[PE64] 傍観行動の低減からいじめ防止を目指す心理教育的プログラムの開発と効果検証
Keywords:いじめ, 心理教育, ロールプレイ
目 的
傍観はいじめを深刻化させる要因とされるが,中学生にはいじめを見ても何もしない傍観者が多いことが報告されている(森田,2001)。いじめの制止のためには,多くの生徒がいじめ場面を見かけた際に傍観行動をとらないようにすることも重要である。また近年ではいじめへの介入は,ゼロ・トレランスのような発生後の対処からSST等を用いた早期介入の方針に変化している。
本研究においては中学生を対象にいじめの防止・減少を目指した心理教育的プログラムを開発し,その効果を検討する。プログラムはロールプレイを用いたいじめへの介入スキルの学習を主とし,参加生徒が起こっているいじめに対してなんらかの介入行動がとれるようになることを目指す。効果の検討においては,異なる参加生徒によって得られたデータを分析し,プログラム自体が持つ効果を検証することを目的とする。
方 法
プログラムはA中学校の2017年度及び2018年度の1年生を対象に,学級単位で各1回50分の学級活動等を用いて行われた。プログラムは臨床心理学の専門家がサポートし,教員が実施した。実施前後の査定は,プログラム実施前日と当日の帰りのホームルームで行った。査定は全参加者344名に対して行い,記入もれのない311名を分析対象とした。質問紙は,いじめの停止行動(観衆・傍観・同調の抑制,支持,仲裁,報告)に対する自己効力感・いじめ加害傾向(中村・越川,2013)等から構成された。
結果と考察
各平均値を用いて実施前後で対応のあるt検定を行ったところ,両年度で有意な差が認められた(加害傾向においては制裁型のみ)。プログラムの効果について,年度による2群間に差があるかを調べるために各尺度得点を用いて実施前の得点を共変量,実施後の得点を従属変数として共分散分析を行ったところ,「同調行動」において群の主効果が有意であった(F(1,308)=5.774,p<.05)。
いじめ停止行動に対する自己効力感の増加や加害傾向の減少等,本プログラムは,いじめの防止にある程度の効果をもつ可能性が示された。実施者がプログラムの目的や意図を理解し,ロールプレイでのターゲット行動等が同様のものであれば,効果は得られる可能性が高いと考えられる。しかし共分散分析の結果,同調行動の抑制においては年度②のほうが事後に増加した可能性が示された。いじめが深刻化していく背景には仲間との同調があることも指摘されている。また中学生は同調傾向が高まる時期でもあり,各クラスや生徒の状況を踏まえた上での検討も必要であろう。
引用文献
森田洋司(2001).いじめ被害の実態 森田洋司(監修) いじめの国際比較研究 日本・イギリス・オランダ・ノルウェーの調査分析 金子書房 pp.31-54.
付 記
JSPS科研費 JP17K04365
傍観はいじめを深刻化させる要因とされるが,中学生にはいじめを見ても何もしない傍観者が多いことが報告されている(森田,2001)。いじめの制止のためには,多くの生徒がいじめ場面を見かけた際に傍観行動をとらないようにすることも重要である。また近年ではいじめへの介入は,ゼロ・トレランスのような発生後の対処からSST等を用いた早期介入の方針に変化している。
本研究においては中学生を対象にいじめの防止・減少を目指した心理教育的プログラムを開発し,その効果を検討する。プログラムはロールプレイを用いたいじめへの介入スキルの学習を主とし,参加生徒が起こっているいじめに対してなんらかの介入行動がとれるようになることを目指す。効果の検討においては,異なる参加生徒によって得られたデータを分析し,プログラム自体が持つ効果を検証することを目的とする。
方 法
プログラムはA中学校の2017年度及び2018年度の1年生を対象に,学級単位で各1回50分の学級活動等を用いて行われた。プログラムは臨床心理学の専門家がサポートし,教員が実施した。実施前後の査定は,プログラム実施前日と当日の帰りのホームルームで行った。査定は全参加者344名に対して行い,記入もれのない311名を分析対象とした。質問紙は,いじめの停止行動(観衆・傍観・同調の抑制,支持,仲裁,報告)に対する自己効力感・いじめ加害傾向(中村・越川,2013)等から構成された。
結果と考察
各平均値を用いて実施前後で対応のあるt検定を行ったところ,両年度で有意な差が認められた(加害傾向においては制裁型のみ)。プログラムの効果について,年度による2群間に差があるかを調べるために各尺度得点を用いて実施前の得点を共変量,実施後の得点を従属変数として共分散分析を行ったところ,「同調行動」において群の主効果が有意であった(F(1,308)=5.774,p<.05)。
いじめ停止行動に対する自己効力感の増加や加害傾向の減少等,本プログラムは,いじめの防止にある程度の効果をもつ可能性が示された。実施者がプログラムの目的や意図を理解し,ロールプレイでのターゲット行動等が同様のものであれば,効果は得られる可能性が高いと考えられる。しかし共分散分析の結果,同調行動の抑制においては年度②のほうが事後に増加した可能性が示された。いじめが深刻化していく背景には仲間との同調があることも指摘されている。また中学生は同調傾向が高まる時期でもあり,各クラスや生徒の状況を踏まえた上での検討も必要であろう。
引用文献
森田洋司(2001).いじめ被害の実態 森田洋司(監修) いじめの国際比較研究 日本・イギリス・オランダ・ノルウェーの調査分析 金子書房 pp.31-54.
付 記
JSPS科研費 JP17K04365