[PF16] テスト場面で子どもたちに求められる「書き」「計算」能力についての調査1
漢字・計算のエラーはどのように評価されるか
キーワード:インクルーシブ教育, テスト, リテラシー
問題と目的
読み書きや計算に特異的に困難をもつ学習障害児・者は,一般的な筆記試験では本来の能力を発揮することができず,無力感に陥ることが多い。口述では正確に答えられるのに漢字の書き間違いをしたり,立式はできるのに計算ミスをしたりすることによって,筆記した解答だけでは誤答と判断されてしまう。本研究では,考え方は正しいが漢字や計算のエラーを含む解答に対して教員はどのように評価するのかを調査し,学習成果を評価するのに妥当なテストの在り方について考察する。
方 法
調査対象者 埼玉県内の小学校・高校教員609名(小学国語48,小学算数95,高校国語139,高校数学117,高校社会101,高校理科109)
実施時期 2018年1月に各学校に質問紙を郵送で配布し,2018年2月に郵送で回収した。
調査内容 これまでの観察に基づき,学習障害をもつ児童・生徒の記述を模倣して,国語,算数/数学,社会,理科のテスト答案を作成した。対象者には,Figure 1のような漢字のエラーを含む解答(国語,社会)やFigure 2のような正しく立式しているが計算のエラーを含む解答(算数,理科)について,○,△,×で評価するように求めた。加えて,国語,社会,理科では漢字を含まずにすべてひらがなで記述している解答,算数では立式をせずに正答のみを記述している解答についても同様に評価を求めた。
結果と考察
それぞれの解答に対する教員の評価を,教科と校種別に分類した。記述されている内容は正しいが漢字のエラーを含む解答に対する評価の人数比をFigure 3に示す。これらの値についてカイ二乗検定をしたところ有意差が検出された(χ2(4)=53.91, p<.01)。残差分析の結果,高校国語の△と×,高校社会の○の数が多く(p<.01),小学国語と高校国語の○,高校社会の△と×が少ないことが示された(p<.05)。国語科では内容は正しくても漢字の書き間違いがあると減点される傾向にあるが,社会科では漢字のエラーには比較的寛容であることが考えられる。△や×にした理由については「漢字を間違えていることに気づいてほしいから」という意見が多かった。ただし,社会科では減点せずに赤線等で気づきを促せばよいという意見がみられた。漢字のエラーが減点対象になる一方で,すべてひらがなで記述している解答に対しては小学国語で86.7%,高校国語で66.2%,高校社会で73.7%,高校理科93.5%と高い割合で正答と評価された。テストの採点に対するこのような教員の姿勢は,児童・生徒が漢字を用いて解答する動機づけを下げる可能性がある。
正しく立式できているが計算のエラーを含む解答に対する評価の人数比をFigure 4に示す。これらの値についてカイ二乗検定をしたところ有意差が検出された(χ2(4)=26.55, p<.01)。残差分析の結果,小学算数の×,高校理科の△の数が多く(p<.01),小学算数の△,高校数学と高校理科の×が少ないことが示された(p<.05)。高校数学,理科よりも,小学算数のほうが,正しく立式できているかにかかわらず最終的な答えが間違えていると誤答とされることが明らかとなった。立式をせずに正答のみを記述している解答に対して小学算数は89.5%,高校数学では94.2%が正答と評価した結果も含めて,文章題解決の過程よりも最終的な解答の正誤が重視されていることが考えられる。
漢字を正しく書く能力,計算を正確に実行する能力はワープロや電卓で代替可能である。テクノロジーが発達している現代において,児童・生徒に習得させたい能力と,それらの評価方法についての新しい枠組みが求められる。
読み書きや計算に特異的に困難をもつ学習障害児・者は,一般的な筆記試験では本来の能力を発揮することができず,無力感に陥ることが多い。口述では正確に答えられるのに漢字の書き間違いをしたり,立式はできるのに計算ミスをしたりすることによって,筆記した解答だけでは誤答と判断されてしまう。本研究では,考え方は正しいが漢字や計算のエラーを含む解答に対して教員はどのように評価するのかを調査し,学習成果を評価するのに妥当なテストの在り方について考察する。
方 法
調査対象者 埼玉県内の小学校・高校教員609名(小学国語48,小学算数95,高校国語139,高校数学117,高校社会101,高校理科109)
実施時期 2018年1月に各学校に質問紙を郵送で配布し,2018年2月に郵送で回収した。
調査内容 これまでの観察に基づき,学習障害をもつ児童・生徒の記述を模倣して,国語,算数/数学,社会,理科のテスト答案を作成した。対象者には,Figure 1のような漢字のエラーを含む解答(国語,社会)やFigure 2のような正しく立式しているが計算のエラーを含む解答(算数,理科)について,○,△,×で評価するように求めた。加えて,国語,社会,理科では漢字を含まずにすべてひらがなで記述している解答,算数では立式をせずに正答のみを記述している解答についても同様に評価を求めた。
結果と考察
それぞれの解答に対する教員の評価を,教科と校種別に分類した。記述されている内容は正しいが漢字のエラーを含む解答に対する評価の人数比をFigure 3に示す。これらの値についてカイ二乗検定をしたところ有意差が検出された(χ2(4)=53.91, p<.01)。残差分析の結果,高校国語の△と×,高校社会の○の数が多く(p<.01),小学国語と高校国語の○,高校社会の△と×が少ないことが示された(p<.05)。国語科では内容は正しくても漢字の書き間違いがあると減点される傾向にあるが,社会科では漢字のエラーには比較的寛容であることが考えられる。△や×にした理由については「漢字を間違えていることに気づいてほしいから」という意見が多かった。ただし,社会科では減点せずに赤線等で気づきを促せばよいという意見がみられた。漢字のエラーが減点対象になる一方で,すべてひらがなで記述している解答に対しては小学国語で86.7%,高校国語で66.2%,高校社会で73.7%,高校理科93.5%と高い割合で正答と評価された。テストの採点に対するこのような教員の姿勢は,児童・生徒が漢字を用いて解答する動機づけを下げる可能性がある。
正しく立式できているが計算のエラーを含む解答に対する評価の人数比をFigure 4に示す。これらの値についてカイ二乗検定をしたところ有意差が検出された(χ2(4)=26.55, p<.01)。残差分析の結果,小学算数の×,高校理科の△の数が多く(p<.01),小学算数の△,高校数学と高校理科の×が少ないことが示された(p<.05)。高校数学,理科よりも,小学算数のほうが,正しく立式できているかにかかわらず最終的な答えが間違えていると誤答とされることが明らかとなった。立式をせずに正答のみを記述している解答に対して小学算数は89.5%,高校数学では94.2%が正答と評価した結果も含めて,文章題解決の過程よりも最終的な解答の正誤が重視されていることが考えられる。
漢字を正しく書く能力,計算を正確に実行する能力はワープロや電卓で代替可能である。テクノロジーが発達している現代において,児童・生徒に習得させたい能力と,それらの評価方法についての新しい枠組みが求められる。