日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-71)

2018年9月16日(日) 16:00 〜 18:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号16:00~17:00 偶数番号17:00~18:00

[PF10] 東アジアと欧州の教科書にみる親子間葛藤2

日本・中国・台湾・韓国・ドイツ・フランス・イタリアの親子間葛藤の共通点と相違点

塘利枝子 (同志社女子大学)

キーワード:文化比較, 親子, 葛藤処理

目  的
 教科書は各国・社会を担う次世代の健全な発達と学習の向上を目指し,各国・社会の教育関係者により作成される。したがって教科書には,各国・社会の大人たちが子どもに期待する理想像が,反映されていると考えられる。同時に,教科書という特性を考えると,次世代の価値観を創る道具にもなる。本発表では日本・韓国・中国・台湾という東アジアの4ヶ国・地域と,ドイツ・フランス・イタリアというEU3ヶ国の小学校国語教科書の作品に描かれた親子の葛藤処理方略に注目して比較分析を行った。
 本研究で取り上げる親子間の「葛藤」とは,「親子それぞれが望ましい状態を続けようとしたり行動したりする際に,それぞれの思いや行動が一致せずに親子間でいざこざが生じたり,そのどちらかが他方の行動や状態に心理的な不満やわだかまりを持っていて,相手のことを受け入れられずにいる状態」と定義した。
 通常,欧米諸国では相手と異なっていても自分の考えを伝えることを重視する。一方,日本ではコミュニケーション能力の重要性が教育現場で言われているものの,他者との直接的な対決を避け,できるだけ円満に解決する傾向がある。このような傾向は教科書に描かれた親子間葛藤にどのように反映され,次世代に伝えられているのだろうか。小学校の国語教科書に描かれた東アジア4ヶ国・地域とEU3ヶ国の親子間葛藤の内容と解決について比較分析すると共に,それらの結果を子ども観や対人関係と関連づけて考察する。

方  法
 日本・韓国・中国・台湾・ドイツ・フランス・イタリアで,2010年刊行の小学校1~3年生用の検定,国定教科書,売上率の高い教科書すべてを分析材料とした。教科書の中でも,前述した親子間葛藤の定義にもとづき,一定の基準に沿って親子間の葛藤場面が記述されている作品のみを分析対象として選定した。その結果,対象となった作品数は日本12作品,韓国3作品,中国6作品,台湾2作品,ドイツ32作品,フランス39作品,イタリア53作品であった。本発表では親子間葛藤の中でも,葛藤起因内容と葛藤解決方法・内容に着目した。

結  果
 第1に,葛藤内容については,日本とフランスでは親子ともに非意図的な葛藤が多く,ドイツでは意図的な葛藤が多かった。東アジア内やEU諸国内であっても葛藤内容は異なる傾向が見られた。
 第2に,葛藤解決については直接的な対決を経て解決をする傾向はEU3ヶ国に共通して多かったが,中国や韓国でも見られた。一方,日本や台湾は直接的な対決をせずに,他者が介入したり当事者が自分の考えを変えることで解決する傾向があった。葛藤解決の際に直接対決をどの程度肯定的に見ているかが文化によって異なると考えられる。
 第3に,最終的に親子どちらの主張が通るかについては,日本では他者の介入によって特に子ども自身が変化する傾向が見られた。韓国では親の主張が通り,他国では子どもの主張が通る傾向が見られた。但し,EU3ヶ国では子どもの主張が社会的に正しくなくても通るが,中国と台湾では社会的に正しいとされている主張であった。EU3ヶ国では社会的な正しさというよりは子ども自身の個が優先され,中国と台湾では社会的な正しさが優先され,日本では周囲の人々のことを考えて自分を変えていくことが重視されると推測される。
 以上の結果から親子間葛藤処理については国家間の違いのみならず,他者との直接対立をどの程度良しとするか,子どもを社会の中でどう位置づけているかによって異なると考えられる。今後は,年代的な変化をも併せてより詳細な分析を行う。