[PF28] 協同作業認識の変容に基づく学習タイプの探索的検討
大学生の過ごした半期の授業期間に着目して
キーワード:協同作業認識, 学修成果, アクティブラーニング
問題と目的
アクティブラーニングの重要性が,大学教育を含めた学校教育の中で叫ばれて久しい。アクティブラーニングにおける学習プロセスを考える際,協同学習は,大学授業を活性化する理論や技法として指摘されている(安永, 2009)。しかし,協同学習を要とするアクティブラーニングにおいては,学習者が協同作業をどのように認識しているかが肝要であり,認識の差異が学習効果に影響を及ぼす可能性が考えられる。長濱・安永・関田・甲原(2011)は,協同作業に対する認識を測定する信頼性と妥当性を備えた協同作業認識尺度を開発している。なお,野中(2017)は,協同作業認識を構成する「協同効用」,「個人志向」,「互恵懸念」の3因子の特性に基づき大学生をクラスター分析により類型化し,協同作業認識に基づく5つの学習タイプを見出すとともに,学習タイプによって授業形式に対する評定に差違が生じることを明らかにしている。当該研究は,協同作業認識の観点から複眼的に大学生の学習タイプを類型化し,各タイプに対する教育的介入を検討する上で有効な知見となりえるだろう。しかし,野中(2017)の学習タイプは,大学生の1時点を顕在化したものであり,大学生の現実場面における学修に鑑みれば,各授業担当者の創意工夫に基づき設計された正課内外を通じた学びを通して協同作業認識は変容していくことが考えられる。そのため,一定の授業期間による変容を捉えた学習タイプに基づき,教育的介入を検討していくことが重要となるだろう。
以上の議論より,本研究は,大学生の過ごした半期の授業期間における変容に着目し,長濱・安永・関田・甲原(2011)の協同作業認識を構成する3つの観点の変容から大学生の学習タイプを類型化するとともに,学習タイプごとのアクティブラーニングの経験に対する評定に差異が生じるかを探索的に明らかにすることを目的とする。
方 法
調査協力者と実施手続き 調査は,同一大学で開講された2つの講義の初回(2017年4月;T1)と最終回(2017年7月;T2)の2時点において,無記名の個人記入形式の質問紙を配布し,協力を承諾した者を対象に実施した。なお,データの照合を行うため,各質問紙に学籍番号を記入するよう求めた。T1とT2に回答し,マッチング可能であった161名(男性57名,女性104名)を対象とした。
質問紙 (1) 協同作業認識 長濱・安永・関田・甲原(2011)の「協同効用」,「個人志向」,「互恵懸念」3因子18項目から構成される協同作業認識尺度(5件法)を用いた(T1とT2の双方)。(2)アクティブラーニングの経験 畑野・上垣・高橋(2015)の1因子5項目から構成されるアクティブラーニングの経験尺度(4件法) を用いた(T2のみ)。本調査で実施した質問紙には,T1とT2において,その他の尺度も含めて構成されている。しかし,本稿では,研究目的に合致する内容のみを記載している。
結果と考察
協同作業認識を構成する3因子の変容の観点から学習タイプを類型化するため,T2とT1間の各変容得点を算出し,各変容得点に基づきクラスター分析(Ward法)を行った(Cophenetic’ r=.31)。その結果,解釈可能性から4クラスター解を採用した(Table 1)。各クラスターの特徴として,タイプ1は,個人志向上昇型と考えられる。人数比が最も高かったタイプ2は,互恵懸念を備えた協同作業認識向上型と考えられる。タイプ3は,協同作業認識低下型と考えられる。タイプ4は,協同効用が最も上昇し,個人志向と互恵懸念が最も低下したことから,協同作業認識向上型と考えられる。なお,タイプ3を除く3つのタイプでは,協同効用が上昇していた。協同作業認識に立脚すれば,タイプ4の大学生に生じた変容を担保する正課内外の工夫が求められるだろう。一方,タイプ3の大学生に対しては,他者との協同的な学びの意義や有効性を認識できる仕組みが必要となるだろう。一方,アクティブラーニングの経験評定に対して,クラスターを被験者間要因とする分散分析を行った結果,効果がみられなかった(F(3,157)=1.68, p=.173 (η2=.031))。この結果は,各学習タイプにおいてアクティブラーニングの経験に差異がなかったことを示している。そのため,今後は,大学生の協同作業認識変容プロセスに影響を及ぼす正課内外の要因について精緻化した検証が必要となる。
アクティブラーニングの重要性が,大学教育を含めた学校教育の中で叫ばれて久しい。アクティブラーニングにおける学習プロセスを考える際,協同学習は,大学授業を活性化する理論や技法として指摘されている(安永, 2009)。しかし,協同学習を要とするアクティブラーニングにおいては,学習者が協同作業をどのように認識しているかが肝要であり,認識の差異が学習効果に影響を及ぼす可能性が考えられる。長濱・安永・関田・甲原(2011)は,協同作業に対する認識を測定する信頼性と妥当性を備えた協同作業認識尺度を開発している。なお,野中(2017)は,協同作業認識を構成する「協同効用」,「個人志向」,「互恵懸念」の3因子の特性に基づき大学生をクラスター分析により類型化し,協同作業認識に基づく5つの学習タイプを見出すとともに,学習タイプによって授業形式に対する評定に差違が生じることを明らかにしている。当該研究は,協同作業認識の観点から複眼的に大学生の学習タイプを類型化し,各タイプに対する教育的介入を検討する上で有効な知見となりえるだろう。しかし,野中(2017)の学習タイプは,大学生の1時点を顕在化したものであり,大学生の現実場面における学修に鑑みれば,各授業担当者の創意工夫に基づき設計された正課内外を通じた学びを通して協同作業認識は変容していくことが考えられる。そのため,一定の授業期間による変容を捉えた学習タイプに基づき,教育的介入を検討していくことが重要となるだろう。
以上の議論より,本研究は,大学生の過ごした半期の授業期間における変容に着目し,長濱・安永・関田・甲原(2011)の協同作業認識を構成する3つの観点の変容から大学生の学習タイプを類型化するとともに,学習タイプごとのアクティブラーニングの経験に対する評定に差異が生じるかを探索的に明らかにすることを目的とする。
方 法
調査協力者と実施手続き 調査は,同一大学で開講された2つの講義の初回(2017年4月;T1)と最終回(2017年7月;T2)の2時点において,無記名の個人記入形式の質問紙を配布し,協力を承諾した者を対象に実施した。なお,データの照合を行うため,各質問紙に学籍番号を記入するよう求めた。T1とT2に回答し,マッチング可能であった161名(男性57名,女性104名)を対象とした。
質問紙 (1) 協同作業認識 長濱・安永・関田・甲原(2011)の「協同効用」,「個人志向」,「互恵懸念」3因子18項目から構成される協同作業認識尺度(5件法)を用いた(T1とT2の双方)。(2)アクティブラーニングの経験 畑野・上垣・高橋(2015)の1因子5項目から構成されるアクティブラーニングの経験尺度(4件法) を用いた(T2のみ)。本調査で実施した質問紙には,T1とT2において,その他の尺度も含めて構成されている。しかし,本稿では,研究目的に合致する内容のみを記載している。
結果と考察
協同作業認識を構成する3因子の変容の観点から学習タイプを類型化するため,T2とT1間の各変容得点を算出し,各変容得点に基づきクラスター分析(Ward法)を行った(Cophenetic’ r=.31)。その結果,解釈可能性から4クラスター解を採用した(Table 1)。各クラスターの特徴として,タイプ1は,個人志向上昇型と考えられる。人数比が最も高かったタイプ2は,互恵懸念を備えた協同作業認識向上型と考えられる。タイプ3は,協同作業認識低下型と考えられる。タイプ4は,協同効用が最も上昇し,個人志向と互恵懸念が最も低下したことから,協同作業認識向上型と考えられる。なお,タイプ3を除く3つのタイプでは,協同効用が上昇していた。協同作業認識に立脚すれば,タイプ4の大学生に生じた変容を担保する正課内外の工夫が求められるだろう。一方,タイプ3の大学生に対しては,他者との協同的な学びの意義や有効性を認識できる仕組みが必要となるだろう。一方,アクティブラーニングの経験評定に対して,クラスターを被験者間要因とする分散分析を行った結果,効果がみられなかった(F(3,157)=1.68, p=.173 (η2=.031))。この結果は,各学習タイプにおいてアクティブラーニングの経験に差異がなかったことを示している。そのため,今後は,大学生の協同作業認識変容プロセスに影響を及ぼす正課内外の要因について精緻化した検証が必要となる。