[PF39] 性役割期待が受け手に及ぼす影響
自己呈示および不安に着目して
Keywords:性役割期待, 自己呈示, 不安
問題と目的
日常生活において,伝統的な性役割観はさまざまな形をとり,われわれに影響を及ぼしている。「女らしさ」や「男らしさ」という性役割を期待する言葉かけについては,誰しも耳にしたことがあるだろう。柏木(1967)によれば,性役割学習には,自分の性に期待されている役割がどのようなものかを認知すること,および,その役割を演ずることの2つの過程が含まれている。日常生活では実験手続きのような明示された性役割期待はほとんど存在せず,送り手の価値観が内包された言葉かけなどによって暗黙のうちに伝えられることが多いと考えられる。性役割期待が明示されない場合,受け手の受け取り方によって言葉かけの影響は大きく左右されうる。言いかえれば,人は自らの性役割観と照らしながら,性役割期待が内包された言葉かけを認知し,その期待に沿った役割を演じている可能性がある。一方,期待された性役割が自らの価値観に一致しないと認知した場合,その不一致から不安が生じる可能性も考えられる。
以上より,本研究では大学生男女を対象に,以下の2点を明らかにすることを目的とする。(1)暗黙のうちに伝えられた性役割期待を内包する言葉かけであっても,受け手はその性役割期待に沿った性役割に関連する特性の呈示を行うのか,(2)性別や伝統的性役割観の高さによって,言葉かけを受けた後の自己呈示や不安に差がみられるのか。なお,自己呈示については,男性性,女性性,人間性の性役割3特性を扱い,性役割期待に対応した特性を呈示しているのか,別の性役割特性呈示で代替しているのかなどを検討する。
方 法
調査協力者 大学生・院生45名(男性19名,女性26名)。調査協力者は伝統的性役割条件と非伝統的性役割条件に無作為に割り当てられた。
場面設定 男女それぞれで伝統的および非伝統的性役割条件の2種類の3コマストーリーを作成した。性役割条件を(a)刺激人物の自己紹介コメントと,(b)刺激人物からペアとなる調査協力者へのコメントによって操作した。内容は,BSRI日本語版(東,1990,1991)やM-H-F scale(伊藤,1978)に用いられている性役割語を参考に作成した。
質問紙の構成 場面を提示後,不安をSTAI日本語版(大学生用)(清水・今栄,1981)のA-STATE尺度により5件法で,性役割に関する特性についての自己呈示をM-H-F scale(伊藤,1978)により7件法で,伝統的性役割観を性差観スケール(伊藤,1997)により4件法で測定した。
結果と考察
性別および性役割条件,伝統的性役割観HL(平均値に基づいたHigh,Low)を組合せた8群における男性性呈示・女性性呈示・人間性呈示・不安得点の平均値および標準偏差を算出し,それぞれ性別×性役割条件×伝統的性役割観HLの3要因分散分析を行なった。その結果,男性性呈示得点では,性役割条件と伝統的性役割観HLにおける交互作用が有意であった(F(1,37)=4.86,p<.05, η2=.11)。下位検定を行なったところ,非伝統的性役割条件において伝統的性役割観H群のほうがL群より得点が有意に高かった(F(1,37)=4.33,p<.05, η2=.09)。不安得点では,伝統的性役割観HLの主効果が有意であり(F(1,37)=7.36,p<.05, η2=.14),伝統的性役割観L群のほうがH群より得点が高かった。女性性呈示と人間性呈示については有意差がみられなかった。
結果から,男性性は他の性役割特性よりも,性役割を演じる上で重要視されていると考えられる。また,性別に関わらず伝統的性役割観の高さが男性性の呈示に影響していた。加えて,伝統的性役割観が低い人は,性役割期待の内容に関わらず不安が高いことが明らかになった。これらの結果から性役割観に着目する必要性が示唆された。
日常生活において,伝統的な性役割観はさまざまな形をとり,われわれに影響を及ぼしている。「女らしさ」や「男らしさ」という性役割を期待する言葉かけについては,誰しも耳にしたことがあるだろう。柏木(1967)によれば,性役割学習には,自分の性に期待されている役割がどのようなものかを認知すること,および,その役割を演ずることの2つの過程が含まれている。日常生活では実験手続きのような明示された性役割期待はほとんど存在せず,送り手の価値観が内包された言葉かけなどによって暗黙のうちに伝えられることが多いと考えられる。性役割期待が明示されない場合,受け手の受け取り方によって言葉かけの影響は大きく左右されうる。言いかえれば,人は自らの性役割観と照らしながら,性役割期待が内包された言葉かけを認知し,その期待に沿った役割を演じている可能性がある。一方,期待された性役割が自らの価値観に一致しないと認知した場合,その不一致から不安が生じる可能性も考えられる。
以上より,本研究では大学生男女を対象に,以下の2点を明らかにすることを目的とする。(1)暗黙のうちに伝えられた性役割期待を内包する言葉かけであっても,受け手はその性役割期待に沿った性役割に関連する特性の呈示を行うのか,(2)性別や伝統的性役割観の高さによって,言葉かけを受けた後の自己呈示や不安に差がみられるのか。なお,自己呈示については,男性性,女性性,人間性の性役割3特性を扱い,性役割期待に対応した特性を呈示しているのか,別の性役割特性呈示で代替しているのかなどを検討する。
方 法
調査協力者 大学生・院生45名(男性19名,女性26名)。調査協力者は伝統的性役割条件と非伝統的性役割条件に無作為に割り当てられた。
場面設定 男女それぞれで伝統的および非伝統的性役割条件の2種類の3コマストーリーを作成した。性役割条件を(a)刺激人物の自己紹介コメントと,(b)刺激人物からペアとなる調査協力者へのコメントによって操作した。内容は,BSRI日本語版(東,1990,1991)やM-H-F scale(伊藤,1978)に用いられている性役割語を参考に作成した。
質問紙の構成 場面を提示後,不安をSTAI日本語版(大学生用)(清水・今栄,1981)のA-STATE尺度により5件法で,性役割に関する特性についての自己呈示をM-H-F scale(伊藤,1978)により7件法で,伝統的性役割観を性差観スケール(伊藤,1997)により4件法で測定した。
結果と考察
性別および性役割条件,伝統的性役割観HL(平均値に基づいたHigh,Low)を組合せた8群における男性性呈示・女性性呈示・人間性呈示・不安得点の平均値および標準偏差を算出し,それぞれ性別×性役割条件×伝統的性役割観HLの3要因分散分析を行なった。その結果,男性性呈示得点では,性役割条件と伝統的性役割観HLにおける交互作用が有意であった(F(1,37)=4.86,p<.05, η2=.11)。下位検定を行なったところ,非伝統的性役割条件において伝統的性役割観H群のほうがL群より得点が有意に高かった(F(1,37)=4.33,p<.05, η2=.09)。不安得点では,伝統的性役割観HLの主効果が有意であり(F(1,37)=7.36,p<.05, η2=.14),伝統的性役割観L群のほうがH群より得点が高かった。女性性呈示と人間性呈示については有意差がみられなかった。
結果から,男性性は他の性役割特性よりも,性役割を演じる上で重要視されていると考えられる。また,性別に関わらず伝統的性役割観の高さが男性性の呈示に影響していた。加えて,伝統的性役割観が低い人は,性役割期待の内容に関わらず不安が高いことが明らかになった。これらの結果から性役割観に着目する必要性が示唆された。