のリーダーシップ:P機能 (9項目; α = .87; ICC = .18, p < .001) とM機能 (10項目; α = .89; ICC = .26, p < .001) からなる尺度 (三隅・矢守, 1989; 4件法) を使用した。(2) 友人関係の良さ・悪さ:友人集団尺度 (Laird et al., 1999; 7項目3件法; α = .82; ICC = .03, p = .009) と友人関係尺度 (Bukowksi et al., 1994; 4項目3件法; α = .75; ICC = .05, p = .001) を日本語訳して用いた。(3) いじめ加害経験:岡安・高山 (2000; 3項目4件法; α = .63; ICC = .06, p < .001) による尺度を使用した。
分析計画 マルチレベル構造方程式モデリング (MSEM) による媒介分析を行った (Preacher et al., 2010)。推定方法はロバスト最尤法を用いた。教師のリーダーシップは相関の強さを踏まえてP機能とM機能からなる潜在変数とし,因子負荷量についてはBetweenとWithinの間で等値制約を仮定した (Lüdtke et al., 2011)。
結果と考察
学級レベルと個人レベルで,教師のリーダーシップが友人関係の質を介していじめ加害経験に与える影響を検討するため,MSEMによる媒介分析を行った。モデルのあてはまりは良好であった (χ2 (df = 7, N = 2,573) = 47.72, CFI = .978 RMSEA = .048, SRMR (Between) = .054, SRMR (Within) = .032; Figure 1)。
Betweenでは,教師のリーダーシップはいじめ加害経験に負の影響を与えていた (b = −0.225, 95% CI [−0.409, −0.041], p = .017)。教師のリーダーシップは友人関係の良さに正の影響を与えていたが (b = 0.130, 95% CI [0.032, 0.228], p = .009),その友人関係の良さはいじめ加害経験に影響しておらず (b = −0.466, 95% CI [−1.333, 0.401], p = .292),教師のリーダーシップは友人関係の良さを媒介していじめ加害経験に影響していなかった (b = −0.060, 95% CI [−0.174, 0.053])。また,教師のリーダーシップは友人関係の悪さに影響していなかったが (b = 0.061, 95% CI [−0.060, 0.183], p = .323),その友人関係の悪さはいじめ加害経験に負の影響を与えており (b = 0.780, 95% CI [0.173, 1.386], p = .012),教師のリーダーシップは友人関係の悪さを媒介していじめ加害経験に影響していなかった (b = 0.048, 95% CI [−0.054, 0.150])。
Withinでは,教師のリーダーシップはいじめ加害経験に負の影響を与えていた (b = −0.229, 95% CI [−0.297, −0.160], p < .001)。教師のリーダーシップは友人関係の良さに正の影響を与え (b = 0.248, 95% CI [0.191, 0.305], p < .001),その友人関係の良さはいじめ加害経験に正の影響を与えており (b = 0.129, 95% CI [0.070, 0.187], p < .001),教師のリーダーシップは友人関係の良さを媒介していじめ加害経験をうながしていた (b = 0.032, 95% CI [0.016, 0.048])。また,教師のリーダーシップは友人関係の悪さに負の影響を与え (b = −0.091, 95% CI [−0.132, −0.050], p < .001),その友人関係の悪さはいじめ加害経験に正の影響を与えており (b = 0.316, 95% CI [0.247, 0.385], p < .001),教師のリーダーシップは友人関係の悪さを媒介していじめ加害経験を抑制していた (b = −0.029, 95% CI [−0.043, −0.015])。
学級レベルでは,教師のリーダーシップは直接的にいじめ加害経験に影響し,個人レベルでは,教師のリーダーシップは,直接的,および間接的にいじめ加害経験に影響していた。本結果は,教師や友人関係によるいじめの生起メカニズムが学級全体と個々人の間で異なることを示唆している。今後は,学級レベルの変数間の関連を説明する他の媒介変数を探る必要があるだろう。
学級における児童生徒の行動や心理プロセスを理解するには,個人レベルだけでなく,学級レベルの要因にも注目する必要がある (Marsh et al., 2012)。実際,いじめ加害経験は,学級レベルと個人レベル両方の要因により説明されていた (Gini et al., 2015; Pozzoli et al., 2012)。本研究では,小中学生を対象とし,教師のリーダーシップはいじめ加害経験に対して直接的に影響するのか,それとも友人関係の質を通じて間接的に影響するかについて,学級レベルと個人レベルを分けて検討する。
方 法
参加者 A市のすべての小中学校 (12校) とB市の一部の小中学校 (7校) に通う児童生徒に対して質問紙調査を実施した。小学生は5・6年生を対象とし,中学生は1~3年生を対象とした。児童生徒95学級2,573名 (女子1,323名, 男子1,250名) を分析に用いた。
測定項目 (1) 教師のリーダーシップ:P機能 (9項目; α = .87; ICC = .18, p < .001) とM機能 (10項目; α = .89; ICC = .26, p < .001) からなる尺度 (三隅・矢守, 1989; 4件法) を使用した。(2) 友人関係の良さ・悪さ:友人集団尺度 (Laird et al., 1999; 7項目3件法; α = .82; ICC = .03, p = .009) と友人関係尺度 (Bukowksi et al., 1994; 4項目3件法; α = .75; ICC = .05, p = .001) を日本語訳して用いた。(3) いじめ加害経験:岡安・高山 (2000; 3項目4件法; α = .63; ICC = .06, p < .001) による尺度を使用した。
分析計画 マルチレベル構造方程式モデリング (MSEM) による媒介分析を行った (Preacher et al., 2010)。推定方法はロバスト最尤法を用いた。教師のリーダーシップは相関の強さを踏まえてP機能とM機能からなる潜在変数とし,因子負荷量についてはBetweenとWithinの間で等値制約を仮定した (Lüdtke et al., 2011)。
結果と考察
学級レベルと個人レベルで,教師のリーダーシップが友人関係の質を介していじめ加害経験に与える影響を検討するため,MSEMによる媒介分析を行った。モデルのあてはまりは良好であった (χ2 (df = 7, N = 2,573) = 47.72, CFI = .978 RMSEA = .048, SRMR (Between) = .054, SRMR (Within) = .032; Figure 1)。
Betweenでは,教師のリーダーシップはいじめ加害経験に負の影響を与えていた (b = −0.225, 95% CI [−0.409, −0.041], p = .017)。教師のリーダーシップは友人関係の良さに正の影響を与えていたが (b = 0.130, 95% CI [0.032, 0.228], p = .009),その友人関係の良さはいじめ加害経験に影響しておらず (b = −0.466, 95% CI [−1.333, 0.401], p = .292),教師のリーダーシップは友人関係の良さを媒介していじめ加害経験に影響していなかった (b = −0.060, 95% CI [−0.174, 0.053])。また,教師のリーダーシップは友人関係の悪さに影響していなかったが (b = 0.061, 95% CI [−0.060, 0.183], p = .323),その友人関係の悪さはいじめ加害経験に負の影響を与えており (b = 0.780, 95% CI [0.173, 1.386], p = .012),教師のリーダーシップは友人関係の悪さを媒介していじめ加害経験に影響していなかった (b = 0.048, 95% CI [−0.054, 0.150])。
Withinでは,教師のリーダーシップはいじめ加害経験に負の影響を与えていた (b = −0.229, 95% CI [−0.297, −0.160], p < .001)。教師のリーダーシップは友人関係の良さに正の影響を与え (b = 0.248, 95% CI [0.191, 0.305], p < .001),その友人関係の良さはいじめ加害経験に正の影響を与えており (b = 0.129, 95% CI [0.070, 0.187], p < .001),教師のリーダーシップは友人関係の良さを媒介していじめ加害経験をうながしていた (b = 0.032, 95% CI [0.016, 0.048])。また,教師のリーダーシップは友人関係の悪さに負の影響を与え (b = −0.091, 95% CI [−0.132, −0.050], p < .001),その友人関係の悪さはいじめ加害経験に正の影響を与えており (b = 0.316, 95% CI [0.247, 0.385], p < .001),教師のリーダーシップは友人関係の悪さを媒介していじめ加害経験を抑制していた (b = −0.029, 95% CI [−0.043, −0.015])。
学級レベルでは,教師のリーダーシップは直接的にいじめ加害経験に影響し,個人レベルでは,教師のリーダーシップは,直接的,および間接的にいじめ加害経験に影響していた。本結果は,教師や友人関係によるいじめの生起メカニズムが学級全体と個々人の間で異なることを示唆している。今後は,学級レベルの変数間の関連を説明する他の媒介変数を探る必要があるだろう。