[PE69] 認知能力と習得能力の因果的関係性について
Keywords:認知能力検査, 認知能力, 習得能力
問題と目的
CHC(Cattell-Horn-Carroll)モデルは認知能力の階層的因子分析モデルであり,最上層に一般能力,中間層に広範能力,最下層に限定能力を置く。広範能力には流動性推理,長期記憶と検索などの認知能力,また,読み書き,数量的知識などの習得能力がある。日本版KABC-II(Kaufman & Kaufman, 2013)の結果はCHCモデルに準拠して解釈することができるが,尺度で測定する認知能力と習得能力は必ずしも同一因子とは言い切れない。そこで,本稿は認知能力と習得能力の因果的関係性を検討し,学習支援のための参考資料とする。
方 法
(1)データ Kaufman & Kaufman(2013)の7歳から18歳までとした(N=1,837)。
(2)尺度 継次(短期記憶:広範能力名,以下同様),同時(視覚処理),計画(流動性推理),学習(長期記憶と検索),語彙(結晶性能力),読み,書き,算数(量的知識)の8尺度を用いた。
(3)分析モデル 次の(M1)から(M4)のモデルを基本とし,パス係数,誤差の分散共分散に等値制約を課した。また,全年齢群をプールした分散共分散へ基本モデルを当てはめた。計算にはLISREL 8.54を用いた。(M1)継次,同時,計画,学習を説明変数,語彙,読み,書き,算数を目的変数とする多母集団多変量回帰分析;(M2)継次,同時,計画,学習から語彙を予測し,この5変数から読み,書き,算数を予測する多母集団パス解析;(M3)小野(2013)を基本とする継次,同時,計画から学習を予測し,この4変数から語彙,読み,書き,算数を予測する多母集団パス解析;(M4)小野(2013)を基本とする継次,同時,学習から語彙と計画を予測し,この5変数から読み,書き,算数を予測する多母集団パス解析
結果と考察
(M1)全年齢群の間で同一のパス係数と誤差分散を仮定することができた(RMSEA=.040)。R2乗は語彙:.38,読み:.34,書き:.22,算数:.36であった。書きのR2乗が他の尺度よりもやや低い。
(M2)全年齢群の間でパス係数は等値と言えたが,誤差の分散共分散が等値とは言えなかった(RMSEA=0.037)。誘導形式のR2乗の平均値(範囲)は語彙:.39(.35~.45),読み:.35(.24~.39),書き:.22(.17~.24),算数:.36(.32~.39)であった。学習はM1と同様に,書きと算数に対するパス係数が語彙と読みよりもやや小さい。
(M3)誤差共分散を除く等値制約を課すモデルが採択された(RMSEA=.040)。総合効果はすべて.10以上であるが,同時の読みと書きに対する総合効果が他よりもやや低い。また,他のモデルと同様,学習は書きと算数に対する直接効果が低い。
(M4)誤差の分散共分散を除く等値制約を課すモデルが採択された(RMSEA=.037)。R2乗の平均値(範囲)は計画:.35(.31~.40),語彙:.34(.31~.41),読み:.30(.21~.34),書き:.20(.16~.22),算数:.32(.29~.35)であった。学習は読み,書き,算数に対する直接効果,書きと算数に対する総合効果が低い。
プールした分散共分散行列を(M3)へ当てはめた結果をTable 1とTable 2に示す。
全モデルにおいて学習の書きと算数に対する効果は小さいが,継次と計画は習得尺度に対しての効果はやや大きい。継次,計画,さらに同時の能力を活用する支援方法の有効性が示唆されよう。
引用文献
Kaufman, A. S., & Kaufman, N. L. (2013). 日本版KABC-II マニュアル 丸善出版
小野純平 (2013). CHC理論の登場による知能検査の新たな時代 K-ABCアセスメント研究,15,91-96.
CHC(Cattell-Horn-Carroll)モデルは認知能力の階層的因子分析モデルであり,最上層に一般能力,中間層に広範能力,最下層に限定能力を置く。広範能力には流動性推理,長期記憶と検索などの認知能力,また,読み書き,数量的知識などの習得能力がある。日本版KABC-II(Kaufman & Kaufman, 2013)の結果はCHCモデルに準拠して解釈することができるが,尺度で測定する認知能力と習得能力は必ずしも同一因子とは言い切れない。そこで,本稿は認知能力と習得能力の因果的関係性を検討し,学習支援のための参考資料とする。
方 法
(1)データ Kaufman & Kaufman(2013)の7歳から18歳までとした(N=1,837)。
(2)尺度 継次(短期記憶:広範能力名,以下同様),同時(視覚処理),計画(流動性推理),学習(長期記憶と検索),語彙(結晶性能力),読み,書き,算数(量的知識)の8尺度を用いた。
(3)分析モデル 次の(M1)から(M4)のモデルを基本とし,パス係数,誤差の分散共分散に等値制約を課した。また,全年齢群をプールした分散共分散へ基本モデルを当てはめた。計算にはLISREL 8.54を用いた。(M1)継次,同時,計画,学習を説明変数,語彙,読み,書き,算数を目的変数とする多母集団多変量回帰分析;(M2)継次,同時,計画,学習から語彙を予測し,この5変数から読み,書き,算数を予測する多母集団パス解析;(M3)小野(2013)を基本とする継次,同時,計画から学習を予測し,この4変数から語彙,読み,書き,算数を予測する多母集団パス解析;(M4)小野(2013)を基本とする継次,同時,学習から語彙と計画を予測し,この5変数から読み,書き,算数を予測する多母集団パス解析
結果と考察
(M1)全年齢群の間で同一のパス係数と誤差分散を仮定することができた(RMSEA=.040)。R2乗は語彙:.38,読み:.34,書き:.22,算数:.36であった。書きのR2乗が他の尺度よりもやや低い。
(M2)全年齢群の間でパス係数は等値と言えたが,誤差の分散共分散が等値とは言えなかった(RMSEA=0.037)。誘導形式のR2乗の平均値(範囲)は語彙:.39(.35~.45),読み:.35(.24~.39),書き:.22(.17~.24),算数:.36(.32~.39)であった。学習はM1と同様に,書きと算数に対するパス係数が語彙と読みよりもやや小さい。
(M3)誤差共分散を除く等値制約を課すモデルが採択された(RMSEA=.040)。総合効果はすべて.10以上であるが,同時の読みと書きに対する総合効果が他よりもやや低い。また,他のモデルと同様,学習は書きと算数に対する直接効果が低い。
(M4)誤差の分散共分散を除く等値制約を課すモデルが採択された(RMSEA=.037)。R2乗の平均値(範囲)は計画:.35(.31~.40),語彙:.34(.31~.41),読み:.30(.21~.34),書き:.20(.16~.22),算数:.32(.29~.35)であった。学習は読み,書き,算数に対する直接効果,書きと算数に対する総合効果が低い。
プールした分散共分散行列を(M3)へ当てはめた結果をTable 1とTable 2に示す。
全モデルにおいて学習の書きと算数に対する効果は小さいが,継次と計画は習得尺度に対しての効果はやや大きい。継次,計画,さらに同時の能力を活用する支援方法の有効性が示唆されよう。
引用文献
Kaufman, A. S., & Kaufman, N. L. (2013). 日本版KABC-II マニュアル 丸善出版
小野純平 (2013). CHC理論の登場による知能検査の新たな時代 K-ABCアセスメント研究,15,91-96.