[PF17] テスト場面で子どもたちに求められる「書き」「計算」能力についての調査2
子どもの困難さと支援方法に対する教員の意識
キーワード:インクルーシブ教育, 学習支援, ICT利用
問題と目的
学習の特異的困難(例えば漢字の書字困難)をICTの利用(例えばワープロによる文字入力)によって補い,学習参加を拡大するアプローチに注目が集まっている。しかし,通常の学級におけるICT利用は進んでいない現状がある。その原因の一つに教員の特異的学習困難への理解不足がある可能性がある。例えば学習者の困難の原因を個人の努力不足に帰属すれば,教員は子どもに努力をさせる指導に重きを置く。その結果,困難さを別の方法で代替するICT利用への否定的態度につながることが考えられる。
そこで本調査では教員を対象に,特異的書字・計算困難の原因の解釈とICT利用を含む支援方法を尋ね,特異的学習困難に対する教員の意識を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査課題 高橋・関口・平林(2018)の採点用紙とともに特異的学習困難の事例を示した質問紙を送付した。質問紙には一定の反復練習を行ってもなお,漢字・計算が定着しない模擬事例を示し(文系科目(国語・社会)の教員に対しては,漢字が書けない事例を提示,理系科目(算数/数学・理科)の教員に対しては,計算ができない事例を提示),その困難の原因を6つの選択肢(○1本人の練習が足りない,○2記憶することが苦手,○3不注意,○4教え方が本人に合っていない,○5不器用,○6その他(自由記述))から選択することを求めた。また,この事例への支援方法としてICT利用(文系科目の教員に対してはワープロの使用,理系科目の教員には計算機の使用)を認めるか否かを3つの場面(宿題,授業中,テスト)で尋ね,認めない場合にはその理由を7つの選択肢(○7入試で認められないから,○8他の子と不平等になるから,○9練習すればできるようになるから,○10専門機関から指示がないから,○11ICT機器が壊れる可能性があるから,○12社会で生きていくには書字/計算が必要だから,○13その他)から選択することを求めた。
調査対象者 埼玉県内の教員674名(小143名・中65名,高466名)を対象とした。担当教科は文系科目319名,理系科目355名であった。
実施時期 高橋ら(2018)と同様である。
結果と考察
選択された困難の原因をA個人の努力(○1)・B個人の特性(○2○3○5)・C教員の教え方(○4)・D障害や病気(○6から抽出),Eその他に分類し,カテゴリごと教員の割合を集計した。結果,Aは9.9%,Bは54.5%,Cは12.5%,Dは18.2%, Eは4.9%であり,困難の要因を個人の特性に帰属させた教員の割合が高かった。次にICTの利用を認めるかについては,ワープロ利用を認めると回答した文系教員は宿題71.3%,授業中47.9%,テスト21.5%であった。計算機使用を認めると回答した理系教員は,宿題49.0%,授業中35.2%,テスト11.9%であった。結果から,ワープロよりも計算機は利用を認める教員の割合が少ないこと,テストでの利用に否定的な態度が見られることが明らかとなった。テストでICT利用を認めない理由は,「他児と不平等になる」が47.1%と最も多く,次いで「入試で認められない」が44.0%であった。教員はテストの際に手段が同じでなければ平等ではないと捉えており,普段の学びと評価を連続的に捉えていない。むしろ「配慮すること」と「公正な評価をすること」を競合するものとして捉えていることが読み取れる。教科で学ぶべき本質的な内容と書きや計算という学習手段とを切り分けて議論を行う必要があるのではないだろうか。
さらに困難の原因を帰属したカテゴリごとにICT利用を認めると答えた教員の割合を求めた。結果をTable1に示す。カイ二乗検定の結果,カテゴリ間に有意な差が認められた(授業中:χ2(3)= 31.198, p<.01,宿題:χ2(3)= 24.207, p<.01,テスト:χ2(3)= 10.339,p<.05)。残差分析から困難の原因を個人の努力に帰属させた教員はICTの利用を認める割合が有意に低かった(p<.05) 。
この結果から,学習困難を改善するためにはより多くの努力が必要と考える教員が現在も多く存在していることがわかる。しかし,特異的学習困難は努力で改善する可能性は低い。したがって,困難なことを反復するのではなく,別の方法で補い学びの本質にアクセスする必要があることを周知しなくてはならない。 今後の教員養成や教員研修カリキュラムへの導入が望まれる。
高橋麻衣子・関口あさか・平林ルミ(2018),テスト場面で子どもたちに求められる「書き」「計算」能力についての調査1-漢字計算のエラーはどのように評価されるか-,日本教育心理学会第60回総会発表論文集,(発表予定)
学習の特異的困難(例えば漢字の書字困難)をICTの利用(例えばワープロによる文字入力)によって補い,学習参加を拡大するアプローチに注目が集まっている。しかし,通常の学級におけるICT利用は進んでいない現状がある。その原因の一つに教員の特異的学習困難への理解不足がある可能性がある。例えば学習者の困難の原因を個人の努力不足に帰属すれば,教員は子どもに努力をさせる指導に重きを置く。その結果,困難さを別の方法で代替するICT利用への否定的態度につながることが考えられる。
そこで本調査では教員を対象に,特異的書字・計算困難の原因の解釈とICT利用を含む支援方法を尋ね,特異的学習困難に対する教員の意識を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査課題 高橋・関口・平林(2018)の採点用紙とともに特異的学習困難の事例を示した質問紙を送付した。質問紙には一定の反復練習を行ってもなお,漢字・計算が定着しない模擬事例を示し(文系科目(国語・社会)の教員に対しては,漢字が書けない事例を提示,理系科目(算数/数学・理科)の教員に対しては,計算ができない事例を提示),その困難の原因を6つの選択肢(○1本人の練習が足りない,○2記憶することが苦手,○3不注意,○4教え方が本人に合っていない,○5不器用,○6その他(自由記述))から選択することを求めた。また,この事例への支援方法としてICT利用(文系科目の教員に対してはワープロの使用,理系科目の教員には計算機の使用)を認めるか否かを3つの場面(宿題,授業中,テスト)で尋ね,認めない場合にはその理由を7つの選択肢(○7入試で認められないから,○8他の子と不平等になるから,○9練習すればできるようになるから,○10専門機関から指示がないから,○11ICT機器が壊れる可能性があるから,○12社会で生きていくには書字/計算が必要だから,○13その他)から選択することを求めた。
調査対象者 埼玉県内の教員674名(小143名・中65名,高466名)を対象とした。担当教科は文系科目319名,理系科目355名であった。
実施時期 高橋ら(2018)と同様である。
結果と考察
選択された困難の原因をA個人の努力(○1)・B個人の特性(○2○3○5)・C教員の教え方(○4)・D障害や病気(○6から抽出),Eその他に分類し,カテゴリごと教員の割合を集計した。結果,Aは9.9%,Bは54.5%,Cは12.5%,Dは18.2%, Eは4.9%であり,困難の要因を個人の特性に帰属させた教員の割合が高かった。次にICTの利用を認めるかについては,ワープロ利用を認めると回答した文系教員は宿題71.3%,授業中47.9%,テスト21.5%であった。計算機使用を認めると回答した理系教員は,宿題49.0%,授業中35.2%,テスト11.9%であった。結果から,ワープロよりも計算機は利用を認める教員の割合が少ないこと,テストでの利用に否定的な態度が見られることが明らかとなった。テストでICT利用を認めない理由は,「他児と不平等になる」が47.1%と最も多く,次いで「入試で認められない」が44.0%であった。教員はテストの際に手段が同じでなければ平等ではないと捉えており,普段の学びと評価を連続的に捉えていない。むしろ「配慮すること」と「公正な評価をすること」を競合するものとして捉えていることが読み取れる。教科で学ぶべき本質的な内容と書きや計算という学習手段とを切り分けて議論を行う必要があるのではないだろうか。
さらに困難の原因を帰属したカテゴリごとにICT利用を認めると答えた教員の割合を求めた。結果をTable1に示す。カイ二乗検定の結果,カテゴリ間に有意な差が認められた(授業中:χ2(3)= 31.198, p<.01,宿題:χ2(3)= 24.207, p<.01,テスト:χ2(3)= 10.339,p<.05)。残差分析から困難の原因を個人の努力に帰属させた教員はICTの利用を認める割合が有意に低かった(p<.05) 。
この結果から,学習困難を改善するためにはより多くの努力が必要と考える教員が現在も多く存在していることがわかる。しかし,特異的学習困難は努力で改善する可能性は低い。したがって,困難なことを反復するのではなく,別の方法で補い学びの本質にアクセスする必要があることを周知しなくてはならない。 今後の教員養成や教員研修カリキュラムへの導入が望まれる。
高橋麻衣子・関口あさか・平林ルミ(2018),テスト場面で子どもたちに求められる「書き」「計算」能力についての調査1-漢字計算のエラーはどのように評価されるか-,日本教育心理学会第60回総会発表論文集,(発表予定)