The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 1:30 PM - 3:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE62] 学校予防教育(TOP SELF)授業プログラムの実践

徳島県藍住町の事例

影山明日香 (徳島県藍住町立藍住北小学校)

Keywords:学校予防教育, 自己信頼心(自信)の育成, 向社会性の育成

問題と目的
 徳島県北部に位置する藍住町は,急速な発展が進み,核家族が増加している。不登校や学級崩壊など生徒指導上・学級経営上の問題を抱える児童・生徒も多く,鋭い人権感覚と心のケアが必要となっている。本町では,鳴門教育大学予防教育科学センターと連携し,2012年度から段階的にTOP SELF(Trial Of Prevention School Education for Life and Friendship)授業プログラムを実施している。町ぐるみでTOP SELF授業プログラムを導入し学校予防教育を展開しているのは,全国でも数少ない事例と言える。
 TOP SELFとは「『いのちと友情』の学校予防教育」の略称である。全ての児童・生徒を対象として心身の健康・適応上の問題が顕在化する前の予防的な対処を行うものであり,教育に科学的根拠を持たせた教育的介入プログラムである(鳴門教育大学予防教育科学センター編, 2012)。日本だけでなくアメリカやオーストラリアをはじめ,学校予防教育に関する先行研究の事例は多い(山崎ら, 2013)。
 本町が抱える不登校や学級崩壊など生徒指導上・学級経営上の諸問題を未然に防止する目的から,TOP SELFにおける自律性と対人関係性の育成をめざしたベース総合教育に焦点を当て,授業プログラムを導入し実施してきた。小学校と中学校での授業実践が児童・生徒にどのような感情を喚起させ,実生活に結びつくような気づきをもたらしたのかを客観的に検証する余地があると考えた。
 そこで本研究では,小学校と中学校での実践,そして児童・生徒の授業への印象についての検証をした。

方  法
 徳島県藍住町立藍住北小学校の第3学年から第6学年,藍住町内の中学校2校の第1学年を対象に,授業と評価を実施した。小学校第3学年(82名)・4学年(94名)は「自己信頼心(自信)の育成」,第5学年(93名)では「向社会性の育成」,第6学年(82名)では「感情の理解と対処」の授業を各学年とも全4時間実施した。中学校2校では,第1学年(318名)において「向社会性の育成」の授業を全4時間実施した。また,教育後には,授業についての印象評価(鳴門教育大学予防教育科学センター)を行った。

結果と考察
 小学校では「授業が楽しかったですか」「授業の内容は理解できましたか」の2項目について,中学校では「学校生活を送る上で役に立ちますか」「人の立場に立って人の気持ちを感じ,人を助けたり手伝ったりすることができると思いますか」という2項目を付け加えた4項目について,自記式質問紙である印象評価を実施した。
 印象評価の結果,小学校ではいずれの学年においても「授業が楽しかった」と答えた児童が8割にのぼった。「内容が理解できた」と答えた児童も8割以上であった。また,中学校では「授業が楽しかった」「内容が理解できた」と答えた生徒は8割であった。「学校生活を送る上で役に立つ」「人の立場に立って人の気持ちを感じ,人を助けたり手伝ったりすることができると思う」と答えた生徒は7割であった。児童・生徒の感想の中にも,授業に関心を示すものや自分や友達の良さに気づけたというものが多々見られた。学年が上がるにつれ,実生活の中で行動することの大切さや難しさについての感想があった。
 全国学習状況調査の児童・生徒アンケート結果によると,本町がTOP SELF授業プログラムを導入して以来,自己肯定感や規範意識が向上している(藍住町教育委員会, 2016)。この結果は,少なからず学校予防教育の成果であることを示している。一方,2018年度からは新学習指導要領導入による授業時数の増加や教員の負担減,専門的知識を持つ教員がいないことなどを理由に,中学校と小学校2校での実施を取り止めた。教育長の交代という教育行政面での影響も大きい。こうした現状の中で,人が変わっても学校予防教育が続くよう各校の実態に応じた授業の実施が求められている。具体的には,各教科等の授業時数や教育課程と関連させた年間計画を作成する。そして学校予防教育への教職員の理解と連携を図り,各クラスの中でも実生活に活かす取り組みを継続する。さらに学校予防教育を行う授業者のスキルアップとともに教師と子どもとの信頼関係の構築が必要となる。やがて教師との信頼関係から,子ども同士のかかわりによって子どもと子どもとの間に信頼関係が生まれると考えられる。子どもたちにとって教室や学校が安心できる「居場所」になることを願う。このTOP SELF授業プログラムの実施が「居場所」づくりに貢献する一つの手法であることは確かなことである。