[PF09] 親の養育スタイルが自己制御志向の発達に与える影響
説得的メッセージにおけるフレーミング選択の役割
キーワード:説得的メッセージ, フレーミング, 制御焦点
背景と目的
幼少期に受けた養育の質はその後の人格形成を左右し,認知スタイルや行動様式に多大な影響を及ぼす。Keller (2008)はBaumrind(1966)の養育スタイルモデルに関する尺度(PBQ)を用いて,自己制御が幼少期における養育者との相互作用の中で発達するという制御焦点理論(Higgins, 1997)の予測を確かめた。その結果,応答的(responsive)な養育を受けた人ほどポジティブな結果の達成を目指す促進焦点傾向を示し,統制的(restrictive)な養育を受けた人ほどネガティブな結果の回避を目指す予防焦点傾向を示すことを明らかにした。また,養育者が子どもの自己制御行動を引き出すための説得的な言葉がけを行う際(e.g.,「薬を飲めば治るよ」「薬を飲まないと治らないよ」),状況の制御焦点の方向に適合したフレーミング方略を選択することが見出されている(Sasaki & Hayashi, 2015)。本研究はこれらの知見を統合し,親の養育スタイルが,親のフレーミング方略の選好を媒介して,子どもの制御焦点傾向に与える影響を検討した。
方 法
調査対象:短期大学生150名(男性15名,女性134名,不明1名)が回答した。平均年齢は19.8歳(範囲18歳―30歳)だった。
測定:3つの調査を3回に分けて実施した。(1)PBQ尺度は,応答的養育13項目,統制的養育9項目,許容的養育8項目から構成された。(2)説得的メッセージのフレーミング方略に関する質問は6項目である。なお,予防焦点を強調した3項目と促進焦点を強調した3項目から構成された(Sasaki & Hayashi, 2015)。各項目の見出しに状況設定(保育園に遅刻しそう)を提示し,ポジティブ方略(急げばまだ間に合う)とネガティブ方略(急がないと間に合わない)のどちらが好ましいかを6件法の双極尺度で測定した。(3)学生の制御焦点傾向の測定には,Higgins版RFQ尺度(促進焦点6項目,予防焦点5項目)を使用した。PBQと説得的メッセージについては,学生が幼少期に親はどうだったか,自分の親ならどちらのメッセージを採用するか,回想・想像して答えた。また,PBQとRFQはいずれも7件法で測定した。
結 果
子どもの自己制御に対する親の養育の影響については,応答的養育が促進焦点を高め(R2=.055,
β=.22, p<.01),統制的養育が予防焦点を抑制する(R2=.091,β=-.31, p<.01)という佐々木・林(2013)の結果が再現された。また,説得的メッセージのフレーミング選択は促進焦点メッセージより予防焦点メッセージでネガティブ方略を採用するというSasaki & Hayashi (2015)の結果が,子どもの視点からの判断においても再現された(t=-12.11, p<.001)。
親の養育スタイルがフレーミング方略の選好を媒介して,子どもの制御焦点傾向に与える効果が分析された。分析の結果,応答的養育スタイルと促進焦点傾向の関連がフレーミング選択の選好によって媒介される傾向が示された(Sobel’Z=1.71, p=.09)。一方,統制的養育スタイルと子供の予防焦点傾向の関係に対する予防焦点メッセージの媒介効果は認められなかった(Sobel’Z =-0.73, p>.1)。
考 察
子どもの制御焦点傾向に対する親の言葉がけのフレーミング効果を見出した本研究結果は,Sasaki & Hayashi (2015)によるメッセージの送り手(親)の視点からの知見を,メッセージの受け手(子ども)側から支持するものとなった。また,促進焦点傾向においてのみ媒介効果が見られたことについては,Manian et al.(2006)の養育と自己制御の媒介モデルにおいても非対称性が認められたことを併せると,促進焦点傾向と予防焦点傾向が異なるメカニズムで発達することを示唆していると言えよう。
幼少期に受けた養育の質はその後の人格形成を左右し,認知スタイルや行動様式に多大な影響を及ぼす。Keller (2008)はBaumrind(1966)の養育スタイルモデルに関する尺度(PBQ)を用いて,自己制御が幼少期における養育者との相互作用の中で発達するという制御焦点理論(Higgins, 1997)の予測を確かめた。その結果,応答的(responsive)な養育を受けた人ほどポジティブな結果の達成を目指す促進焦点傾向を示し,統制的(restrictive)な養育を受けた人ほどネガティブな結果の回避を目指す予防焦点傾向を示すことを明らかにした。また,養育者が子どもの自己制御行動を引き出すための説得的な言葉がけを行う際(e.g.,「薬を飲めば治るよ」「薬を飲まないと治らないよ」),状況の制御焦点の方向に適合したフレーミング方略を選択することが見出されている(Sasaki & Hayashi, 2015)。本研究はこれらの知見を統合し,親の養育スタイルが,親のフレーミング方略の選好を媒介して,子どもの制御焦点傾向に与える影響を検討した。
方 法
調査対象:短期大学生150名(男性15名,女性134名,不明1名)が回答した。平均年齢は19.8歳(範囲18歳―30歳)だった。
測定:3つの調査を3回に分けて実施した。(1)PBQ尺度は,応答的養育13項目,統制的養育9項目,許容的養育8項目から構成された。(2)説得的メッセージのフレーミング方略に関する質問は6項目である。なお,予防焦点を強調した3項目と促進焦点を強調した3項目から構成された(Sasaki & Hayashi, 2015)。各項目の見出しに状況設定(保育園に遅刻しそう)を提示し,ポジティブ方略(急げばまだ間に合う)とネガティブ方略(急がないと間に合わない)のどちらが好ましいかを6件法の双極尺度で測定した。(3)学生の制御焦点傾向の測定には,Higgins版RFQ尺度(促進焦点6項目,予防焦点5項目)を使用した。PBQと説得的メッセージについては,学生が幼少期に親はどうだったか,自分の親ならどちらのメッセージを採用するか,回想・想像して答えた。また,PBQとRFQはいずれも7件法で測定した。
結 果
子どもの自己制御に対する親の養育の影響については,応答的養育が促進焦点を高め(R2=.055,
β=.22, p<.01),統制的養育が予防焦点を抑制する(R2=.091,β=-.31, p<.01)という佐々木・林(2013)の結果が再現された。また,説得的メッセージのフレーミング選択は促進焦点メッセージより予防焦点メッセージでネガティブ方略を採用するというSasaki & Hayashi (2015)の結果が,子どもの視点からの判断においても再現された(t=-12.11, p<.001)。
親の養育スタイルがフレーミング方略の選好を媒介して,子どもの制御焦点傾向に与える効果が分析された。分析の結果,応答的養育スタイルと促進焦点傾向の関連がフレーミング選択の選好によって媒介される傾向が示された(Sobel’Z=1.71, p=.09)。一方,統制的養育スタイルと子供の予防焦点傾向の関係に対する予防焦点メッセージの媒介効果は認められなかった(Sobel’Z =-0.73, p>.1)。
考 察
子どもの制御焦点傾向に対する親の言葉がけのフレーミング効果を見出した本研究結果は,Sasaki & Hayashi (2015)によるメッセージの送り手(親)の視点からの知見を,メッセージの受け手(子ども)側から支持するものとなった。また,促進焦点傾向においてのみ媒介効果が見られたことについては,Manian et al.(2006)の養育と自己制御の媒介モデルにおいても非対称性が認められたことを併せると,促進焦点傾向と予防焦点傾向が異なるメカニズムで発達することを示唆していると言えよう。